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― heiwa祝!本誌登場小噺リベンジ! ―
「あっ・・・」

それは音も無く俺の目の前で、ゆっくりと落ちて行く様に見えた。


■ ぱぁ~ん ■


東都大学の犯罪心理学研究会。
まぁ、貧相なサークルの一つなんやったらしいが、俺や工藤が入った頃からはやたらと人数が増えた今では大所帯の人気サークルや。
はっきり言うて何しに来てるんか分からんヤツが多いが、真面目に犯罪心理学について取り組んどるヤツも居って何かと勉強になるから俺は結構真面目に部室に顔を出しとる。
今日も仲良うなった数人の仲間と、この前起こった無差別殺人の犯人心理につて話し合うてたとこや。
部室にはそれぞれが自分用のカップを置いとって、誰が持って来たんかは知らんがコーヒーやら紅茶やらココアなんかがあってそれぞれ各自自分好みの飲み物を作って席に着くのがいつものパターンんやった。
俺はだいたいブラックのコーヒーやが、たまには緑茶やったりコーラやったりすることもある。
今日は俺の顔を見るなり、一人の女がコーヒーを淹れて渡してくれたからコーヒーや。
一口二口飲んで話しに夢中になり、喉が渇いてカップを持ち上げるとコーヒーはすっかり冷めきっとった。
まぁええか、そう思うて飲もうとしたら、
「服部くん、コーヒー冷たくなってるんでしょ?直ぐに新しいのを淹れ直すわ」
言うてさっきの女が俺の手からカップを取ろうとする。
「いや、これでええわ」
「ダメよ。冷めたコーヒーは胃に悪いのよ」
と更に俺の手からカップを奪い取ろうとするから、一瞬俺の指から力が抜けてしもた。

「あっ・・・」

次の瞬間、カップは俺の指を離れ、しかもその女の手にも収まることなく空中に浮いてしもた。
そして俺たちの見てる前で、それはゆっくりと、ほんまにスローモーションの様に落下して行った。
中に残っとったコーヒーが少し空中に出て、カップは弧を描く様に床に向って落ちて行く。
古びた床板に当たると、パァ~ンと音を立ててカップは砕けてしもた。
俺がその時最初に思た感想は、いくら古い板や言うても流石に割れるか、ちゅう間抜けなモンやった。
「ご・・ごめんなさい・・・」
女の謝る声や、周りの大丈夫か、言う声は耳には届いとるが、俺の目は割れて砕けたカップから離れん。
少し大きめのマグカップだったそれは、すでに原型を止めていない程にいくつかのパーツに分かれてしもとって、黒い海に白や青の奇抜な島が浮かんどるみたいや。

いくら空と雲がプリントされたカップや言うても、浮かぶコトは出来んかったみたいやで。

我ながら自分のアホな考えに思わず口元が緩んでしもたんやろ、
「は・・とり・・・くん?」
と少し戸惑った女の声が俺を現実の世界に引き戻した。
「うん?ああ、何でもないで」
「本当にごめんなさい。私、新しいカップ買って返すから」
「そんなんせんでええで」
「でも、私が割っちゃったんだし。私が服部くんに新しいカップを弁償するのは当然でしょ?」
「ほんまにええて」
執拗く弁償する言う女を他所に、俺は割れてしもたカップを拾い集める。
すると他の連中が、ゴミ箱やらぞうきんやら塵取りなん持って集まって来よった。
言うても女なばっかりやけどな。
「服部くん。割れたカップはここに入れて、後で捨てておくから」
違う女が俺の手からカップのカケラを取ろうとするのを軽く手で制して、自分のバックからスポーツタオルを引っ張り出して破片をそれに包んだ。
「え?破片・・・持って返るの?」
また違う女の声がする。
「そや。これは立派な証拠品やからな」
すると、
「おいおい服部よ~。今のは事件と違うぜぇ~」
とやっと野郎の声が掛かった。
「そんなん分かっとるわ」
差し出された雑巾で濡れた床板を拭きながら、自分でも口元が緩むのを抑え付けてどこかぶっきらぼうに返してやる。
「だったら何に使うんだよ。そんな壊れてしまったモン?」
「新しいヤツをせしめるには、ほんまに割れたんやっちゅう証拠が必要やからな」

新しいカップを買わせるには、この破片見せるんが一番やからな。

「だったら私が・・」
「いや。あんたはほんまに気にせんでええって。これは俺の不注意で割ってしもたんやし」
「でも、私が無理矢理服部くんから取ろうとしたから」
「最終的に離してしもたんは俺や。やから、これは俺が割った。それに、あんたには感謝してんで」
そう言って笑ってやると、女は意味が分からんのかマヌケな顔をした。
少し頬が赤こうなってるんは、見んかったことにする。
後片付けが終わると、俺は破片を包んだタオルをバックに戻し他の荷物も持って部室を出る準備をする。
「もう帰るのか?」
さっきまで一緒に話し込んでいた野郎が、まだあの犯人心理は結論が出てないぜ、と珍しく議論の途中で帰ろうとしている俺に待ったをかけた。
「悪いな。ちょう行くとこがあんねん」
女共のギャァギャァ言う声は煩いが、俺は構うことなくドアに向う。

「和葉ちゃんによろしくな」

そんな俺の背中に、今までダンマリを決め込んでいた工藤の声がした。
足を止めてちらっと振り返ると、ニンマリとした工藤のやらしい笑いを含んだ顔と目が合う。

ばればれかい・・・

「分かっとるんやったら、明日の代弁も頼むで」
「駄賃は高いぜ」
「ええモン持って帰って来たるわ」
「蘭が喜ぶモノにしてくれ」
「任せとけや」
周りのヤツラには分からん、俺らだけの会話。
俺が部室を出た後には多分、一斉に周りのヤツラから工藤は突っ込まれ色々質問攻めにされるやろ。
それは推理するまでもない事実で、工藤のヤツも肩を落として先に溜息ついとる。
「ほな。頼むで」
俺はそんな工藤に色々な意味を込めた言葉を投げて、早足で部室の外に出た。
すると途端に中から何やら大きな声がしとるが工藤なら上手くやってくれるやろと、逸る気持ち抑えきれずにいつしか走り出していた足は自分の部屋に向うことはなく真っ直ぐに駅にと向うとる。

和葉に逢える。

今の俺ん中はそれでいっぱいや。
こっちに来てまだ3ヶ月。
自分の気持ちに気付いて和葉に逢いたい思うても、たった3ヶ月しか経ってない為に大阪に帰ることが出来なかった俺。

ぱぁ~ん

と音を立てて割れたカップ。
その音は俺のしょうもない蟠りまで、木っ端微塵に砕いてくれた。

和葉に逢いに行ける。

あいつは俺の顔を見たら、どんな顔をするやろか?
まずは目ぇまん丸にして驚いて、それから突然帰って来た俺に戸惑うやろ。
そしたら割れたカップを見せて、新しいヤツを買うてくれ言うたる。
しかも今度は俺のだけやのうて、お前とペアカップがええ言うて囁いたる。

和葉の顔を早う見たい。

和葉がカップ買うてくれたら、そのまま和葉を連れてこっちに戻って来ればええ。
そしたら、ねぇちゃんも喜んでくれるやろうから、工藤も何も言わんやろ。
上手く行けば、工藤に代弁頼む必要も無くなるしな。
それに、もしかしたら、明日は工藤も俺と一緒にさぼりかもしれんし。
なんせ和葉とねぇちゃんは仲ええからなぁ、みんなで遊びに行こうになるやろうし。
俺は逸る気持ちは新幹線のスピードに任せて、体力温存の為に少し眠ることにした。
まぁ、どうせ寝れへんやろけどな。
それもええ。
こんな気持ちに浸るのも悪うないし。


もうすぐ、和葉に逢える。





「 ぱりん 」
祝!heiwa本誌登場小噺リベンジ!(笑)
前回の話しが私的にどうしても納得がいかなかったのでリベンジです。私は以外に真面目なんです。ふっ・・
しかし・・・またもや和葉が登場してないって・・・・もしかして自爆モノ?(;´-`)...。和葉LOVE・・・
by phantom



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