― 祝!heiwa本誌登場小噺リベンジ!part2 ―
「え・・・」

今、誰も触ってない食器棚の方から音がしたんやけど。



■ ぱりん ■



改方学園大学の創作料理サークル。
午後の講義が1コだけやったから今日は数人の友達と早めに来て、新作お好み焼きの具財をあれやこれやと雑誌やほんもんの食材を前に皆でわいわいと相談してる時やった。

ぱりん・・・

何の前触れもなく、その音は今日はまだ誰も触っていないはずの食器棚から聞こえてきた。
気になって覗いて見ると、あたしのマイカップが綺麗に真っ二つ。
「なんと不吉な・・・」
空と雲模様の大きなマグカップは、あたしが平次に餞別として上げたカップと密かにお揃いのモノやったのに。

平次に何かあったんかも・・・

そう思うたけど、平次があっちに行ってからは碌に連絡も取ってへんから何か電話もメールもしずらい。
結局今度おばちゃんに会うた時にそれとなく聞いてみよ、と自分でも笑うてまうような気弱さでカップをテーブルの上に出してそのまままた元の席に戻り皆と食材選びを再開した。
ほんで3つの案を実践してみようと、後から来た数人の友達とグループに分かれて新作お好み焼きを作ることに。
食材によっては四苦八苦しながら小さく切り刻んで、生地に混ぜ込んで焼き始めたころにはすべての講義も終わったんか窓の外が賑やかになとった。
「なんか今日はえらい騒がしいなぁ〜」
隣であたしの手元を覗き込んでいた友達が、窓の外に目をやりながらそうぼやいた。
「ほんまやね」
アタシは気の無い返事を返しながら、お好み焼きもひっくり返す。
よしよし、ええ按配に焦げ目も付いてるやん。
「なぁなぁ、ほんまに何かあったんとちゃう?」
アタシはジュ〜ジュ〜とええ音させえてる目の前のお好み焼きに集中したいのに、同じグループの仲間は外の音が気なって仕方ないみたいや。
「どうせまた何かの取材でも来てるんとちゃうん?」
「そうなんかなぁ?それにしてもキャ〜キャ〜煩いような」
「そんなんほっときや。アタシらには関係ないし。それより、どうやこれ。ええ匂いもして来たやん」
今年の改方学園大学には何や知らんけどアイドルやモデル並にかわええ娘が居って、その子の取材にしょっちゅうどこかしらの雑誌の人らが来とるから、今更少々煩いくらい気にすることやない。
アタシにはこのすばらしくええ匂いのする、目の前の物体の方が数倍も気になるし。
「そやけど・・・近付いて来てへん?」
まだ言うかい。
そう思うて顔を上げてみると、アタシ以外のほぼ全員が窓の外や廊下を覗き込んでいる有様やった。
「あんたらなぁ〜。もう先輩まで、せっかくのお好み焼きが焦げてまいますよ〜」
って誰も聞いてへんし。
あたしは溜息零して、せっせと3つのホットプレートに乗かってるお好み焼きを一人で順番にひっくり返していった。
よしよし、どれもええ感じやん。
「あっ・・・あっ・・・」
「か・・和葉・・・」
「分かってるて、ソースは少なめにするんやろ」
すでにテーブルに出されとる、以前に作っておいたサークルオリジナルソースに手を伸ばす。
「えらい色のお好みやなぁ。何が入ってんねん?」
「これは、トマトとパプリカとベー・・・」

え?

慌てて振り返ると超、超どアップで平次の顔。
「!!!」
反射的に後ろに下がろうとしてモノに当たり、ガタッと半分体が下にずれる感じでなんとかテーブルに肘を付いて持ち堪えた。
「なっ・・なっ・・」
「こらっ!なんじゃそのリアクションは?」
とか何とか言いながら、ずり落ちそうになるあたしの体を片手で軽々と支えてくれる。
「なっ・・なんで?何であんたがここに居んの?」

「そりゃ〜お前に逢いに来たからに決ってるやんけ」

「は?」
ニコニコしながら今とんでも無いコト言うたやんな。
「な・・何か用なん?」
突然の平次の登場にプチパニック状態のあたしは、引き攣る顔のままそう返すのがやっと。
「カップが割れた」
「はい?」
カップ?
カップって・・・カップ?
あたしの視線は自然と、さっき勝手に自滅したあたしのマイカップに動いてしもた。
すると平次もそれを追ったんか、
「どないしたんや、あれ?」
と聞いてくる。
「さっき勝手に割れてしもたん」
「ほぉ〜」
何気ない返事の割には、真剣にカップ睨み付けてるような。
「俺のと同じやな」
あっ!しもたっ!
平次にはあたしが同じカップ持ってるん内緒にしとったのに。
「あっ・・あれな・・」
あたしが一人あたふたしとる間に、平次は自分のバックから何やらタオルに包まれたモンを引っ張り出した。
「ほれ。俺のも同じや」
大事そうにタオルから現れたソレは、あたしのと同じ様に割れてしもたカップ。
ああ・・・そうか。
割れたのが同じ、いう意味ね。
そう思ってほっと肩の力を抜いたのに、
「そやけど。すでにお揃いのカップやったとわな」
とまたもやあたしの心拍数を上げる様なコトを言う。
「や・・やから・・・あれは・・・」
何て言い訳しようかと視線を平次以外のモノに彷徨わせて、あたしは自分の置かれている現状に気が付いた。

ちゅ・・注目の的やん・・・

一緒にお好み焼き作っとった友達はもちろん、その他ぎょうさんどこから湧いて出て来たん、いうくらいの視線の嵐。
ただ呆然としたモノから睨み付ける様なモンまで、多種多様な視線があたしらに集中しとるやん。
一気にあたしの顔に血が上る。
それなのにこんな状況なんに、平次はのほほんと、
「こんなカップまで一緒に割れるなん、俺らほんまに気が合ういうかなんちゅうか」
言いながら自分の頭をかいとるし。
ほんまにどないしょ?

「あの、服部平次さんですよね?」

ぶつぶつ言うてる平次の声しか聞こえへんかったこの部屋に、今の状況を打破してくれる声がした。
あたしも周りの皆も一斉にその声の持ち主に視線動かしたんは、当然やろ。
その人物は噂の超かわい子ちゃんやった。
名前、何やったけ?
「あの・・・」
ほんまに皆その子を見とるのに、当の平次は未だに自分の世界に入っとるみたいで、信じられへんけど気付いてへん。
「平次、平次」
あたしが小声で囁いて袖を引っ張ると、やっとこっちの世界に戻って来てくれたみたいや。
それでも、「何や?」いう顔しとるけど。
「呼ばれてんで」
「は?誰に?」
今度もあたしの視線を追って、やっとその子に気付いたみたいや。
「服部平次さんですよね。私、ずっとあなたのファンなんです」
その子は顔を少し紅くさせて、最上の笑みを浮かべて、両手を体の前で組んで、そう平次に訴えかけた。
その姿は女のあたしから見ても、グッとくる程にかわええ。
それやのに、
「そら、おおきに」
って言われた本人はあっさり流してしもたわ。
しかもすぐに視線あたしに戻して、
「ほな、新しいカップ買いに行くで」
と自分の荷物持ち上げて、エプロン付けてソース持ったまんまのあたしの腕を引っ張ったから、そこら中で響きが起こった。
そら、起こるわな。
「ええの?」
「何がや?」
「やから・・・あの子・・・」
この状況で平次に話し掛けるんやから相当自分に自身があったんやろう、真っ青な顔して手が震えてるやん。
平次の対応はあたし的には嬉しいんやけど、その姿を見ると流石に少し可哀想になってしもた。
「ちゃんとお礼言うたやんけ」
「そう・・やけど・・・」
あたしが困った様な顔でその子見たからなんか、平次は溜息付いてグイッとあたしを引き寄せた。
「何がさせたいんか知らんけどな。俺は和葉に逢いに来たんや。他の女なん相手にしとる暇なん無いんじゃ」
「・・・・・・・・」
またまた平次らしゅうないとんでも無いコト言われてしもた。
「ほらっ、さっさとカップ買いに行くで。それとや今度はただのお揃いやのうて、ペアカップにしてくれや」
後半部分はあたしの耳元で、囁くように言われてしもた。
「・・・・・・・・」
唖然と見上げると、平次の顔が少し紅い。
「何とか言えや」
ぶっきらぼうな言い方やけど、目は優しい。
「・・・・・・・・ええよ・・・」
あたしはそう答えるのがやっと。
「よっしゃ!ほな、早せぇ。そやないと、最終の新幹線に間に合わんで」
「今日中に帰るん?」
「そや。お前も連れて行くで」
「え?あたしもなん?」
もう、何がなんやら訳分からん。
「そやから、急げや。カップ買うて、一旦お前ん家まで荷物取りに行かなあかんのやろが」
「そ・・そやね・・・」
あたしは平次に急かされるままに、ソース置いてエプロン外して自分の荷物を手早く用意した。
途中、もう焦げてしもて黒い物体と化したお好み焼きやったモンが気になったけど、無視することにした。
もう、どう足掻いても今の現状を変えることは出来へんし。
あたしの準備が整うと、
「ほな、邪魔してすまんかったな」
と周りの皆に笑顔振りまいて、平次はあたしの腕やのうて右手をしっかり自分の左手と繋いで早足で調理室を後にした。

これは・・・現実?

後ろから聞こえる盛大な響きが、これは現実やとあたしに教えてくれる。

ぱりん

と音を立てて割れた平次とお揃いのカップ。
それを見た時、平次に何かあったんやろかと思うた。
そして、それは当たってた。
それは平次の中での異変をあたしに伝えたかったんや。
きっと平次のカップとあたしのカップは一緒に割れたんやろな。

共鳴してたんや。

新しいモノに姿を変える為に。

今度はただのお揃いやのうて、ペアカップがええんやて。
平次がやで。
この平次があたしとペアカップがええんやて。

真っ直ぐ前を見てる横顔を見上げると、あたしの視線に気付いて「ん?」て笑うてくれる。
やから、あたしもお返しの笑顔。

新しいカップはどんなんにしよう。
2つ合わせたらハートマークが出来るバカップル御用達ペアカップなん選んだら、平次どんな顔するやろか?

あたしらの関係が変わった証拠。


それが、


平次とあたしのペアカップ。





「 ぱぁ〜ん 」 「 こんっ 」
祝!heiwa本誌登場小噺リベンジ!part2 (笑)
やっとこさ真打和葉ちゃんの登場です。
この話は読んでお分かり通り、「ぱぁ〜ん」の続きになります。
あの後、平次はこうやって和葉ちゃんを連れ去ったんですね。
しかし、次に大学に行った時の和葉ちゃんは相当大変な思いをしたに違いない・・・(笑)
by phantom



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