― 祝!heiwa本誌登場小噺リベンジ!part3 ―
「・・・・・・・」

ソレを見たとき、俺の頭に春が来た。



■ こんっ ■



和葉を改方学園大学から連れ出した後向ったんは、和葉がよく行くと言うた女御用達の可愛いモンばっかりが所狭しと置かれた俺には無縁の店やった。
「なっ、かわええモンばっかりやろ?」
「そ・・そやな・・・」
右を見ても左を見ても、更には上を見ても下を見ても、ここはワンダーランドかいっ!いうくらい色が溢れ、キラキラしとって摩訶不思議な生き物らしきキャラクターがうじゃうじゃ居る。
「ここな、カップなんかもぎょうさん有るんよ」
そう言うて俺の手を引っ張ってったんは店の奥。
壁一面に据え付けられた棚に、これでもかっ!ちゅうぐらいに置かれた「誰が使うねん?」と言いたい様な食器らしきモン。
まさか、ここで選ぶんかい?
思うてたら、和葉はすでに手に取ってみとるし。
「かわええなぁ〜。あっ、こっちもかわええ〜」
俺には到底着いていけん世界や。
その出っ張っとるモンなん邪魔になるだけやんけ、しかも飲み口波打っとたら飲み難いだけやろが。
そう言うたろ思うたら、和葉はすでに次のモンに手ぇ伸ばしとる。
「これも、かわええ〜〜」
さっきから、そればっかやな。
「あっ、これペアカップや!」
その言葉に慌てて和葉が手に持っとるモンを覗き込んだ。
「・・・・・・・」
「ほんまにこれかわええわぁ〜。なぁなぁ平次、これにせぇへん?」
「・・・・・・・」
「こうやって、2つ合わせるとな」
和葉が2つのカップ持って、コンッて音させた。
「なっ、かわええやろ?なっなっ」
「・・・・・・・///////」
「平次?」
「おっ・・おお・・・」
「ほなっ、これ買うて来るな!」
和葉の声がどこか遠くに聞こえ、
はっ!
て我に返った時には、和葉はすでに金払うてる場面やった。

アホか俺!
あんなんどうすんねん!
どっからどう見ても俺に似合わんやろが!どないすんねん俺?!

一人焦ってみても時すでに遅し、和葉はペアカップの入った店の袋持ってニコニコと俺のとこに戻って来てしもた。
「よかったなぁ〜。ええのが直ぐに見付かって」
「・・・おう・・・」
今なら返品出来る!て思うたが、和葉の笑顔がそれを瞬殺した。
そうや、今ここで和葉の機嫌を損ねる訳にはいかへん。
そう思い直して俺は引き攣る顔を何とか笑顔に変えて、和葉の手を掴み急いでその店を後にした。


店を出た後の和葉は終始ご機嫌で、和葉の家に向うまでも、そしてそこから東京に着くまでずっとしゃべり通しやった。
その内容は俺が知りたかった和葉のこの3ヶ月間のコトで、俺は相槌をうったり時々質問を入れたりしながらなるべく詳しゅう聞きだそうと話しの腰を折らんよう極力ツッコミも避け、聞き耳を立てた。
しかしまだ全部聞き出せん内に、東京駅に着いてしもうて和葉はねぇちゃんが居らんことに疑問の声を上げ初めた。
「あれ?蘭ちゃんは?」
「来ぇへんで」
「何で?」
「今何時やと思うてんねん?」
最終の新幹線に乗ったんやから、東京到着は真夜中やで。
「え〜〜?やったら、あたし何所に泊まんの〜?」
「俺んとこでええやんけ」
「はぁ〜〜〜?!!」
「何か不満でもあるんかいっ!」
「平次ん住んでるトコって・・・2部屋も有るん?」
「無いで」
速攻返したった俺の答えに、和葉は絶句してしもた。
しばらく固まっとったけど、突然そそくさとバックから携帯出して掛け始める。
「こらっ!どこに電話してんねん?」
「蘭ちゃん」
「あほか!こんな時間に迷惑やろが」
ぶつくさ言うてる和葉を無視して携帯取り上げ、自分のポケットに押し込んだ。
「そんなにねぇちゃんに会いたいんやったら、俺が工藤に言うてやるから」
と自分の携帯で工藤に電話する。
この時間やったら工藤は余裕で起きとるからな。
「俺や。約束通り和葉連れて帰って来たで」
俺の手から携帯取ろうとする和葉をかわしながら、
「そやな。ほな、明日」
と早々に通話を終わらせた。
「平次!!」
「ねぇちゃんとは明日会えるようにしたったで。これでええんやろが?」
「そんなぁ〜〜」
「つべこべ言わずに大人しゅう来い!」
未だ納得してへん和葉を半端引きずるようにして、俺のアパートまで連れて来た。
「平次ここに住んでるんやぁ〜」
さっきまでの不満は何所へやら、和葉は5階建てのその少し古びた外観を大げさに見上げて、そう言うた。
「まぁ外見は古臭いけどな、中はそこそこ綺麗やで」
「そうなんやぁ〜」

「よう服部〜。珍しいじゃんか、お前が女持ち帰りするなんてよ〜」

和葉の声に被るように聞こえて来た、俺と同じ学部んヤツの声。
「ほっとけや。ほら、さっさと行くで」
俺はコイツはあんまし好かん。
やから早々に部屋に行こうとしたら、
「ねぇねぇ彼女なんて名前?」
と俺やなく和葉に声掛けてしもた。
「あんたこそ誰なん?」
「オレ服部と同じ学部の・・」
「やっぱええわ、聞いても覚えられへんし」
和葉は俺の顔をちらっと見て、ソイツの言葉を途中でばっさり切りよった。
「早う行こ、平次」
和葉は俺の一瞬の表情を読み取ったんやな。
俺がコイツのことよう思うてへんことを。
俺の手を引っ張っる和葉に連れられながら、
「ほな、そういうことや。それと、もうこの女に声掛けたりすなや。俺のやからな」
とこんなヤツに和葉の名前を教えてやる必要なんないから、この女、いう表現を使うた。
苦虫を噛み潰した顔をして睨み付けてくる野郎なん置き去りにして、俺は再び和葉の手を引いてアパートの階段に足を掛けたら、和葉が少し心配そうに俺の顔を下から覗き込んできた。
「気にせんでええで」
「そうや・・・なくて・・・」
「何や?」
「この女は・・・平次のなん?」
自分を指指して、真剣な表情で聞いてくる。
大きな目がウルウルして、プルンとした唇は今はきゅっと結ばれとって、俺の心拍数は一挙に跳ね上がってしもた。
ごくっ、と自分の喉が鳴る音まで聞こえて来る。
俺が何も言わへんからか、和葉の眉が少し下がった。
「俺はそのつもりや・・・・・・お前は・・・どうやねん?」
大きい目が更に見開かれ、
「さっき選んだペアカップがあたしの気持ち」
と顔紅うして大きな目は見えへんようになった。
さっきのペアカップ?
あっ、俺の顔にも血が集まってくる。

つまり、あれと同じコトをしてもええと?

思うた時には、体は先に行動に移しとった。
両手は塞がれとったから、ほんまにあのカップと同じ体勢で顔だけをそっと近付けて和葉の唇に自分の唇を重ねる。
生まれて初めて感じる感触は、癖になりそうな程気持ちのええモンやった。

「うっほんっ!」

せっかく人生初の気分を味わっとったのに、無粋な傍観者のせいで台無しや。
「そんなコトしてていいのかよ服部。ファンの女の子達が泣くぜ」
コイツ、ほんまにうざいヤツやな。
「彼女もさぁ〜。そんないつも周りに女引き連れてるような男は止めといた方がいいぜ」
「ご忠告どうも」
俺が何か言うよりも早く、和葉が答えた。
それに気を良くしたのか、アホは更に戯言をのたまうた。
「どうせすぐに捨てられるんだからさ。今のうちに他探しなよ」
戯言とは思うても和葉の表情が気になって横目でみると、その口元は笑みを形どっとった。
「心配してくれるんはありがたいんやけど、あたしの平次は絶対にあたしを裏切ったりはせぇへんから、余計なお世話やわ」
そして、その口元からは出た台詞がこれや。
「随分、自分に自身があるんだ」
「あんたの耳は笊なん?自身があるんはあたしんことやのうて、平次のことやで」
「くっ・・・」
アホがごっつい目で和葉んこと睨んどるから、ここらで俺がトドメを刺しとこか。
「ええ加減にせぇや。さっき忠告したったやろが。この女に2度と話し掛けんなて。この落とし前、どうつけてくれるんや?」
和葉を隠すように前に出て、ドスの効いた声で睨み付ける。
するとや、このアホは見る間に真っ青になって、
「お・・覚えてろよ服部・・・」
とお決まりの台詞残して逃げ出しおった。
ほんまに、何しに出て来たんやあのボケ。ウザ過ぎるで。
それに和葉や。
「こらっ。お前もあんまし男挑発するなや」
相変わらず俺の両手は塞がっとるから、顔を近付けて睨んで言うたった。
そやけど和葉には俺の睨みなん、まったく効かへん。
「やってぇ〜。平次のコト女ったらしみたいに言うんやもん〜」
「そんなしょうも無いコト聞き流せや」
「あかん!平次の悪口言うてええんはあたしだけなんやから!」
「・・・・・・・」

これは・・・喜んでええんやんな?

そう思うてもっかい気持ちええ思いしよ思うたら、和葉がさっさと顔背けてしもた。
「そやけど・・・平次・・・やっぱかわええ子に囲まれてるんやね・・・」
しかも声まで今までとは違うて、しょぼくれとる。
あかん!
和葉の機嫌が急降下してまう。
「そ・・それも気にすな」
「否定せぇ〜へんのや・・・」
「あっ・・いやっ・・」
何んか言え俺。
こう和葉のご機嫌が復活するような劇的にええ台詞を言うんや俺。

「ええなぁ〜その子ら、いっつも平次の側に居れて。平次の隣は、あたしの指定席やったのに・・・」

俺が痺れる台詞思いつくより早く、和葉に呟かれてしもた。
心臓一刺しの台詞を。
何気なく呟かれたソレは、紛れも無い和葉の本音。
俺が和葉のコトを想ってたんと同じに、和葉も俺のコトをずっと想ってくれとった証拠。
「俺の隣は、いや、右も左も前も後もや。これから先も俺の周りは全部お前の指定席やで」
「ほんまに?」
振り返った顔はまだ半信半疑の表情や。
やから、
「今夜からは俺の上も下も和葉の指定席にしたるわ」
と付け加えてみた。
一瞬ぽかんとした顔が、次の瞬間には街灯の明かりですら十分に分かるくらい真っ赤に染まった。
どうやら、これが俺の痺れる台詞になったようや。
下手にあれこれ考えるより、自分の気持ちを素直に言うた方が和葉には効果的らしい。

よっしゃ!
こまま一気に和葉喰うたろ!

元々そのつもりやったしな。
それからも俺は和葉の耳元でずっと自分の本音を囁きながら、部屋に連れ込んでそのままベットまで誘導した。

こんっ

とくっ付いたペアカップみたいに、

こんっ

と和葉の額に自分の額をくっ付けた。

カップは俺と和葉が持つからばらばらになってまうけど、俺らは一生離れへんように。
そう願って、くっ付けた。

「一生離れへん」

離さへん、やなく、離れへん。
俺が和葉から離れることは一生無い。
もちろん、和葉が俺から離れることも一生無い。

「あたしらは一生離れへんよ」

俺らの願いは一緒や。



ほな、遠慮のう頂きます。





「 こんっ 」 「 どんっ!」★
祝!heiwa本誌登場小噺リベンジ!part3 (笑)
コメントが思い付かない・・・(´・_・`)
by phantom



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