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■ サクラチル ■。。。 |
「和葉・・・。考え直さぬか・・・。」 広い和室には、和葉と服部家の現当主である吉衛門の2人。 和葉はゆっくりと首を左右に振った。 「そうか・・・・・。平次にはわしの後を次がせるよって、お前にやるわけにはいかん。」 祖父が孫娘に言い聞かせるような口調ではあるが、その言葉に含まれる意味は違う。 和葉は唇が切れるほど噛締た。 そして、何かを決めたかのように吉衛門を睨み返し、 「ご隠居さまのおっしゃりたいことは分かってます。そやけど・・・・お言葉には従えません。」 と言い放したのだ。 「覚悟は出来とるんやな。」 「はい。」 吉衛門は体の力を抜き、肘掛に持たれかけた。 「やったらお前の覚悟。どれ程のものか見せてもらおうかのぉ。」 その言葉と同時に障子が左右に開かれる。 手入れの行き届いた日本庭園に、袴姿に真剣を携えた数人の男。 「こやつら全員倒してみせい。」 服部は武道でも名を馳せている。 特に剣道においては、平次でさえ勝てぬ者が多い。 その剣客を一同に、しかも竹刀ではなく刀を携えた者達を相手にせよと、吉衛門は和葉に言っているのだ。 つまり、勝たねば命は無いと。 和葉は制服のスカートを強く握りしめ呼吸を整えると、静に立ち上がり庭に下りていった。 最初の者が斬りかかって来た。 和葉は相手の動きに合わせ体を半歩ずらし、両手で手首を捕まえると勢いを殺さずにそのまま投げ飛ばした。 その反動で手から離れた刀をすかさず掴む。 初めて手にする真剣は和葉の予想以上に重かった。 「ほう・・・。やはり、やりおるのう。しかし和葉よ。お前に真剣が扱えるかのうぉ。」 吉衛門は映画でも観ているかのように、楽し気に声をかけた。 「あたしやって、伊達に平次の側におった訳やない!」 両手でしっかりと刀を構えると、向って来る相手に挑む。 刀同士がぶつかり合う鈍い金属音。 剣道の試合で平次がやっているように、相手の力を流すように払い落とす。 下に流れた刀を両腕の力を振り絞って、目の前の体目掛けて叩き込んだ。 「刀背打ちなどしておる時ではないぞ。」 吉衛門の言う通りなのだが、和葉には憎くも無い者を斬ることなど出来はしない。 「うっ・・・・・・・。」 和葉に胴を入れられた男が刀を闇雲に横に振ったのだ。 それが、和葉の左足を傷つけた。 スカートが切れ、太腿から大量の血が流れ出す。 「ほらのぉ、情けなどかけるからそういう目に遭うんじゃ。」 余りの痛さに和葉は、左足に力が入らない。 だが、ここで弱音を吐くわけにはいかなかった。 次から次へと、振り下ろされる刀を必死でかわしていく。 それでも、動きの鈍くなった体には少しずつ傷が増えていってしまう。 右腕、背中、脇、和葉の体はだんだん全身が血に染まり始めた。 「 和葉 ―――――――――――――――― !!!!! 」 意識が朦朧とし始めた和葉の耳に飛び込んできたのは、平次の叫び声だった。 「やはり来てしもうたか・・・。」 平次は止めようとする者を振り切って和葉がいる場所まで走り込んで来た。 がそこで、さらに4・5人の男に押さえ付けられてしまった。 「か・・ずは・・・・・・・。」 平次の目に映ったのは、傷だらけになりながらも必死に立っている和葉の姿だった。 「和葉!!和葉!!」 「・・・・・・・・・・平次・・・・。」 和葉の目は、もうはっきりと平次の姿を捉えられない。 「じじぃ――――――!!」 平次は吉衛門を睨みつけた。 だが吉衛門は廊下に立つと和葉に、 「和葉よ。これが最後じゃ。平次以外の者を選べ。さすれば、お前の生涯はわしが保障してやるぞ。」 と悠然と問いかけたのだ。 和葉は再びゆっくりと首を振った。 「強情な娘よのぉ。」 そう溜息を付くと今度は、 「惚れられたもんよのぉ平次よ。お前はどうするつもりじゃ。このまま和葉を見殺しにするか。」 と平次に問いかける。 「俺は・・・・・・・・・・・・・俺・・・は・・・・・・。」 平次とて和葉以外の女など考えられはしない。 だが自分の返答次第で和葉が助かるのなら、そう思わずにはいられなかった。 「・・・・平次・・・・・・あたしんことは・・・・・もう・・・・・ええ・・・よ・・・・・・。」 和葉の目からは、初めて涙が溢れ出した。 「・・・・・・・・あた・・・・し・・・・は・・・・・・もう・・・・・・ごほっ・・・ごほっ。」 和葉は咳き込むと大量に吐血した。 脇腹に受けた傷は、内臓にまで達していたのだ。 「和葉!!和葉――――――――――!!!」 平次は掴んでいる手を振り解こうともがくが、屈強な男たち数人に押さえつけられて和葉に近づくことすら出来ない。 「あかんで!!諦めたらあかん!!和葉!!」 和葉はもう一度平次の方を見てから、吉衛門に向き直った。 そして、誰にも止めることが出来ない程の勢いで吉衛門の心臓目掛けて切りつけたのだ。 「そやけど・・・・・ご隠居さま・・・・にも・・・・・お供してもらいます・・・・・・・。」 その場にいた者すべてが、動けずにいた。 和葉は吉衛門の返り血を浴び深紅に染まっていく。 一時の静寂。 「バイバイ・・・・平次・・・・。」 血で染まった刀で今度は自分の心臓を貫いた。 「 かずはぁぁ ――――――――――――――――――――――― !!!!! 」 平次の悲痛な叫びは、男たちの力を緩めさせた。 自分を押さえつけていたすべての腕を振り解き、平次は必死でゆっくりと後ろに傾き始めた和葉の体を受け止めた。 「あほう・・・・じじぃになんお前やる気はないで・・・・・・。ちょ・・・・・我慢せぇや・・・・・・。」 「ああぁっ・・・・・・・。」 平次は後ろから強く和葉を抱きしめると、和葉を貫いている刀を押さえつけそのまま自分の心臓も貫かせたのだ。 「ぐっ・・・・・・俺が一緒にいったる・・・・・・・・・もう・・・・・ぜっ・・・たい・・に・・・・はなさ・・・・へん・・・・・ 和葉・・・・・・・・・・・。」 和葉はもう答えることはなかった。 平次も愛おしそうに和葉を抱きしめたまま、その場にくずおれていったのだ。 2人の上に、桜の花びらが舞い散っていく。 和葉を抱きしめた平次の腕は、死したのちも決して解かれることはなかった。 |
後編につづく |