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平次の爆弾発言に、あたしと上羽くんはお口を開けて一時停止や。
ちょこっとだけ呼吸も忘れてしもたけど、そこは慌てて深呼吸で補給完了。
やけど酸欠の頭は動きが鈍うて、ツッコミは上羽くんに先を越されてしもた。
「うわっ!オマエどず黒うなってるで!」
ひど。
せめて”福神漬け”くらい言うて上げへんと、平次に失礼やん。
「そうか、そうか。いっちょまえに照れてるんか~。オマエも普通の男やったんやなぁ~~」
何か急にえらいご機嫌になった上羽くんは、平次のごっつう怖い顔なん無視でバシバシその肩叩いてる。
「じゃっかぁ~し~!止めんかこらぁ~!」
ほら言わんこっちゃない、怒らしてしもたやんか。
「そうか、そうか。そうやったんか」
それやのに、まだ笑顔で何か言うきやな。

「”初めてのお使い”ならぬ”始めての彼女”っちゅうことやったんかぁ~」

はい?
あたしは頭に?がとっさに浮かんだんだんやけど、平次は益々”福神付け+α”にアップグレードしてしもた。
初めてのお使い?
”初めてのお使い”って言うとあの時々テレビでやっとる、ちっこい子供が嬉恥ずかしドキドキお買い物大作戦ちゅうアレやんな?

「もしかしたらとは思うてたけど、服部、オマエほんまに今まで女と付き合うたことなかったんやな~」
「うっさいんじゃボケッ」
「オマエが和葉ちゃんのこと相談してきたとき俺らな、オマエはすでにぎょうさんの女と付き合うてきたからそん中に和葉ちゃんが居ったかどうかを迷うてるて思うとったんや。まさか天下の名探偵服部平次がいっぺんも女と付き合うたコトが無いなん思わんやんか。アレだけ放っとっても女が寄ってくるオマエやで、経験豊富て思うんが当たり前やろ」
「悪かったの~見掛け倒しで」
「かまへん、かまへん。こんな初々しい平ちゃんが見られるんやったら、結果オ~ライや」

上羽くん凄いなぁ、ようしゃべるなぁ、て思いながらも、あたしの頭には未だ”初めてのお使い”VTRが流れとった。
しかもVTR再生が止まらんうちにあたしらは、ルンルン気分の上羽くんに引き摺られるようにして絢爛豪華な部屋から出され、そのままの勢いで更にはこれまた近寄るんが怖いような超高級外車の後部座席に押し込まれてしもた。

もう今のあたしにはこの平次がどっちかなん、考えてる余裕すらない。

ちゅうかそんなん一々考えとったら、劇的に変わるこの状況に置いてかれてしまうやんか。
やって、この車のソファーめっちゃ軟らこうてふっかふかなんやもん。
ああ~超~~気持ちええ~・・

「着きましたよ。ここが1軒目ですわ」

え~、も終わらんうちに着いてしもたわ。
・・・近過ぎやん。
これやったら歩いた方が良かったんちゃう?
せっかく人が気持ちのええ現実逃避しとったのに。
マンションの前に堂々の横付けで、あたしと平次はこれまた上羽くんにそこで降ろされてしもた。
社長さんはすぐそこの駐車場に車を置いてから来るそうや。
「先に周辺のチェックするか?」
「そうやな」
アタシがほけ~とマンションの入り口と見上げる首が痛くなる上を向いとる間に、平次と上羽くんはさっさとマンションの周りに沿って歩き出した。
二人の姿がマンションの角を曲がって見えなくなっても、あたしはただぼけ~とそのマンション自体から目が離せん。
京都駅からこんな近くに、こんな場違いなマンションが有ったなんびっくりや。
京都のマンションいうたら、失礼やけど瓦屋根が上に乗かってるんを想像しとったから。
やって京都いうたら和風やろ、お寺やろ、祇園やろ、舞妓さんやろ。
それとコレ、全然関係ないやん。
どっからどうみても場違いな近代建築さんやんか。
しかも自動ドアとか窓枠の部分とか”金”てどうなんよ?
もしかせんでも少しでもちゅうことで”金閣寺”イメージしてんのやろか?
となるとこのマンションは”豊臣派”やな。

「和葉さんの好みやなかったですか?」

アタシが放心状態でしかも少し眉間に皺寄せた微妙な表情んときに、後ろからそう声を掛けられてしもた。
慌てて振り向いたら、やっぱりと言うか当然と言うか、上羽くんのお父上でセレブ不動産屋さんの社長さんやった。
「あ、いえ、ちゃいます。あたしも”太閤さん”は好きです」
「は?」
・・・しもた。
今、”太閤さん”なん関係ないやん。あたしのアホ!
いくらキンキラキンやいうたかて、それをそんまま”太閤さん”に結びつけるなんどんだけ単純やて思われた分からへんやんか。
とにかくこの場を繋がな、平次の奥さんが”天然娘”になってまう。
それはあかん。
いくら”あたしの平次”にそう言われたかて、初対面のお人にそう思われるんはあたしのプライドが恥ずかしい。
あ、プライドは恥ずかしがらんかったっけ?
もうちゃうやろ!
とにかく早う何か言うんやあたし。
「こ、この建物えらい金色を使うてるから、”金閣寺”をイメージしてるんかな?て思うて」
で口から出たんがコレやったけど、返されたんもコレやった。

「ほう~」

この驚きは何やろか?
あたしのことアホやと思た?天然思たん?・・・・・・そうなん?
ぱっと見た感じ平次んとこのおっちゃん似のこの社長さんは、その細い目ぇを結構ギリギリまで見開いてあたしんこと見とるだけなんやもん。
平次んとこもそうやけどこのお人も上羽くんに似てへんなぁ、男は母親に似るいうんはほんまなんやなぁ、よかったなぁ。
って失礼なコトまでを思うてしもた。
やってそれ程じっとあたしんこと見とるだけで、何も言うてくれへんのやもん。
ほんでもって、暫く無言の見詰合い?をしてから、これまた予想外のコトを言われてしもた。

「流石は服部くんの奥さんになった娘さんや。ええ、着眼点してはる」
「へ?」
「その通りなんですわ。このマンションは”Golden Excellency”言いまして、”金の閣下”つまりは”豊臣秀吉”候をイメージして作られとるんです」

マジですか?
今度はあたしがびっくりや。
まさに”ひょうたんからこま”ちゅう諺がぴったりなこの状況。
”ひょうたん”いうたら太閤さんの馬印”千成瓢箪”。
ほんまに”太閤さん”さまさまや。
あたしの名誉を守ってくれてありがとう。
そう思うて改めてそのごっつう立派な名前のマンションを見上げた。

趣味悪。

”さまさまの太閤さん”には悪いけど、この一言に尽きる。
それからも社長さんはあたしの挙動不審には微塵も気付かず”金の閣下”についての説明は、延々と続いてしもた。
どうやらこのお人もえらい”太閤さん”贔屓らしうて、平次と上羽くんが戻って来てもそれは止まることなくエンドレス。
「父さん、熱弁はええから、アレ言うたんか?」
「おおそうやった」
見かねた上羽くんが横槍入れてくれたけど、何やらまだこのマンションには重大なポイントがあるようや。


”太閤さん”に更にプラスされる”アレ”って何やろ?





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