「 鈍感なボウヤ W ―liberty― 」 |
「平次。」 「・・・・・んっ〜・・・・・。」 「平次。」 「・・・・・・・・・かず・・は?」 「平次、あたしもう帰るわ。」 腕の力が強まり、さらに抱きしめらてしもた。 「あ・か・ん・・・・・・。」 「そやけど、今日午後から講義あるし。それに、お父ちゃんにも謝らんといけんし。」 「俺が謝ったる・・・・・。」 平次の声はまだ眠そうや。 「・・・・・・・・・・・・・そんなことせんでもええよ。」 「・・・・・・・・・・。」 「無理せんでもええよ、平次。」 「・・・・・・・・・・何・・言うてんのや。」 「これ・・・。」 あたしはさっき見つけたモノを平次の手に握らせた。 平次の腕が解け、考え込むように動かへん。 その隙にベットから降り、自分の服を身に付けていったんや。 「こっこれは何でもあらへんのや!」 「もうええて平次。彼女いてるんやろ。」 「そんなんおらん!」 平次も慌ててジーンズをはく。 あたしは黙ってワンピのボタンを留めた。 「話し聞けや和葉!」 両腕を強く掴まれても、首を左右に振った。 「あかんて。始めっからこんなんで、遠恋なんかあたしには出来へんよ。」 「和葉が寂しゅうならへんように、俺が会いに行ったる!」 もう一度、ゆっくり首を振った。 「そんなん無理なことくらい平次にも分かってるはずや。」 「無理やない!」 再び抱きしめられた。 「・・・・・・・・・平次は・・・・・優し過ぎんねん・・・・・・。」 あたしは力の限り平次の胸を突っ撥ねた。 「それが・・・・それが余計にあたしを傷付けてんのや!!」 勝手に溢れ出た言葉も涙も・・・・あたしの本心。 ずっとずっと、隠してきたものや。 「もう、これ以上あたしに優しくせんといて!!」 「かず・・・。」 平次になん何も言わせたらへん。 「もう、これ以上平次に振り回されて辛い想いしたないねん!!」 こんなん言うても平次には、きっと本当の意味は分からへん。 あたしがずっと好きやったことなんか、知らへんのやから。 「さよなら・・・・平次・・・・。」 あたしは平次をその場に残して、部屋を出た。 ドアの向こうで、平次が力なく跪く音だけが微かに聞こえてきた。 はぁ〜〜〜。すっきりしたわ。 東京駅に着くころには、あたしは晴れ晴れした気分やった。 まぁ〜、ちょっとは酷いことしたかなぁとは思うけど、あたしの18年間には比べられへん。 これで、やっと初恋がほんまに終わったんや。 あたしは、本当の自由を手に入れたんや。 そやけどあれやん。ほんまにあんなモンがあるなんて思うてへんかったわ。 せっかく用意したのに、いらへんかったやんコレ。 あたしの手にあるのは、小さなピアスの片割れや。 ほんで、平次のベットにあったんは可愛らしいピンキーリングやった。 普通あんなモン勝手に外れへんて。 持ち主の意図が怖いくらいに分かり易うて、逆に可哀想になってしもた。 その彼女には悪いことしてもうたわ。 もうあかんやろな・・・。 ・・・・・・。 ストップ!ストップ! あたしが落ち込んでどないすんねん! これから、ほんまに新しい青春や! そうらもう、思う存分、青春を謳歌したんや。 色んな男の人ともお付き合いしたわ。 世の中には、ほんまええ男ってぎょうさんいんねんな。 例えば、沖田くんやろ、それに侑ちゃん、弘希に、智樹。一護に、銀ちゃんと、そうそう織田くんと、糸魚川先輩も素敵。 え〜とそれから〜、もう覚えられへんくらいや。 やけど・・・・・何でか、あんまし続かへん・・・・。 フラれたいう訳やないよ。 どっちかいうと、あたしがあかんようになってまうねん。 どうしてなんやろ? そんな?を思いながらも、楽しいキャンパスライフは瞬く間に過ぎていったんや。 もちろん、学生の本分たる学業は疎かにはしてへんかったよ。 そやから、こうして一流企業に就職出来たんやし。 今は、社会人一年生やねん。 仕事にも慣れてきて、今度は大人の恋をしてみたいなんて思うてるところ。 そんな時、お父ちゃんからどうしても断り切れへん見合い話がある言われた。 「そんなんいうても、あたしまだ結婚する気あらへんよ。」 「先方はとにかく、一度、会うてくれ言うてんのや。」 お父ちゃんにそないに言われたらあたしも断れへんやん。 しかも、釣書さえあらへんから、名前もなんも分からんのに。 嫌な予感がする・・・。 お見合い当日、あたしは恐る恐る仲人さんに連れられて待ち合わせ場所のホテルに行ったんや。 最近のお見合いは、親族が同伴せず、まずは本人同士が仲人さんの紹介によって顔合わせするんやて。 嫌な予感程・・・・的中率は高いねんな・・・・。 「あっ、服部さんお待たせしました。」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっとり〜〜〜〜〜?!! この時あたしは逃げ出しておけばよかった、って後で何度も後悔するはめになるんや。 「和葉さん、こちら大阪府警にお勤めの服部平次さん。」 よ〜く存知上げております・・・・・。 「服部さん、こちらが・・・」 「遠山本部長のお譲さんで、遠山和葉さん。噂どおりのべっぴんさんや。服部平次いいます、よろしゅう頼みます。」 「こっ・・・・・こちらこそ・・・・・・。」 このめっちゃ好青年的笑顔は仲人さんがおるからやな。 ・・・・・・・・・・・・・・・この男・・・・・・・・・・・何考えてんねん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 あっあたしは、どうしても顔が引き攣ってまう。 爽やかに仲人さんと話してんのは、絶対に演技や! 「では、後はお若い方同士でゆっくりお互いを知り合って下さいね。」 あ〜〜〜待って〜〜〜な〜〜〜あたしを置いていかんといて〜〜〜〜〜! 縋るようなあたしの視線に気付かずに、仲人のおばさんは行ってしもた。 「始めまして、でええか?和葉。」 顔は笑うとるけど・・・・・目ぇ〜が笑うてへん目ぇ〜が!・・・・・・・・・・・・・・・怖。 「ほなっ、行こか。」 へっ?どっどっ・・・・・どこに行くねん・・・・・・・。 あたしは思わず、ぶんぶんと首を左右に振っとった。 「そう遠慮しなや。ええとこ、連れてったるから。」 そう言うと、平次はあたしの手を掴んで・・・・・・・・・・・・・・・・・そのまま同ホテルのスウィートルームへ・・・・・・・・・。 え”――――――――――――――――――――!!!!! 「どやっ。ええとこやろ。」 確かに部屋は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・って・・・ちゃうちゃう!そういう問題ちゃうやんか!! 「なっ・・・・なんで・・・・?」 平次は上着をソファーに投げ、ネクタイを緩めとる。 「そんなん決まってるやんか。お互いをよ〜知るんは、一発ヤルんが手っ取り早いからやないかい。」 「いっ・・・・・・。」 にっ逃げなあかんのに・・・・・。 「へっ平次・・・・今・・・・刑事やんな・・・・・・。」 「そやで。」 「これ・・・・犯罪・・・・ちゃうん・・・・。」 あたしはキングサイズのベットに無理矢理組み敷かれてんねん。 「そんなん気にせんでええて。きっちり責任取ったるし。」 言うてることはともかく、その笑顔がめちゃめちゃ怖い・・・・・。 平次があたしの耳を甘噛みする。 「あっぅ・・・・・。」 「ようも、俺をハメテくれたな・・・・・和葉・・・・・。」 舌が首を舐め・・・・今度はきつく歯を立てられた。 「くっっっん・・・・・。」 「ねぇちゃんから、全部聞いたで・・・・・。」 蘭ちゃん? 蘭ちゃんもしかして・・・・・・・・・・・・・あたしのこと嫌いやったん・・・・。 ジャケットのボタンが外され、ブラウスのボタンも外され、入ってきた手が乱暴に胸を鷲掴みにする。 「ひゃっ・・・・・。」 「その罪贖うてもらうで。」 平次の手が首に掛けられる。 「死ぬまで自由になれるなん思うなや。」 バイバイあたしの青春・・・・・・・・・・・バイバイあたしの自由時間・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 えらい短かかったけど・・・・・・・。 そんでもって、これからの自分を想像して・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 「いっ・・・・・・いややぁ――――――――――――――――――――!!!」 「往生際悪いで和葉。もう諦め、絶対逃げられへんのやしな。」 楽し気な平次に、再びあたしの自由は全部奪われてしもた。 ほんまに・・・・・・・なんもかんも・・・・・・・・。 後日。 「もう、和葉ちゃんたら教育上手なんだから。 服部くんにもっと男らしくなって欲しくて、あんなことしたんでしょ。 18年間好きだったんだから、4年間辛抱出来たのよね。 ほんと、尊敬しちゃうよ。 これからはずっと服部くんと一緒だね。幸せになってね。和葉ちゃん。」 ・・・・・・・・・・・。 蘭ちゃんの誤解は解けてへんかったんや・・・・・・・・。 やけど・・・・・・・・・幸せって何やろね・・・・・・・・・蘭ちゃん・・・・。 今の雁字搦めの生活も悪るないかも・・・・・・・・・・て思うてるあたしがいるから。 『鈍感なボウヤ』 おしまい by phantom |