〜Lively Night〜 08 |
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平次の鈴の音と共に聞こえて来た女たちの声。 甘く囁てるようやけど、ほんまはねっとり絡み付くような欲を含んだ媚びる声。 アタシがここに居ることを知っといて。 アタシが平次と結婚しとることを知っといて。 それでも抑え切れなくて、何気なさを装って平次に近寄って行く女たち。 同級生やから。 クラスメイトやから。 友達やから。 そんなモンは今のアタシには何の理由にもならへん。 ほんまやったらあんな女たちなん、すぐにでもその辺の男使うてお仕置きしたるのに。 『遠山和葉に戻って楽しんどり』平次がそう言うたから。 『ええ子にしとれ』平次がそう言うたから。 今日だけは、見逃したるわ。 ホンマヤッタラ オトコカラアタシヘノ プレゼント ニ シタルノニ… 「和葉、私らも何か食べへん?」 「そやね。ええ匂いしてるから、ほんまは気になってたんよ」 隣に座っていたたかちゃんから立ち上がる気配がしたから、アタシもそれに合わせてテーブルに手を付いたままゆっくりとその場に立つ。 今さっきまで考えていたことなん、微塵も晒すことなく『遠山和葉』としての仮面を被って。 「和葉はそこに居ってええよ。私が適当に取って来るから」 「そやけど、今のたかちゃんにそんなんさせられへんわ」 「どないした?」 アタシらが立ったままどうしようかと話していたら、アタシの直ぐ後ろから河村くんの声がした。 「ああ、タク。私ら料理取りに行きたいんやけど」 「たかちゃんがアタシの分まで取って来る言うんよ。そんなんさせたらあかんやろ?」 「そやけど和葉は…」 「アタシやって料理んとこまで連れてってくれたら、自分のお皿くらい持てるよ」 「やったら遠山はオレが連れてったるわ。伊藤はゆっくりやったら大丈夫やろ?」 河村くんの手がアタシの右手取って、もう片方の手が左の肩にそっと添えられた。 やからアタシは自然と彼に寄り添う形になってしまう。 「…っ」 「どしたん?」 「あ、いや…」 アタシの耳のすぐ傍で、河村くんの喉が鳴る音がした。 それと視線も感じる、胸元に。 ああ、真上からやと胸の谷間がよう見えるんや。 平次が選んでくれる服は、いつも胸元が大きく開いてるモンが多い。 今日のワンピースもスクエアーカットで胸ぎりぎりまで開いてるから、真上からやったら丸見えかもしれへんな。 そう思うたら少しだけ悪戯心が動いてしもた。 何かに躓いた振りをして、彼の体に思いっ切り自分の胸を押し付けてみる。 「だ、大丈夫か遠山?」 「ごめんなぁ。なにかに躓いてしもたみたいやわ」 するとアタシの体は更に彼の体に引き寄せられてしもた。 「掴まっとってええで。その方が安心やろ」 「おおき……あっ…」 彼の体に胸を押し付けたままで体を捻ったら、胸の先が何か固い物に当たって擦られてしもた。 それはほんの僅かな刺激やったけど、その僅かな刺激の中に小さなイタミを見付けてアタシの体は反応してしまう。 モット…モットチョウダイ… あ、あかん。 このままやったら、ミイラ取りがミイラになってまう。 ええ子にしてへんと、平次のご褒美が貰えんようになってまうのに。 慌てて河村くんの傍から離れようとしたんやけど、しっかりと抱き締められとって離れられへん。 仕方無くそのままゆっくりと歩いたら、さっきの硬い物がアタシの胸に何度も当たって軽い刺激と気持ちええイタミをアタシに与える。 「ああ…んっ…」 我慢しきれなくて声が口から零れてしもたとき、グイッと体が後ろに引っ張られた。 「おおきに河村。後はオレが面倒見るさかいええで」 平次。 戸惑う河村くんの気配を押し退けるように、平次が後ろからアタシの体に腕を回す。 「何やっとんねんお前は?」 「やって…」 「やってや無いで。飯が欲しいんやったら誰かに取って来て貰えや。お前がうろちょろすると皆の邪魔になるやろが」 口ではこんな風に言うてても、平次にはアタシの今の状態が分かってる。 やからさり気無く腰に回された指は、服の上からアタシの体に爪を立ててくれた。 「あ…」 「何や?まだ何ぞ言うことがあるんか?」 溜まらず零してしまった声をすかさず平次が怒るみたいに誤魔化してくれたから、アタシは首を左右に振ってそれに答える。 ここで醜態を晒す訳にはいかへん。 「お前は席に座っとれ。オレが何ぞ取って来てやるさかい」 アタシは再びさっきまで座っとった椅子に戻されてしもた。 そして離れ際に平次がアタシの耳元で囁いた。 『新しい人形なん作るんやないで』 そやから、思わず眼を開いて平次の顔がある方向を見上げてしもた。 やけどそれもすぐに平次の手の平で覆われて、「閉じとれ」と優しい声音で注意されてまう。 平次の命令は絶対やから素直に頷くと、温かい手はスッと離れて平次の気配もアタシの傍から遠ざかって行った。 「ごめんな和葉。私が要らんこと言うたから」 「もう何言うてんの。たかちゃんのせいやないやん。平次の言う通り、見えへんアタシがうろちょろしたんがあかんかっただけやで」 「そやけど、服部くんは相変わらずやなぁ」 「そやろ?いっつも煩いんよ」 「そうやのうて。さっきタクが和葉支えてるん見付けたときの服部くんの顔、めっちゃ恐かったんやで?」 「そうなん?」 「一応顔は笑うてたんやけど、その笑顔がこれまた恐いのなんの。タクもびびってたわ」 たかちゃんは笑いながら言うてるみたいやけど、ほんまは笑いごとやない。 昔と違うて今の平次には、きっとホンモンの殺気も含まれてるはずやから。 「それより和葉?」 「何?」 「さっき一瞬やけど、眼開けたやろ?」 「え?」 「さっき服部くん見上げたときに」 「……」 「私も和葉の眼開いた顔が見たいんやけど。もし開けられるんやったら、私にも和葉の眼見せてくれへんかな?」 まさかたかちゃんからこんなコトを言われるなん思うてもなかったから、アタシはどうしてええんか分からなくなってまう。 「こんなんほんま聞いたらあかんのかもしれへんけど、それって和葉の眼なん?」 「違うよ」 「ってことは作りモノ?」 「そやで。平次がアタシの為に頼んで作ってくれたん」 「ってことは、和葉、ほんまに見えへんのや」 「……たかちゃん?」 たかちゃんの言ってる言葉はまるでアタシを疑ってるみたいやった。 「噂なんやけど。あっ、私は和葉んこと疑ったことなんないよ。和葉がそんなんせぇへんことはちゃんと分かってるから」 「でもなんかアタシの噂が在るんや」 「あくまで噂やで。和葉は気にしたあかんよ。実はな、ほんまは和葉の眼はちゃんと見えとって、服部くんと結婚したい為に嘘付いてるんやていうてるヤツが居るらしいんよ」 有りがちな噂やけど、アタシとしは聞き捨てられへん。 「それに今日、和葉ずっと眼閉じてるやろ?やから、ほんまは見えるから見へん振りする為に業と眼閉じてるんやて言うてるヤツも居ったから」 平次が見えへんことが分かり易いようにて閉じてることが、反って皆の疑いを深めてしもたんや。 そやけど今この場で、このぎょうさん男が居るこの場所で堂々と眼を開くことは出来へん。 そんなんしてしもたら、欲しくも無い人形を作るはめになってまう。 「やからな和葉。私にその作りモノの眼見せてくれへんかな?そしたら、私が和葉は嘘なん付いてへんて皆にきっぱり言うたるから」 アタシはほんまにどうしてええんか分からなくて、平次が早く戻って来てくれることを心から願った。 |
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