〜Lively Night〜 12 |
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「やっぱり今日のクリスマス会参加せん方がよかったんかなぁ…」 服部の家に向かうタクシーの中で、アタシは平次に凭れながらそんな言葉を零してしもた。 レストランを出ようとした時、平次とアタシが帰ると知ったたかちゃんとその旦那さんになる人が慌てて追い掛けて来て謝ってくれた。 何度も「ごめんな」て言うてくれた。 せっかくにお祝いの席やったのに何だか酷く悪いことをした気持ちになって、返す言葉が見付からなかった。 ただ首を振って笑顔で「メリークリスマス」と言っただけやった。 もう二度と会えへんかもしれへんのに。 さようなら、さえ言わずにアタシは親友に背を向けてしもた。 「お前の友達は『遠山和葉』に会えたことを喜んでくれたんや。それでええやろ」 「……そやね」 平次の側は温かい。 アタシはこの温もりを選らんだんやから、昔のアタシに未練なんか無い。 そう思うて平次の胸にもっと顔を擦り付けると、リン…と銀の鈴がアタシに答えてくれた。 「この鈴の音、誰にも聞こえへんかったんかな?」 「何や鈴の音がどうのこうの言うてるヤツも居ったけど、お前以外に聞こえる必要が無いからな適当にあしろうたわ」 「そうなんや。こんなに綺麗な音やのに…」 スーツの上着を下から辿った指で、平次の胸に付いている小さな鈴を弾いてみる。 リン…リンリン… 「メリークリスマス平次」 「いきなりやな」 「この音聞いてるとやっとクリスマスやて実感が沸いて来たんよ」 「えらい小っこいクリスマスベルやな」 「ええの。これはアタシのだけのモンやから」 「ほな、これはオレだけのや」 平次がアタシの首に付いている金の鈴をリン…て鳴らした。 「メリークリスマス和葉」 言葉と同時にくれたキスは、タクシーが寝屋川の服部の家に着くまで何度も何度もアタシに降り注いだ。 服部の家に付いて玄関を開くと、その音に気付いたおばちゃんが珍しく慌てた様子で出迎えてくれたから、平次もアタシももう一度仮面を被り直す。 「どないしたん和葉ちゃん?!」 「アホなコイツがうろちょろしよって人にぶつかってやな、そいつが持っとったシャンパンを頭から飲んだんや」 「ちょっと平次!それはあんまりやろ?アタシはやな」 「はいはい。分かったから、そう騒ぐなや」 「とにかく、すぐにお風呂入った方がええわ。平次、あんたはどうしますの?」 「こいつ一人で入れたら何仕出かすか分からんから、オレも一緒にもっぺん入るわ」 「ほなすぐに準備しますよって、平次あんたは和葉ちゃん連れてそのままお風呂に行きや」 おばちゃんはそう言い残すと、パタパタとらしくない音をさせながらアタシらから遠ざかって行った。 「今日はこのまま風呂入ったらさっさと寝るで」 「……」 「約束は篭に帰るまでや」 「……分かってるよ」 「分かっとるんなら、そんな顔すな」 「やって…」 平次はアタシのほっぺたを軽く引っ張ってから、玄関の上がり口にアタシを座らせるとそっとブーツを脱がせてくれた。 そしてさり気無く左脚を持ち上げて、ふくろはぎの内側に軽く歯を立てる。 「小っこい痛みやったら、なんぼでもくれたる。やから、ええ子にしとれ」 「うん…」 今はこれで我慢せんとあかんのやね。 それからアタシは平次に抱っこされてお風呂場に連れて行かれた。 いつものように平次はアタシの服を先に脱がせてくれてから、自分の服を脱ぐ。 そしてお風呂の扉を開けて再びアタシを抱き抱えて中に入り、体の隅々まで綺麗にしてくれるのはいつもんこと。 髪の毛を丁寧に洗ってくれてから、たくさんの泡で体を包み込んでくれる。 耳、首、胸、おへそ、そしてもっとも敏感な場所も。 平次の手がアタシの体中を撫で回していく。 「あ…」 「どうせ、辛抱たまらんのやろ?軽くイカセたるから、声立てるんやないで」 「ん…」 泡に包まれてるやろうアタシの背中に、平次の少し冷たい体が隙間無く押し付けられる。 両手を壁に付いて体を支えると、耳朶を甘噛みされた。 「んん…」 手で胸を下から揉み上げられ、指の間で乳首を強く挟まれる。 やけどその手はすぐにアタシの体に軽く爪を立てながら、下へと降りて行ってしまった。 「ああっ…」 「声出したら止めるで」 「っ…ん…」 思わず口から零れてしもた声に、すかさず平次の声が返って来る。 しかも、耳の中を舌で弄びながら。 下に下りて行った手はもっとも敏感な場所を撫で上げ、更には2本の指がいきなりアタシん中に入って来た。 「んんん!」 「ええ子なんやったら素直にイッとき」 体の中から掻き回され、敏感な部分を刺激され、胸を掴まれたまま乳首を強く摘まれる。 アア…… イタミと愛撫と平次がくれるすべてのモノが、アタシを快楽の渦へと巻き込んでいく。 抗えない感覚に高められていた体は、すぐに絶頂へと昇り詰めてしまった。 「ああぁぁぁ……んんん…」 抑えきれなくて零れた声は、平次の口の中へと消えていく。 アタシは激しいキスを受けながら、平次の腕の中へと崩れ落ちるしか出来へんかった。 それからは朦朧とする意識の中、平次の腕に抱かれたままで湯船に浸かり、お風呂から出たときにはおばちゃんが下着と寝巻き代わりの浴衣を用意してくれてたらしく、いつものように平次にそれを着せてもろた。 そして居間に居ったやろうおばちゃんに声を掛けると、そのままお布団の上まで連れて来られた。 やけど、欲張りなアタシはもう更なる刺激を求めてしまう。 「平次…」 「今日はもう終いや」 「やけど…平次は?」 「オレやったら心配いらん。自分のことくらい自分で処理できるわ」 「やったらアタシが」 「あかん。ここはまだ篭やないで」 「でも…」 「お前はもう寝え。久しぶりの外出で疲れたやろ。ほら、いつもんジャスミンティや」 平次が手渡してくれたんは、多分水筒のキャップ。 小さなそれにそっと口を付けると、まだ温かくてほんまにいつも平次がアタシの為だけに煎れてくれるジャスミンティの香りと味がした。 そしてきっとこの中にはアレも入ってるはず。 分かっていたんやけどこれも平次の優しさなんやと思うて、アタシはそれをゆっくりと全部飲み干した。 「おやすみ、和葉」 平次の声がどこか遠くに聞こえて、アタシの意識は深い闇の中に吸い込まれていった。 次の日、まだゆっくり出来るやろ、て言うおばちゃんの言葉を平次が大学の用事を理由に断ってくれたから、アタシらは朝食を食べて早々に服部の家を後にした。 早く篭に帰りたいアタシは昨日みたいに平次の運転の邪魔をすることも無く、大人しく隣に座っている。 「えらい大人しいやんけ?」 「やって、早う篭に帰りたいんやもん!」 「お前の出不精も相当なもんやな」 「ええの。あっこがアタシの居場所なんやから」 「せっかくなんやし、どこぞに寄ってからでもええやんけ」 「嫌や!帰る!」 平次の楽しそうな笑い声が車中に響き渡る。 昨日、もう忘れたと思うてた昔の自分たちに戻ったから、その影響が未だに残ってるみたいな会話。 あんなコトはもう二度と無いやろ。 平次はもう絶対にアタシを、昔の友達に逢わせたりはせぇへんやろ。 そしてアタシもそれを当然のことやと受け止める。 今のアタシらには、お互い以外に必要なモンなん何も無いから。 マンションに着くと平次は荷物を後にして、まずはアタシを篭まで連れて行ってくれる。 エレベーターに乗ると、もう我慢も限界やった。 「平次、ご褒美は?」 「まだ昼前やで?」 「そんなんどうでもええの。ご褒美!」 平次の首に縋り付いて、首筋にキスをする。 「もうちょい待てんのか?」 「待てへん!アタシええ子にしとったやん!」 「せめて篭に入るまで我慢せぇ」 そう言うからエレベーターのドアが開くと同時に平次を引っ張り出して、大急ぎで籠のロックを解除する。 眼が見えへんでも、いつも使うてるここやったらアタシは自由に動くことが出来るから。 「ご褒美!ご褒美頂戴!」 玄関で平次を押し倒して、自分が欲するままに平次の体を貪っていく。 服を脱がせて、平次の乳首に歯を立てて、体中にキスと愛撫を絶え間なく降り注いで。 アタシだけの平次にしていく。 そしていつしかそれは立場を変え、アタシのすべては平次に支配しされていった。 また閉ざされた篭での生活が始まった。 あの日以来、クリスマス会や同窓会の誘いはのうなったし。 やって次の年のクリスマスまでの間に、5人ものクラスメイトが居らんようになってしもたんやからそれも仕方ないかもしれへん。 行方不明に不慮の事故、そして自殺。 この3人の女は、平次がアタシとの約束を守ってくれたから。 やけど残りの2人については、平次も知らへんと言っていた。 あのクリスマス会に参加しとった、クラスメイトの男と女の無理心中。 その理由を知ってるんは、きっとアタシだけ。 あの時、平次がアタシにタオルを被せる前に、一人の男の視線はすでに”邪魅の眼”に絡め取られてしもてた。 肌に突き刺さるような男の情欲に塗れた視線。 気付かない振りをしとったけど、あれは間違い無く”お人形”になってしもた男のモンやった。 誰に聞いたんか電話が掛かって来た時もそれ程驚くことはなかったけど、このままにしとくことも出来へんと思うた。 やから、囁いてあげた。 甘く、甘く、絡め取るように。 それっきり男から電話が来ることはなかった。 そして暫くして、男がアタシに足を掛けた女と心中したと聞かされた。 ふふ… あの”お人形”はアタシの言葉をそのまま実行したんや。 アタシが言うたたった一言を。 ウマレカワッタラ ゴホウビアゲル… 女の死というプレゼントは確かに受け取ったから、生まれ変わったらご褒美上げなあかんな。 そんな日は絶対に来ぇへんやうろうけど。 ふふふ… これは平次の知らへんアタシだけの秘密。 ”お人形”を作ったら怒られるから、平次に知られることなく壊したアタシの”新しいお人形”。 やけどあの”お人形”は幸せや。 平次に壊されることなく、アタシとのご褒美を夢に見ながら死ねたんやから。 フフフ… アタシはやっぱり篭から出るべきやないかも。 外に出ると必ず誰かが死ぬことになるから。 やからアタシは今日も一人、ソファに凭れて平次が帰って来てくれるのを待っている。 居心地のええこの篭で、平次がアタシの為に作ってくれたこの篭で。 ここで平次に飼われてるんがアタシの幸せやから。 早う帰って来て平次… 平次とアタシ、二人だけのこの閉ざされた世界に。 |
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