〜Lively Night〜 11 |
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『たかちゃん』の旦那んなるヤツの登場で、パーティーはまた新たな盛り上がりを見せ始めた。 飲料メーカーで営業やっとるて自己紹介した男は、爽やかなスポーツマン風の第一印象と違わずに学生時代は野球やっとったらしい。 『たかちゃん』に紹介されて軽く挨拶を交わすと、芦田祐介て名乗ったその男は推理小説も好きで一度オレや工藤に会うてみたかったから今日は楽しみにしとった言うて明るく笑った。 「孝子からよう話は聞いとります。いやあ、嬉しいなぁ」 人の良さそうな芦田て男は嬉しそうに笑いながら、ビールのグラスを手に和葉たちの居るテーブルに優しげな視線を向ける。 この男やったら確かに『たかちゃん』は幸せになるやろし、和葉も一番仲の良かった親友に訪れた幸福を祝ってやれとるやろ。 飲み物を取ろうと和葉たちから離れたんを待ってたかのように、クラスメイトたちがこの男とオレを囲むように集まって来る。 他愛もない話から馴れ初めやプロポーズの言葉なん突っ込んだ話まで、クラスメイトたちの好奇心と祝福の言葉の渦ん中、年上の余裕なんかそれとも営業て職の慣れなんか『たかちゃん』の旦那んなる男は照れた笑顔を浮かべながらもそつなく会話を進めとった。 「せっかくやし、ツーショット会見してもらおうや」 「おお、ナイスアイディア!」 「幸せ分けてもらいたいもんな」 ノリのええ連中に押されて、男が『たかちゃん』を手招く。 ワイングラスをマイク代わりにした即席司会者と矢継ぎ早に質問する即席芸能リポーター、その後ろで視聴者になりきって取り囲む連中が、幸せな2人にからかいと悔しさと祝福を惜しみなく注ぎ、皆で笑った。 ……平和な光景やな。 あの頃のオレらやったら間違いなく中心に陣取っとったハズやけど、今はあんまり居心地のええ場所やない。 クラスメイトたちと一緒に笑いながら胸ん中で苦く笑った時、不規則に鳴る鈴の音と和葉が小さく咳き込むんが聞こえた。 そっと視線を流すと、口元を両手で押さえた和葉に木下が近付いて来とった。 そのまま様子を見とると、和葉はどうやら水に咽たらしい。 気になる事がないワケやないが、クラスメイトたちの興味が『たかちゃん』たちに向いとる今はヘタに動いて注目を集めるよりは、あのまま木下に任せといた方がええやろ。 そう判断して、クラスメイトたちの輪の中であの頃みたいに陽気に笑いながら、意識だけ和葉の方に向けといた。 異変が起きたんは、それからすぐ。 木下と一緒に席を立った和葉が、何かに躓いた。 いや、何かやない。 オレにあからさまな誘いをかけて来とったオンナたちのグループん中、1人だけ声を掛けてくるでもなくただオレの周りをうろちょろしとったオンナがわざと足引っ掛けたんや。 和葉が前に居った男にぶつかってグラスの飲み物を被ったんを見て、そのオンナたちがイヤな笑いを浮かべたんが抑えた照明の下でもはっきり見えた。 ええ度胸やな、あのアマ……。 思わず舌打ちが出る。 それと同時にカラダが動いた。 和葉はオレのモンや。 和葉にケンカ売るんは、オレにケンカ売るんと同じ。 あのオンナどもはそれすらもわからんくらい愚かなんか、それともわかりたなくて我侭通そうとしとるだけのアホなんか。 どちらにしろ、この世に居る価値のない人間やて事だけは確かや。 クラスメイトたちの輪を抜け出して、足早に和葉の元に向かう。 3人の男を前に椅子に座っとる和葉は、オレの言い付けを破って眼を開いて笑っとった。 「あ、服部君……」 木下が持って来たタオルを奪って、男たちの間に割って入って和葉のあの眼を隠すために頭から被せる。 「んっ……」 「何やっとんねん!」 「服部!あんな、俺が……」 「コイツがぶつかったんやろ?スマンな」 「いや……」 乱暴に和葉の髪を拭いながら男たちに口許だけで笑ってやると、どこかぼんやりとした何かに憑かれたような顔しとった男たちが、ビクンと肩を揺らして固まった。 「服部くん、笑顔が怖いで?それくらいにしたげてや。アイツらが原因やねんから」 木下が視線であのオンナどもを指し示す。 「服部くんに相手にされんもんやから」 「みっちゃん……」 タオルの下から零れてくる和葉の声が甘い。 和葉の髪から微かに薫ってくるんは、多分シャンパンや。 飲み頃んなるように充分に冷やされたアルコールが、和葉に心地良い痛みとそこから来る快楽とを与えとるんやろう。 和葉のために誂えてやった義眼はきっと、あの妖しいまでに艶っぽい光を湛えとるハズや。 「服の下に染みとらんか見てくるわ」 「あ、そんなら私が……」 「いや、オレが見る。そんかわり、戻って来るまで男便所には誰も入れんようにしといてくれ」 「……うん。わかった」 頭からタオルを被ったまんまの和葉を抱き上げて、足早に便所に向かう。 あまり大きくはない店やからさほど広くはないが、明るいクリーム色をベースにした便所は手入れが行き届いとって不快感はない。 「ちょお、ここに座っとれ」 男側やから1つしかない個室の蓋をしたままの便器を椅子代わりにして和葉を座らせて、足止めはしてあるが万が一誰かが入って来た時のために、内側に開く扉のドアノブの下に洗面台に置いてあるソープのボトルをトラップ代わりに置いた。 「和葉」 頭に乗せといたタオルを取ってやると、案の定、和葉の義眼は快楽に熱く潤んどった。 「何でオレの言い付け破ったんや?」 「やって……」 「眼ぇ閉じとれて言うたやんな?」 和葉の前に立ったまま、広く開いたワンピースの胸元から指を突っ込んで、ブラの上から乳首に食い込ませるように爪を立てる。 「あんっ!!」 「そんなエロい声上げて、ええ子にしとるて言うたんは嘘か?」 「あっ……う、嘘ちゃう……んんっ!」 「こんなに硬く尖らせといてか?」 ブラん中に指を入れて硬く尖り始めとった乳首をぎゅっと摘むと、和葉はヒラヒラしとるワンピースの袖を噛んで声を殺した。 「んっ……もっと……」 「もっと欲しくて、またオレの目ぇ盗んで『人形』作って遊ぼうとでも思とったんか?」 「ちゃう!!もう『お人形』なんっ……あんっ!」 「オマエが『人形』作るんやったら、オレも新しい『人形』探さなアカンなぁ。折角の同窓会やし、お誘いも受けとるし、あん中から選ぶんもええかもしれへん。どれがええと思う、和葉?」 「そんなんっ……んんんっ!!」 摘んどった乳首に爪を立ててそのまま捻り上げる。 「こんなんなっとって、もう辛抱たまらんのやろ?嘘ついたらアカンで?」 「『お人形』なんいらへん!あっ……アタシは平次しか欲しない!」 「せやけど、オレの言い付け破って眼ぇ開いた。もう褒美はいらんのやろ?」 胸元から指を引き抜いて、和葉から1歩だけ下がる。 「ちゃう!!アタシはええ子にしとりたいんに、そうさせてくれへんオンナが居るんよ!!」 立ったままのオレの声を頼りに見上げて来る和葉が、快楽から来るモンとは違う朱を頬に上らせながら激しく首を振った。 「平次ぃ……アタシ、ええ子にしとったんよ?平次に言われた通りに、みんなが知っとる『遠山和葉』演じとったんよ?平次がそうせえって言うから、アタシ頑張ったんよ?せやのに……」 「ほんなら、何で言い付け破ったんや?」 オレを求めて手を彷徨わせる和葉の前に膝を着いて、そっと包み込むように握ってやる。 「あのオンナたち、平次ん事誘惑しとったやん」 「ああ、ちょお油断したわ」 「それでも、アタシ我慢しとったんよ。ホンマはアタシの平次に触るんやって許せへんのに、黙って流してやったんに……」 和葉の手がオレの手から滑り出して腕を伝い、首に辿り付くとそのまま両腕を巻き付けて抱きついて来た。 「なのに、あのオンナ、氷が溶けて薄くなっとるから新しいんと交換したげる言うてアタシが飲んどったウーロン茶のグラス取り上げて別のグラス持たせてな、何やイヤな予感がしたから飲まずにおったら今度は『飲ませて上げへんとあかんの?』なん嫌味ったらしく言うたん」 「ほんで?」 「しゃあないからちょっとだけ飲んだんやけど、グラスん中入っとったんはな、めちゃめちゃ苦くて辛い得体の知れへんもんやったんよ」 「咳き込んどったんはそのせいか」 「うん。それでも、アタシ我慢したんよ?平次との約束やったから。せやから、みっちゃんに水持って来て貰て、ちょお落ち着こうて思てお手洗い行こうと思ったん」 「そこで足引っ掛けられたんか」 「うん」 甘える和葉の髪を撫でて、耳を噛んでやる。 あのオンナたちは確かに高校ん頃あんまり和葉とは仲良うなかったが、ここまで陰湿な嫌がらせするような関係でもなかったハズや。 何か切っ掛けがあるんやろうが、どんな理由があろうとオレの和葉に手ぇ出した事実の前には些細な事やし、絶対に許せん。 「アタシが躓いてお酒浴びたら、蔑むみたいにクスクス嫌な笑い方したん。アタシ、もう我慢出来ひんくて……」 「それと、眼ぇ開けるんと、どんな関係があるんや?」 「……あのオンナたち、ちょお懲らしめて欲しかったん。見えへんけど、ちゃんと顔見てお願いしたら、聞いてくれるかなて思て……」 「そんなん、他のオトコに頼らんと、オレに言え。オマエが欲しがるモンやったら何でも手に入れたるし、オマエがして欲しい事やったら何でもしたるていつも言うとるやろ?」 「ホンマに?ホンマに何でもしてくれるん?」 抱きついとった腕を緩めて、和葉が見えへん眼ぇをオレに向けた。 「ああ、したるで。オマエが何もかんも全部オレに寄越すんならな」 「アタシは魂まで全部平次のモンや。平次の言う事なら何でも聞ける。どんな事やって出来る。平次もそうやんな?」 「ああ、オレの全ては和葉のモンや。欲しいんやったら、今ここでこの首くれたってもええで?」 和葉の手首を掴んで、綺麗に手入れしてやっとる爪をオレの首筋に当ててやる。 「アタシは平次が欲しいんや。首だけなんいらへん」 細い指でオレの首筋を撫でながら、和葉はゆっくりと首を振った。 「ほんで、何が欲しいんや?」 「あのオンナたち……アタシの平次に言い寄った身のほど知らずのオンナたちが、もう二度と平次の前に現れんように、この世から消して欲しいん。アカン?」 「ええで。次のクリスマスまでには全部墓ん中に放り込んだるわ。楽しみにしとり」 「約束やよ?」 「ああ、約束や。但し、オマエがオレとの約束をちゃんと守れるならやで?」 「アタシ、どんな約束やって守れる。アタシはあの篭で平次に飼われとるんが何よりも嬉しいんやから」 「ええ子やな、和葉」 和葉の背中に腕を回して、褒美に服の上から腰のあたりに両手で強く爪を立ててやる。 「あんっ……」 「ええ口実が出来たし、今夜はこのまま帰るで」 「……篭に?」 「寝屋川のオレの実家や。そう言うてあるやろ?」 「アタシ、篭に帰りたい……」 「今夜一晩、ええ子にしとり。そう約束したやろ?」 和葉を立たせて、オレの上着を肩に掛けてやる。 実家で馴染みのタクシー会社に電話しながら仕掛けたトラップを元に戻して、店から便所へ向かう短い廊下の端にいた木下にタオルを渡して帰宅を告げた。 「残念やけど仕方ないやんな」 「ゴメンな、みっちゃん」 「悪いんはあのオンナたちやん。せやけど、アホな連中やな。和葉に何かしたら服部君がすぐに連れて帰るなんわかりきっとるやん。もしかしたら誘惑リベンジ出来るかもしれへんのに、自分らでそのチャンス捨てて肝心のお目当て逃すんやもんなぁ」 「誘惑リベンジて何やねん」 「アンタは知らんくてもええわ。どうせ結果は同じなんやし」 「……まあ、ええわ。近くに居る連中には挨拶しとくけど、後は適当に言うといてや」 「わかった。ほんなら、和葉、また会おうね」 「うん」 木下が言う『また』は、多分来ないやろう。 また集まらなならん機会があったとしても、今夜ん事を言い訳にして和葉は欠席させられるから。 「最後んなったけど、メリークリスマス」 「メリークリスマス」 「メリークリスマス。たかちゃんにもよろしゅうな」 「うん」 木下に渡されたコートを羽織って、店を出る。 時間は指定しとらんかったが予め帰りん事も告げておいたからか、待つまでもなく来たタクシーはオレの名前を確認しただけで寝屋川の服部家へと走り出した。 |
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