あの時、蘭の悲痛な声を聞いていたら。 もしかしたら俺は、立ち止まっていたかもしれない・・・・・・・・ |
目前で行われる謎の取引。 ―――――――ヤメロ・・・・ 黒尽くめの衣装。 怪しげな言葉。 スーツケースから覗く大金。 ――――――――ヤメテクレ・・・・ 後頭部に鈍い痛み。 反転する視界。 ――――――――イヤダ!! 嘲笑するような声。 ざわめく声。 ――――――――オモイダシタクナイ!! 持ち上げられる頭。 口腔内に無理やり押し込まれた何か。 ――――――――ヤメロ!!ヤメロ!! 全身にはしる激痛。 心臓が溶けていくような・・・・・ ――――――――イヤダ!!モウ、ミタクナイ!! 縮んでいく身体。 消えていく人の気配。 残された・・・・・・・・・ ――――――――ヤメテクレ!!! |
「新一!!」 身体を揺さぶられ、目を見開く。 視界には心配そうに覗き込んでくる蘭の姿。 重い息を吐き、乱れた呼吸と鼓動を落ち着けようとする。 「・・・大丈夫?随分魘されていたけど・・・」 「平気だ。悪い、起こしちまったか?」 「ううん」 穏やかに笑む蘭に心が静けさを取り戻していく。 腕を引き、細い身体を抱きしめた。 「・・・新一?どうしたの?」 「何でもない。ただ・・・・少し、こうしていてくれ・・・」 抱き寄せた身体から伝わる体温。 冷え切った身体に染み込んでいく熱。 何も言わず、背中に回された腕。 「・・・落ち着いた?」 「ああ・・・」 時折夢に出てくる忌まわしい記憶。 どうして俺はあの時立ち止まらなかった。 蘭の傍にいれば、あんな事にはならなかった。 蘭に寂しい思いをさせなかったのに。 後悔しても時は戻せない。 いっその事、全て忘れてしまえたら。 「新一?」 抱く腕が震える。 「・・・もっと、呼んでくれ・・・」 俺の名を。 「新一」 「もっと・・・」 あの時、蘭の悲痛な声を聞いていたら。 もしかしたら俺は、立ち止まっていたかもしれない。 「新一」 「もっと・・・・」 否、きっと立ち止まっていた。 「新一」 もっと呼んでくれ、俺の名を。 そして、信じさせて。 「新一」 ここにいるのが、江戸川コナンではなく工藤新一なのだと。 お前のその声で。 「新一」 どうか、信じさせて―――――――――――――――― |