「 雨隠の館 」 第 二 話 |
「平次ぃ・・・。」 ぶるっ、っと体全体に悪寒が走る。 雨に濡れて寒いんはもちろんやけど、それだけやない。 「取り合えずこれでも羽織うとれ。」 平次は自分が着とったジャケットをあたしに掛けてくれた。 さっきからあたしらは、このなんとも気持ちの悪いお屋敷のドアん前に立ったまんまや。 何遍ドアをノックしても、平次が大きな声をかけても、誰も出てきてくれへん。 灯点いてんのに、人の気配がまったく無いんや。 絶対変やてここ。 「平次・・・諦めよ。誰もおらへんて。」 平次の背中にしがみ付いて、時々振り返ったりしながら辺りを見回す。 やって、まだ昼間なんになんでこんなに暗いんよ。 しかも雨が酷うて、まったく何も見えへんし。 「何言うてんねん。こんな雨ん中、出れるワケ無いやろが。」 「やって・・・・。」 「雨ん音に消されて、オレらの声が聞こえてへんだけや。」 そうなんやろか・・・。 平次が言うことは信じたい。 せやけど、この寒さは雨のせいだけや無いと思うんやけど。 もう一度、改めて見えない周りを見回してみる。 ・・・・・・・・・。 窓から灯が漏れてるからや。 やから、お屋敷だけが白く浮き上がってるように見えるんや。 きっとそうや。 「和葉!」 あたしが余所を向いてると、いきなり平次に呼ばれてしもた。 慌てて平次ん方を振り返ると、平次はドアん方を向いたまんまや。 何やろと思うてそっちを見ると、ドアが少しずれとる。 「あっ。」 思わず声が出てしもた。 「入んで。」 あたしは平次にしがみ付いてるもんやから、そのまま引っ張られるような格好でお屋敷ん中に入ってしもた。 「ひゃっ。」 ほんま何なんここ。 さっきより酷い悪寒が体の底から沸いて来るやん。振るえが止まらへん。 それに、何で今ごろドアが開くんよ。 平次は初めっから押したり引いたりしてたやんかぁ。 しかも・・・・。 しかも誰もおらへんしぃ・・・・。 あたしらがおるんは、玄関言うよりは、だだっぴろうてホテルのロビーみたいなとこやった。 しかもしかもしかも、ドアの鍵開けてすぐに人がどっかに隠れられるようなとこ見当たらへんやん・・・・。 オートロック? ・・・・・・・・・・。この古さからいうて、それは無いやんなぁ・・・・。 あかん。 いらん事考えるんは止めとこ。 謎解きは平次の担当やし。 「 誰かいてるんか〜〜〜〜!! 」 平次の大声にも、相変わらず返って来るモンは何も無い。 返事はもちろんやし、物音一つせぇへん。 「 ほな、勝手に使わせてもらうで〜〜〜!! 」 平次はそう言うとズカズカ歩き出してしもた。 「ちょっと平次。ええの?」 「仕方無いやんけ。誰も出てけぇへんし、こんだけボロなんや家主も細かいことは気にせぇへんやろ。」 「そうやろか・・・・。」 何度見回して見ても、まったく人の気配はあらへん。 それやのに、あたしから見える限り全部の灯が点いてるんは何でなん・・・・。 「この部屋でええやろ。」 あたしらから右手にあった1番近いドアの前で平次が言うた。 「あたしは平次の側やったら、どこでもええよ。」 こんなトコで独りなん絶対嫌や。 Tシャツを掴んでいる手に力を込めて、平次から絶対に離れへんて伝えてみる。 「・・・・・・・・。開けるで。」 平次も少しは緊張してるんやろか? 今度はえらいゆっくりとドアを開けた。 平次の肩越しに部屋の中が見える。 そう、文字通り見えたんや。 ここにも灯が点いてたんやから。 「何やこの部屋?」 珍しく平次が疑問の声を上げた。 けど、あたしも平次に同感や。 ぱっと見た感じは、机や小さいベットが3つあって学校の保健室に似てるんやけど、ここには明らかに違和感がある。 保健室とかって普通は、病人のこと考えて白っぽい色やろ。 せやけど、この部屋のカーテンと絨毯は真っ赤なんや。 毒々しいまでの紅。 「平次・・・・他の部屋にせぇへん?」 こんな部屋、余計落ち着かへんわ。 「ちいとくらい我慢せえ。」 その部屋ん中に、あたしはまたもや引っ張り込まれる形で入ってしもた。 「とにかくお前は着替え。そのままやったら、確実に風邪引くで。」 「せやけど・・・・。」 あたしさっきから”けど”ばっかりや。 せやけど仕方無いやんなぁ、そういう状況なんやから。 あたしが躊躇ってる理由が分かったんか、 「外におったるから、終わったら言えや。」 平次はドアを開けようとする。 ゾクッ。 「やっぱあかん。ここにおって。」 「ええんか?」 「お願いやから。そこにおって平次。」 例えドア1枚隔てた所やっても、こんな場所で平次の姿が見えへんようになるんはどうしても怖い。 「けど、そっちの壁ん方見とってな。」 裸を見られたことが無いワケやないけど、着替えるを見られるんはやっぱり恥ずかしい。 平次が壁に手ぇ着いてじっとしてるんを確認してから、あたしは着替え始めた。 濡れた上から平次のジャケットを羽織ってもうたから、内側まで湿ってしもてる。 少しでもはやく乾くように、裏返してベットにかけることにした。 ハンガーなんてもんはここにはあらへんし、フックすら壁に存在してへん。 自分の濡れた服は、タオルに包んでバックに仕舞うつもりやからええけど。 なるべく音を立てへんように、細心の注意を払いながら服を脱ぐ。 それでも、衣擦れの音は出てしまうもんや。 下着までぐっしょりやったから、ブラのフロントホックを外す音なんかパチッちゅうて部屋中に響き渡ってしもた。 そっと平次の方を見ると、肩がピクッて少し動いたみたいやった。 もう、静か過ぎるんがあかんのや。 「っ・・!」 こん時になって、あたしは初めてそれに気が付いた。 そっからは、もう音なん構わずに速攻で着替えをすませ、真っ赤なカーテンに近寄る。 そして、一気に左右に開いたんや。 「 キャ――――――――――――――!!! 」 「 和葉?!! 」 そこは周りと同じ壁やった。 カーテンの奥に窓なん無かったんや。 |