「 雨隠の館 」 第 六 話 |
遠くに平次の声がする。 平次があたしんこと呼んでる・・・・・・・。 『 我の邪魔をするでない 』 あ・・・・頭ん中に・・・・・・・・女の声が・・・・・・・。 あたしは必死で自分を覚醒させようとしてるんやけど・・・・・・体が・・・・・・金縛りに合うたように動かへん。 しかも、すぐにまた意識が薄れていきそうになってまう。 『 おとなしゅうしておれ 』 「和葉っ!!」 暗い闇に飲み込まれそうになったあたしに、今度ははっきりと平次の声が聞こえた。 「・・・・・・・・・・へぃ・・じ・・・・・。」 必死で目を開けたつもりやったのに・・・・・・あたしの目ぇは開いてたんや。 瞬きさえ出来へんほどに。 『 まぁよい そこで見ておるがよいわ 』 見る・・・・・・・・なに・・・を・・・・・・・・。 女の声が嫌な笑いを含んであたしの中に響いた。 その声にあたしは押さえ込まれてまう。 あたしは寝ている平次を見下ろしてるみたいやった。 平次は何だかとても苦しそうや。 「和葉!!しっかりせぇ!!和葉っ!!」 あたしの指がゆっくりと平次の上を這うように、首から胸へと辿っていく・・・・。 平次の顔が目の前全部になったかと思うたら、あたしの舌が無理矢理平次の唇を抉じ開けて・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・いっ・・・・・いやや・・・・・・。 こんなんいやや・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あたしの・・・・・・・・・・・・・・あたしの平次に触るなっ!! 自分の意思では無い何かに動かされている体を、あたしの意思では動かない体を、怒りの力で押し止める。 『 愚かなことを お前の男に触れているのはお前自身ではないかえ 』 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あたしやない!あたしはこんなことせぇへん! 「・・・・・・・・・・で・・・・・・・て・・・・・い・・・・・・・け・・・・・・・。」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あたしの中から出てけっ!! 得体の知れへん恐怖より、あたしの平次に触れた怒りの方が勝る。 平次を組み敷いた様な体制のまま、これ以上絶対に動かへん。これ以上、平次に触れさせへん。 例えそれが、あたし自身の体であってもや。 「か・・・・・ず・・・は?」 平次がさっきより苦しそうにあたしを見上げてくる。 「・・・・・・・・・あ・・・ああ・・。」 あたしは大丈夫やから。 って言いたいのに声が出ぇへん。 『 小娘が 小賢しいまねをしおって 』 「ぐっ・・・あぁぁ・・・・・・・!!!」 いきなり体中が締めつられた。 手も足も体も・・・・・・首や頭までもが・・・・・・・・。 ぬめぬめしたモンが・・・・・体の表面に巻き付いとる感じ・・・・・や・・・・。 ああぁぁぁぁ・・・・・・・・くぅっ・・・・・・。 体が勝手に反っていく・・・・・・・・・骨が・・・・・・軋しむ・・・・・・・・。 「っん・・・。」 い・・・・息が・・・・・・出来へん・・・・・・。 「和葉!和葉!」 締め付けられて折れそうな首を、痛みに耐えて平次へ向ける。 平次・・・・・平次・・・・・・・。 瞬きすら出来へん目ぇから、涙が溢れだした。 『 お前が死したのち この男は我が存分に喰らうてやるぞえ 』 女の高笑いが再び頭ん中に響く。 ・・・・・・・・・・・・・・・・そん・・・・な・・・ん・・・・・・・させ・・・・・へ・・・・ん・・・・・。 あたしの想いが通じたんか、雷の光が女の正体を浮かび上がらせたんや。 壁にある鏡。 そこから伸びとる白いモンが、あたしの体に巻き付いとる。 あたしは考えるより先に行動に移した。 最後の力を振り絞って、その鏡に体当たりしたんや。 体中の骨が悲鳴を上げとったけど、そんなんどうでもええ。 こんな処で平次を死なせる訳にはいかへん。 こんな得体が知れへんモンに平次を殺させる訳にはいかへん。 ・・・・・・・・・・・・・・・・平次は・・・・・・平次は・・・あたしが守るん・・・・・や・・・・・・・。 |