「 雨隠の館 」 第 十 話 |
カワエロの不気味な後姿を追いかける。 ここは、どうも地下みたいや。 地下言うより、洞窟言うんが合うかもしれへん。 そんくらい暗うて、ジメジメしとって、音が不気味に響いて、さらになんとも言えへんほど生臭いんや。 ティララティティティララ・・・・。 「うわっ!!」 あたしは神経を研ぎ澄ましてたもんやから、突然鳴り出した携帯の音に超過剰に反応してしもた。 ビクッ。 前を歩いとるカワエロの足も、ちょこっと跳ねて止まったみたいや。 この妖怪・・・・・。 あたしが、この妖怪は妖怪のくせに今ビビッタんちゃう?なんいらんこと考えとる間も携帯は鳴りっぱなしや。 急いでショートデニムから携帯を取り出す。 モニターを確認しなくても平次専用の着信音やって分かってるけど、暗闇に浮かび上がる名前を見て安堵する。 平次。 あたしはそれだけで嬉しうなって、こんな時なんに顔が緩んでまう。 姿が見えへんでも、直接声が聞けへんでも、この小さな器械はあたしと平次を繋いでくれてるんや。 そう思うて携帯を開きかけ・・。 バキッ!! 「 ! 」 前の暗闇から伸びて来た白いモンが、いきなりあたしの携帯に巻き付くとそんまま粉々に砕いてしもた。 「・・・・・。」 『 耳障りな音をさせるで無い 』 あの、頭ん中に響いとった声が暗闇ん中から聞こえて来たんや。 ここは寒いはずやのに、あたしの背中には嫌なもんが流れる。 生臭さもさっきより酷うなったような気がする。 「 お嬢、お客さまをお連れしました。 」 右腕を胸に当てるように折り曲げてカワエロは、深く闇に向ってお辞儀をしてる。 その奥の闇を、目ぇに力入れて見ているんやけど真っ黒で何も見えへんのやけど。 ・・・・・・・・何かがおる。 ・・・・・・・・それも・・・・・とてつもなくでっかいモンや・・・・・・・。 暗闇の中にあたしらの方から奥に向って、ぼう、ぼうって炎がいくつも灯っていく。 それやのに闇の方が強いんか、辺りは全然明るくなってはいかへん。 そやけど・・・・そやけどこの息が苦しい程の感じはなんやろ・・・・・。 喉が渇いていく。 唾を飲み込みたいんに、空気だけが喉に入ってまう。 炎だけしか見えへん灯が、最後に今までのより大きく火柱みたいに2箇所で燃え上がった。 丁度、あたしらの正面に。 「あっ。」 その炎の間に・・・・・・。 あれは・・・・・・人形・・・・・・・それとも・・・・・・。 『 よう来たな小娘 』 市松人形みたいな、長い黒髪で振袖を着た女の口が動いた。 真っ黒な髪に真っ白な顔、それなんに唇だけが炎に照らされて真っ紅や。 『 もうちと近こう寄れ 』 その声にあたしの体は勝手に前に進んでまう。 カワエロの横を通り過ぎ、さらに前へ。 何か得体が知れへんもんに全身を舐められる様に見られてる感じがする。 あたしはそれに逆らえへん。 『 小賢しい小娘じゃが 毛色が変わったのもたまには良かろう 』 笑が含まれとる声が響く。 あたしは人形のすぐ前まで来てしもた。 近くで見るそれは確かに人形やった。 やって、一度も瞬きをせぇへんから。身動ぎ一つせぇへん。 それやのに、紅い口だけは人間のように滑らかに動いとる。 もしかして・・・・・・・・・人形の様に見えるけど・・・・・・・ほんまは・・・・・・・。 ゾクッ。 やけど・・・・・・この体が竦んでまうような視線はこれや無い・・・・・・。 恐い。 今までとは、比べ物にならへん恐怖。 『 小娘よ我と博戯を楽しもうぞ 』 女の声は、さっきよりも楽しそうや。 それに、益々あたしの恐怖は募っていってまう。 『 容易い遊びじゃ そちが隠れそちの男がそれを見つければよいだけじゃ どうじゃ造作も無いことであろう 』 何・・・・・を言うてるんやろう・・・・・・。 あたしの頭は女が何を言っているのか理解することが出来へん。 遊び? この状況で? 「 館の中には13体の人間と同じ大きさの人形が飾られております。 」 カワエロがすぐ後ろに来て説明始めたのにも、驚きはせぇへんかった。 「 その中の1体にあなた様を隠させて頂きます。それを、お連れの方が刻限までに見付出せればよいだけのこと。 」 やっぱりよう分からへん。 人形の中に? あたしを隠す? 「 人間の言葉では”かくれんぼ”とか”隠れ鬼”とかいう遊びでございます。 」 『 じゃが見付けられねばそちが新たな人形になるがな 』 女の高笑が木霊する。 そして、2本の火柱が突然大きゅう燃えあがったんや。 「っ!」 青白い炎に浮かび上がる女の正体。 その目に睨まれて、あたしは再び意識が遠のくんを止められへんかった。 |