「 雨隠の館 」 第 十一 話 |
真っ赤な絨毯とカーテンで彩られた、窓のない部屋。 この部屋のどこから音が聞こえて来るんか、余計な情報をシャットアウトするために目を閉じて集中したんと同時に、いきなり音が途切れた。 もしかして和葉が出たんかと慌てて携帯を耳に当てると、呼び出し音も切れとる。 掛けなおしてみたが、今度は呼び出しもなしで通信不能のアナウンスが流れて来た。 和葉の手元に携帯があるんなら、オレからの電話にとっくに出とるハズ。 しつこく鳴らしたんに出んかった上に突然繋がらんくなったのは、拘束されとるんか携帯を取り上げられたんかのどっちかや。 そうやとしたら、携帯は多分もう手掛かりとしては使えんやろう。 和葉を捜す手段は1つ潰れた。 せやけど、ヒントはこの部屋にある。 ぐっと拳を握って気合を入れ直した時、どこからかオンナの嗤い声が聞こえてきた。 「誰やっ!!」 『 おお、恐い。そう大声を出すものでは無いぞ 』 いきなり耳元で声がして勢い良く振り返ったが、誰もおらん。 「和葉はどこやっ!?」 『 心配はいらぬ。我が大切に遇しておるわ 』 また耳元で声がする。 声はする。 そこに何かの気配もある。 せやのに、振り返っても誰もおらん。 オレの背中を、イヤな汗が流れ落ちた。 「和葉はどこや?」 『 心配いらぬと言うておろう?気の短い男じゃ 』 「……和葉をどこにやった?」 『 この邸の内に隠れておる。そちが鬼じゃ。捜してやるが良い 』 オンナが楽しげに嗤う。 良く通る、それでいてねっとりと肌に纏わりつくような、湿った冷たい声。 不意に嫌悪と恐怖とが入り混じったような説明しようのない感覚が湧き上がって、肌が栗立つんがわかった。 『 何、ちょっとした戯れじゃ 』 「戯れやと?」 『 そうじゃ。 我は退屈しておる。雨に難儀しておったそちらに屋根を貸してやったのじゃ、 礼として我を楽しませてくりゃれ 』 オンナのセリフに、一気に頭に血が上る。 そのまま喚き散らしたかったが、唇を噛み締めて何とか堪えた。 「和葉はどこや?」 『 心配せずとも、そちにもちゃんと見える所に隠れておるぞ 』 心底楽しそうにオンナが嗤う。 それに重なるように、邸の裏手の方から鐘の音がした。 『 ああ、ほれ、こうしているうちにも時は過ぎるぞえ? あの鐘が次に鳴るのは、日付が変わる刻限じゃ。 いつもは鳴らさぬ鐘じゃが、今宵はそちのために特別に撞いてやろう。 13の鐘の音が終わるまでに見つけられれば良し、見つけられねば、 娘は14番目の人形にして我が愛でてやろう 』 「絶対に見つけたるわ!」 『 その意気じゃ。さあ、我を楽しませてくりゃれ 』 神経に障る嗤い声を残して、オンナの気配が消える。 反射的に握ったままの携帯を見ると、デジタルの時計が丁度8時になったとこやった。 「……時間の感覚が狂っとる?」 この邸に入ったんは、まだ夕方前。 あれから2時間は経っとらんと思っとったんに、実際は倍以上の時間が過ぎとる。 何かに集中して時間を忘れる事はあるけど、この状況でこんなに狂うなんありえん。 「この邸がおかしいんか?」 頬を流れる冷たい汗を振り払うように、強く頭を振る。 今は和葉を捜す事が最優先や。 和葉はこの邸の中、オレに見える所に隠れとる。 タイムリミットは午前0時。 間に合わんかったら、14番目の人形にする。 14番目の人形。 この邸には、何十体て人形があった。 なのに14番目言う事は、あの大量の人形ん中に特別な13体の人形がある言う事。 恐らくは、それが最大のヒントや。 携帯を操作して、11時50分にアラームをかけてポケットに突っ込む。 「12時の鐘の音が終わるまでて、シンデレラかい。オレは王子様てキャラやないで」 自分を奮い立てるように口に出して、笑ってみる。 蹴破るような勢いでドアを開けて、オレはまた走り出した。 |