「 雨隠の館 」 第 十二 話 |
「・・・・・・・・・はぁ――――!和葉―――――――――!!」 へ・・いじ? 平次の声がする。 頭ん中に・・・・遠くから・・・・聞こえる。 あたし・・・また・・・寝てるんかな。 体動かそうとして、まったく動かへんことに気付いた。 何で? ・・・・・・・・・・・・そや・・・。 あたしは人形の中に入れられたんや。 理由はよう分からへんけど、自分がどこにおるんかがはっきり分かってしもた。 指一本動かせへん体、立ってるんか座ってるんかも分からへん。 それやのに自分の姿が分かる。 あの真っ黒な髪に真っ白な顔した人形や。 ・・・・・・・・・・・・そか・・・・・・・あたしは・・・・あの人形に隠されたんや・・・。 そう思いながら意識を目に持っていくと、ぼんやりと目の前が見え始めた。 女の人・・・・? あたしと同い年くらいの女性。 視界ははっきりするんにつれて、その人の全体が見えてくる。 瞬きしない目、動かない体、・・・・・ああそか・・・・・・彼女も人形なんや・・・。 レトロな感じのドレスは、昨日、平次の依頼人の奥さんがあたしに着せてくれたもんに似ている。 そんなドレープやフリルのぎょうさんあるドレスを着た、栗色の髪の人形は椅子に座ってこっちを見とった。 目線の高さがほとんど変わらへんいうことは、あたしも椅子に座ってるいうことやんな。 思わず足元を見ようとして、首がまったく動かせへんことに改めて気ぃ付いた。 腕、足、指の一本も動かせへん。 口を開くことすら出来へん。 もちろん瞼も。 ・・・・・・・苦しい。 意識はしっかりしてるのに、動かせへん体はなんて苦しいんやろ。 ・・・・・・・苦しい。めちゃくちゃ苦しい。 大きく空気を吸って吐いてみても、いつもやったら感じる自分の鼓動すら分からへん。 もしかしたら、息すら出来てへんのかも。 これが人形・・・。 これが人形になるいうこと・・・。 いやや。 それだけは、絶対にいやや。 今、あたしが感じてるんは今までの恐怖とは違うもんや。 早、ここから出して。 こんなとこ、いつまでも居ったら気ぃが変になってまう。 「和葉――――――――――――!!」 平次! 体は動かせへんけど、音はしっかりと聞こえる。 誰かが・・・・・ちゃう。 平次が走って来る音や。 平次!平次! 「どこや――――――――!!和葉っ!!」 ここ! ここや! 足音が近付いてくる。 ここやん! あたしはここやで!平次! いきなり視界の前に平次が現れた。 ああ。平次や。 「こんなとこにも2体あったんか。」 平次はあたしの目の前で、あたしと前に居る人形を見比べとる。 平次!あたしはこっちや! 必死で叫んでるんに、あたしの声は平次には届いてへん。 動かせへん口は声を出してはくれへん。 平次!気付いて! あたしを早うここから出して!平次! 音に成らへん声は、平次に伝わることは無い。 平次はそのままあたしに気付くことなく、視界から消えて行ってしもた。 代わりに沸きあがって来るモンがある。 平次は絶対にあたしのことを見つけてくれるて信じてる。 信じてる・・・・けど・・・・。 ・・・・勝手に広がっていく不安は・・・・・どうすることも出来へん・・・・・・・・・・。 そんなあたしに、あの女の楽しそうな笑声だけが聞こえてきとった。 |