「 雨隠の館 」 第 十四 話 |
う〜〜〜〜〜!! ん〜〜〜〜〜〜〜!! あかんわ・・・。 やっぱ指1本動かへん・・・。 このままやったら、平次に気付いてもらえへんやん・・・。 『 どうじゃ 人形になった気分は 』 あの女や。 ちゃう!あのバケモンや! ・・・・・・・・・・ここから出して!! 『 ふふ それは我の役目では無いぞえ小娘 』 ・・・・・・・・・・あっ。 あたしの目の前に居る人形が・・・。 『 よう出来ておるであろう そちが居るそやつとこれは我のお気に入りじゃ 』 今まで身動き一つせぇへんかった人形が、優雅とも言える動きで右手を口元に持って行き笑うとる。 声は相変わらず頭ん中に聞こえて来とるのに、まるで目の前の人形がしゃべっとるように言葉に合わせて口も動いとる。 しかも・・・・目まで笑うとるんや・・・・。 『 特にそやつは我が最初に作った人形じゃが もう何百年とその姿のままでおる 羨ましいとは思わぬか 』 羨ましい・・・・て・・・・・人形が? 栗色の髪をした人形はゆっくりと立ち上がり、あたしの方へ近寄って来る。 視界にはその右手があたしに・・・・あたしが入れられとる人形の頬に触れて、愛しそうに撫でた。 『 年老いて朽ちることは無いぞえ 永劫にこの美しさを保っておれる そちらが望む永遠の若さじゃ 』 頬に触れられている感覚は、あたしには無い。 視界の隅には確かに腕が動いて見えているんに、感触は感じられへん。 人形には、そんなもん初めっから無いんや。 『 こやつも我が居るこやつも 鬼に見つけてもらえなんだ哀れな娘じゃ 』 ・・・・・・・・・・ああ・・・・・・やっぱり・・・・・・・そう・・・・なんや・・・・・。 この人形に入れられてから、沁み込んで来るような悲しい感じは気のせいやなかったんや。 『 じゃが我がこのように永劫に愛でておる 愚かな男と朽ちるより良いであろう 』 目の前に人形の顔が広がって、楽しそうに笑うた。 『 そうじゃ 今宵は我も楽しんでおるでな そちに一つ札をやろうぞ このまま我の新たな人形になると申すなら そちの男は見逃してやってもよい どうじゃ 悪い札では無いであろう 刻限までもう時も露程しか残ってはおらぬぞえ 』 ・・・・・・・・・・。 平次・・・。 ・・・・・・・・・・あたしが人形になれば平次は助かる・・・・・・・。 『 ほれっ どうする小娘 』 あたしが・・・。 ―――――――――――― シンジテ えっ? ―――――――――――― イトシイヒトヲシンジテ 今の声は・・・。 その声をもっかい聞きたくて、息を殺してみたけど二度と囁いてはくれへんかった。 愛しい人を信じて。 そうや。 あたしは平次を信じて、待ってればええんや。 平次はきっと時間までにあたしを見付けてくれる。 『 愛する男を助けたくはないのかえ 』 誰か知らへんけど、おおきにな。 ・・・・・・・・・・あたしは平次を待つ。 『 後悔しても知らぬぞ 』 ・・・・・・・・・・後悔なんかせぇへん。平次は必ずあたしを見付けてくれる。 『 どこまでも小賢しい小娘じゃ せいぜい足掻くがよい 』 バケモン女の声が消えると同時に、目の前の人形は糸が切れたように椅子に座った。 さっきは膝の上で手を組んでたのに、今度は両手をだらりと体の横に垂らしたままや。 ・・・・・・・・・・。 その姿は何て言うてええんか分からへんけど、違和感がある。 綺麗に着飾って、綺麗なすました顔をして、腕だけをだらしなく下ろしている姿。 自分では腕さえも動かせない存在。 見捨てられた人形・・・。 本当は人間やった人形・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あたしもああなるんやろか・・・・・。 あたしも・・・・・・。 一度は持ち直した気力も、目の前に現実を見せられると揺らいでまう。 平次。 平次、平次、平次。 早う来て。 あたしを早う、ここから出して。 そやないと・・・・・・・・あたしは・・・・・・・・・。 |