「 雨隠の館 」 第 十六 話 |
バケモン女が消えてから、突然視界が真っ黒になった。 もしかしたら、ここは初めから暗かったんかもしれへん。 そんな風に感じられるくらいの暗闇やった。 ・・・・・・・・・・これやったら・・・。 ・・・・・・・・・・こんなん暗かったら・・・。 平次にあたしが見えへんかも・・・。 やけど・・・やけど・・・あたしは平次を信じてるから平気や。 信じて待ってるんや。 そう、あたしは平次を待てばええだけや。 ・・・・・・・・・・いつまでも。 閉じることの出来へん視界。 真っ暗なんは暗闇やから、それともあたしが目の前の姿を見た無いと思ったから? 相変わらず動かへん体に、心まで闇が入ってしもたかもしれへん。 ここに入れられてから、どんくらいの時間が経ったんやろ。 ほんまは、あたしはとっくに人形にされてるんやないやろか。 平次。 平次はどこにおるん? あたしの頭は、もうちゃんとは働いてないかもしれへん。 このまま・・・・眠ってしてもええ・・・・・かな・・・・・。 「……和葉?」 ・・・・・ぃ・・・じ・・? 「これが和葉や!聞いとるか!?この市松人形がオレの和葉や!!」 確かに平次の声や。 この市松人形がオレの和葉や! って言うた・・・・。 あっ。 平次があたしを見付けてくれたんや! そう思うて意識を目ぇに持っていったときには、あたしは再びあの不気味な洞窟に戻されとった。 それなんに・・・あたしの前には・・・・・・平次・・・・・・・・・・と・・・・・あたし? 平次は、平次は苦しそうに膝を付いて片手でお腹ん辺りを抑えとる。 どうしたんやろか? どっか怪我でもしたんやろか? 平次! 思わず平次の側に駆け寄ろうとした。 ううん。気持ちだけは平次の元へ行ったはずや。 やけど、やっぱ人形の体は微塵も動いてはくれへんかった。 「和葉・・・。」 平次は椅子に座ったまま眠っとるようなあたしに近付いていく。 あたしの両手を握って、 「和葉!和葉!」 って名前を叫んどる。 平次!あたしはこっちや! 闇の中で炎に照らされた平次は、よう見たら泥だらけで腕には血が滲んどるようやった。 あたしはまだ、人形の中におんの! 気付いて!平次! 『 なんじゃ 小娘は目覚めんのかえ 』 ・・・・・・・。 そんな・・・・・・。 『 せっかくそちが見付けてやったのにのう 』 なんで・・・・・・。 なんで・・・・・・あたしが居る人形が・・・・・・・。 『 可愛げの無い小娘じゃ 』 まるで人間の様にしゃべってんの・・・・・・・あたしが居んのに・・・・・・。 右手を口元に当てて、左手で振袖の裾を押さえて笑うとる。 あたしがどんなに叫んでも、人形の表に出ることが出来へんのに。 なんでなん! 約束が違うやんか! 平次は時間までにあたしを見付けてくれたやんか! それなんになんで! 「和葉に何をしたんや!!」 人形の目を通した視界の中で、平次はしっかりとあたしの体を腕に抱きしめとった。 「オレは約束は守ったで!時間までに和葉見付けたやろが!!」 『 何もしてはおらぬ ほれ その証に娘はそちに返してやっておるではないか 』 何言うてん!! あたしはまだここやんか!! 『 恨めしいがの今宵はそちらの勝ちじゃ もう顔も見とう無い 早々に立ち去るがよいぞ 』 カワエロが平次の前に現れて、即すように右手である方向を指して歩きだした。 ちらっとそれに目をやってから、平次は再度あたしが居る人形を睨み付けたんや。 目が合っとるのに・・・・。 平次にはあたしが分からへん・・・・。 何か言いたそうやったけど、唇噛み締めるようにして体の向きを変えてしもた。 その腕にあたしの体を大事そうに抱えて。 血が滲む腕で、痛むであろう腕で。 やけど・・・・それはあたしであってあたしでないんや・・・・・・。 あたしはここや!ここに居んのに! 待って!! 行かんといて!! 平次!! |