「 狂気の宴 」 第 三 話 |
気ぃ失ってベッドにぐったりと身体を投げ出したまんまの和葉を見下ろしながら、剥ぎ取ったワンピースを裂いて細く長い紐を作る。 充分な長さになった紐を和葉の左手首に巻き付けると、もう一方の端をベッドの足に括り付けた。 手首が擦れんようにと紐の下に布を巻いてやったんが、多分オレの最後の理性やったんやろう。 これで、和葉はオレの手助けなしにはこの部屋を出られん。 硬く結んだ紐はたとえオレでもそう易々とは解けんし、オンナの力では千切れんくらいには丈夫に作ってある。 和葉が自力で逃げるんは不可能や。 どこか歪んだ満足感に支配されながら、改めて和葉を見下ろす。 無防備に晒されとる白い喉を喰い千切って、薄く浮き出とる肩甲骨を噛み砕きたい。 蜜に群がる虫のように寄ってくるやろうオトコたちの目に留まる前に、自分の中に取り込んでしまいたい。 普段は気付く事なんないそんな凶暴な感情も、今は素直に肯定出来る。 首筋から肩へ、汗を舐め取るように舌を這わせて、華奢な鎖骨に噛み付く。 痛みに意識が戻ったんか、和葉が身じろいだ。 「気ぃついたか、和葉?」 まだどこかぼんやりしとる和葉は、それでも自分を縛り付けるものに気付いたんか、戸惑ったような目をオレに向けた。 「コレか?」 和葉の左手から延びる紐を、目の前に掲げてやる。 「オマエがオレから逃げられんようにな、鳥篭……いや、虫ピン代わりや」 「……そんなん、せんでも……」 「逃げんて言いたいんか?」 和葉が小さく頷く。 声が掠れとるんは、喉が干上がっとるからやろう。 傍に放り出してあったペットボトルを拾い上げて口移しで水を流し込んでやると、和葉は素直に飲み込んだ。 「言葉だけなん、信じられんわ。それにな、ちゃんと鍵掛けてしまっておかんと、誰に盗まれるかわからんやろ?」 ペットボトルと紐を適当に放り投げて、目に付いた紅い華に軽く爪を立てる。 和葉の白い肌の上、胸にも腹にも背中にも鮮やかに咲き誇る、普段は滅多に付ける事のない所有印。 その数を数えるように、指と舌を滑らせる。 「もう、堪忍……して」 「まだまだイケるやろ?まだ足りんて目ぇしとるで?」 どこに隠そうと、必ず和葉の手元に戻る鏡。 その鏡面を和葉に向ける。 「その瞳が証拠や」 人間のオンナが持てるハズのない瞳に、オレん中で燻っとった熱が上がるんがわかる。 その熱と反比例するように、僅かに戻っとった思考が消えていく。 視覚に、 触覚に、 聴覚に、 味覚に、 嗅覚に、 オレの五感に届く全てのものが、ストレートに情欲に変化する。 「なあ、和葉。オマエのその瞳が望む通りに、オレの命の最後の一滴までくれてやる。せやから、思う存分飲み干せや」 熟した果実みたいなチチの柔らかさと硬く立ち上がった乳首の感触を舌で楽しみながら、オンナの快楽のためだけにあるような蕾を求めて手を伸ばす。 イク事をとうに覚えとる身体は、オレの慌しい愛撫にも敏感に反応した。 それでもまだ充分とは言えんハズやけど、ついさっきまでの情事の名残を味方にして、オレの猛った熱を飲み込ませる。 今のオレを支配しとるんは、あの瞳に引き出された雄としての本能だけ。 和葉の上げた声が嬌声なのか悲鳴なのか、それすらもわからん。 いや、わかろうとすらしとらん。 狂気は甘く、そして激しいモンやと、この時オレは心の底から理解した。 |