「 狂気の宴 」  第 四 話
・・・・・・・・もう・・・・どんくらい・・・・こうしてるんやろ・・・・・。

・・・・・・・・はぁ・・・
体にまったく力が入らへん。
指一本すら動かすんがだるい。

あたしはここに来てから、一度も洋服を着させてもらってへん。
それどころか、下着すら存在せぇへんくらいに裸のまんまや。
時間すらもまったく分からへん。
朝なんか夜なんかさえ分からへん。

平次は・・・・・・・・いつまでこんなこと・・・・・・・続ける気なん・・・・・・・・。

あっ・・
寝返りうとうとして、左手が何かに引っ張られた。
・・・・
・・・そう・・・やった。
あたしには、こんな自由さえ無かったんや。
この、左手に結ばれとる紐もあれから一度も外してくれへん。
力の入らへん手で引っ張ってみても、どこに結ばれとるんか分からん端は見えへんまま。
うんっ・・
それでも、無理に左腕を引いてみる。
今までにも何度も力任せに引っ張ったせいで、左手首に痛みが走る。
きっと痣も出来てるやろ。

「何や和葉、オレから逃げとうなったんか?」

姿の見えへんかった平次が、いつの間にかあたしの側まで来とった。
あたしはその声に、小さく震えてまう。

「残念やけどな、それは無理やで」

それやのに、あたしをこんな風に扱う平次はどこか楽しそうや。
背中を向けているあたしの後ろで、ベッドに座った平次が紐を掴んであたしの腕ごと持ち上げた。

「この紐はお前の力では外れんし、オレは外す気ぃなん無いしな」

まったく力の入らへんあたしの体は、それだけの事で易々と体の向きを変えられてまう。

「それより飯や。ほら、口開けや」

そう言うと平次はあたしの背中を片手で軽々と持ち上げる。
あたしの頭はだらしなく後ろに仰け反り、勝手に口は開いてまうんや。
「まずは水からや。」
見えへんけど、平次が水を口に含む気配がする。
そして、口移しであたしにくれる。

食事さえ、あたしは一度も自分でさせてもらえてへん。
水も食べ物もすべて平次の口から貰ってるんや。
そう、あたしの口に入るモンはすべて平次からの口移し。

ごほっ・・・・ごほっ・・・・
干上がってしまっている喉は、平次が噛み砕いてくれたモノさえ上手に飲み込めへんみたいや。
自分の体なんに、もうあたしにはどうすることも出来へんねん。
ううん。どうしてええんかすら考えることも出来へん、言う方が正しいやろ。
「ゆっくりでええから飲み込め。食わんと保たへんぞ」
そう言われて、あたしはただただ与えられるモンを飲み込んでいくだけ。


これは・・・・・人間の生活・・・・・なんやろか・・・・・・・。

裸のままベッドに繋がれて、食べ物も水も必要最小限しか与えられず、欲望のままに組み敷かれ続けて。

平次はあたしのこと・・・


「泣いても何も変わらへんで」
「・・・・・・」
「それとも。上の口より、こっちの口ん方が腹ペコなんか?」
「んっ・・んんんん・・

水を喉に流されると同時に、体の中に指を入れられてしもた。

「ほんまにこっちかい。さっき、あんなにぎょうさん飲ましたったのに、まぁだ足りんかったんか。お前も強欲やな和葉」
いっ・・・いやっ・・
「そやかて、お前のここも、その瞳もぜんぜん足りひん言うてるで」


あたしの・・・・瞳・・・・。

そうや・・・
元凶は・・・・この・・・・眼や・・・・。

あたしのこの眼が平次を変えてしもた。


「しゃぁないなぁ。こっちの口にも飯やったるわ」


あの鏡のせいや。
やけど、あの鏡からもあたしは逃げられへん。

やったら・・・
そやったら・・・・どうしたら・・・・
どうしたら・・・・・・・・・・・この眼から逃げられるん・・・・・。


「こらっ。今更暴れんなや」


そん時、平次の手に捕まった自分の両手が見えた。

あっ。

そう思うた瞬間、あたしは行動に移しとった。
残された最後の力を振絞って。
何も考えずに。
ただ、この現状から逃れたい。
それだけやった。


「あああああああ!!!!!」


あたしは自分の両手の爪を、自分の両目めざして突き刺したんや。





これで、平次が元に戻ってくれると信じて。





ああ〜!あわわっ・・・・。
すみません。ごめんなさい。申訳ありません。平に平に〜〜。
痛い。これは、さらにイタイ。アイタタタ・・・・。

「こ〜ら〜へ〜い〜じ〜!!返却は鏡やカガミ!あたしの眼ぇちゃうで!!・・・・え?自分でやった?誰が?」

by phantom
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