「 色喰夜会 」 第 三十一 話 | |
和葉を連れて来たんは、あの夏の日にオレに篭を作る切欠を与えたコテージ。 避暑地としてはそこそこ名の通った場所やったが、冬の今は辺りには人影もなく、あん時とは季節が違うからか冷たい風に混じる土や樹の匂いも変わっとって、和葉にはここがどこだかわかっとらんようやった。 コテージん中は、オレの指示通りにちゃんと暖められとった。 「荷物運ぶさかい、ここに座っとれ」 和葉をリビングのソファに座らせて、車に積んできた荷物を寝室に運び込む。 2泊の予定やから着替えやら何やらは2人分でもバッグ1つで足りるが、今回は『特別』やから大きい荷物がもう1つあった。 大人一人くらい余裕で入れるサイズの内側にビニールコーティングされたバッグに用意して来たんは、吸水性のええベッド用の敷きパッドが2枚と厚手のシーツが1枚、それから裾にたっぷりとしたフリルと細かい刺繍の入った床に引き摺るくらい大判のベッドカバーが1枚に揃いの刺繍の入った小振りのブランケットサイズのカバーが1枚。 これは和葉のためやなくて、あの『人形』のために用意したったモンや。 少々手ぇ掛かるが、この先の事を考えるとこれくらいの準備は必要やった。 ベッドから上掛けを剥して予備の毛布やら何やら入っとる作り付けのクローゼットに放り込んで、2枚の敷きパッドとシーツを重ねてずれへんように四隅をクリップで留めて予め整えられとったシーツの上に広げてから、ベッドカバーを掛ける。 枕を纏めてカバーで包み込んでアンティークな薔薇のデザインのクリップで四隅を留めて、クッションよろしく隅に転がした。 クリップもカバーも和葉のために誂えとるモンに比べれば質も値段も天と地程の差があるが、そこそこの品で一見高価そうやから、本物を見抜く目ぇも持っとらんクセに女王様気取りのあのオンナは、オレの思惑にも気付かんとこの演出に満足するやろう。 「後は、和葉のための特別席を誂えてやらんとな」 寝室の窓際に置いてある肘掛椅子をドレッサー横に移動させて、傷を残さんようにウレタンでクッション噛ませて動かへんようにしっかりと固定すると、和葉のカラダが傷つかんように肌触りのええ白いフェイクファーのカバーを掛けた。 これで準備は終わりや。 「和葉」 リビングで待たせとる和葉を呼んだが、返事はない。 「和葉、こんなトコで寝とったら風邪引くで?」 殆ど飲み終えとるペットボトルを取り上げて軽く肩を揺すってみても起きる気配はない。 和葉の好きな香りのええジャスミンティに溶かし込んだ即効性の睡眠薬は、しっかりと効いとるようやった。 「今はゆっくり寝とり」 眠り込んだ和葉からワンピースを脱がして、寝室の椅子に座らせる。 これから始める『お仕置き』に服は不要や。 とはいえ、たとえ遊び終われば捨てる『人形』でも和葉のカラダを見る事は許せへんから、白で統一した極上のシルクの下着だけは着せておいた。 尤も、臍が見えそうな短めの丈のキャミソールに細い紐を腰の横で結んだショーツ、それに縁にレースのついた膝上まである薄手のソックスだけを身に付けた和葉は、全裸でいるよりも返って扇情的やったが。 今日はブラを着けさせとらんから、可愛え乳首がまるで吸い付いてくれて言わんばかりに柔らかなキャミソールを押し上げてオレを誘っとるが、それはたっぷりとお仕置きして二度と『人形』なん欲しがらんように叩き込んだってからや。 椅子に座らせた和葉の両足首と膝下を椅子の脚に、両手首と肘の手前を肘掛に、腰を背凭れに、それぞれ拘束する。 手首と足首だけやと無理にでも立ち上がろうとして怪我したりするかもしれへんが、膝下と肘のあたりに加えて腰も拘束しておけば、そうそう動けへん。 肌に触れる部分には充分なクッションが入っとるから、傷になる事もないハズや。 「土産にオマエの好きな『人形』持って来たるから、ええ子で留守番しとるんやで」 部屋は少し暑いくらいに温められとるから、下着だけでも充分や。 眠り込んどる和葉の髪を整えてやってから、コテージを出た。 『人形』との待ち合わせは、ここから程近い観光地の外れにある小さな展望台。 夏ならそこそこ賑わっとる場所やったが、この寒い季節には殆ど人影もない場所や。 「待ったか?」 オレの声に、展望台で退屈そうに滝を眺めとった『人形』が、もったいつけたような風情で振り返った。 「女を待たせるもんじゃないわ」 「スマンな」 今まで女王のようにオトコたちを傅かせて来たらしい『人形』の手をとって、わざとらしい程に恭しく指先にキスを落としてやる。 ここで会うのは2人だけの秘密やと、誰にも知られるなと言うてはあるが、この『人形』はあまり賢くないしオレが行動を制限して誘導してやらんと何をしでかすかわからんから、待ち合わせの場所も時間もそこまで来るルートも全て指定してやらなならんかったんが面倒やったが、コレを選んだのは自分やしそれくらいの手間はしゃあない。 手間掛けついでに、この『人形』の唯一の利用価値を上げるためと後々の工作のための手配もしておいた。 「董子のためにレストランを予約しといたんや」 「あら、どこかしら?」 派手好きのこの『人形』は雑誌にも載っとるようなホテルが好みなんやろうが、そんな人目の多い場所に行く気はさらさらない。 「コッチや」 「こんな所にレストランなんてあるの?安いお店なんて、私の口には合わないわよ?」 「オレが董子を連れて行くために選んだ店やで?上質なオンナに相応しい上質な料理出す店に決まっとるやろ?」 展望台から更に奥まった方へ行く事に不満そうな顔をした『人形』にそう言ってやると、満足したように笑ってオレの腕にしなだれかかって来る。 滝の音を聞きながら5分くらい歩いた場所にある隠れ家風の和食レストランは、金持ちの隠居が道楽でやっとるだけとは思えへんくらい極上の味やて評判やから本物の価値のわからん『人形』にはちょお贅沢すぎたかもしれへんが、オレが愉しく遊ぶためやと思えば安いモンやった。 「ステキな所ね」 「董子なら、ありきたりなホテルのレストランよりこんな店の方が似合うと思てな」 オレの見え透いた世辞にも気付かずに、この『人形』はさも当然という顔で笑う。 金持ちの隠居の趣味やていうこの店は、見た目の派手さはないが小物にまで気を配って存分に金を掛けとるのが素人目にもわかるからか、この程度の店には慣れとる風を装っとるクセに内心舞い上がっとるのが仕草の端々に現れとって、見ていて滑稽やった。 「ねえ、服部君。あ、もう平次でいいわよね?私、フレンチとかイタリアンのお店には詳しいのよ。京都のお店もいいけど、やっぱり東京には敵わないわね。平次もよく東京に行くんでしょ?今度案内してあげるわ」 「そら楽しみやな」 適当に相槌を打ってやるだけで、この『人形』はベラベラと自慢話を垂れ流す。 名前を呼び捨てにされた事が気に障ったが、そのまま好きに喋らせてやった。 「そういえば、平次ってカジュアルな服が多いわよね。でも、スーツも着こなせなきゃいけないわ。センスには自信があるから、私が見立ててあげる。一緒に歩くなら、やっぱり女の目から見て魅力的じゃなきゃ。平次の服を見立てるなんて、今の奥さんには無理だものね」 オレに全てを肯定されて気をよくした『人形』が、優越感を隠そうともせんと和葉を引き合いに出してまで自慢話を続ける。 いつもならこんな暴言を許しはせえへんが、たっぷりと喋らせて満足させてやるのも下準備の1つやったから、これも予想内の事や。 店の雰囲気に呑まれたのか、それとも上流ぶりたいのか、この派手な『人形』にしては押さえた声は半ば個室のような造りの席が並ぶこの店では誰の耳に届く事もない。 食事が終わると、丁度ええ時間になっとった。 「コテージ借りてあるんや。その方が邪魔も入らんからゆっくりヤれるやろ?」 店を出た所で腰に腕を回して、耳に息を吹きかけるように囁いた。 『人形』の車はここに置かせておく必要があったから、人目を避けるためやて尤もらしい理由をつけてオレの車で移動する事になっとる。 『人形』の乗っとる車は、ナンバーから正規の所有者を調べてある。 今は個人情報がどうのてそう簡単には調べられなくなっとるが、そこは蛇の道は蛇て事で裏から情報を貰える手段は持っとるから、そう難しくはない。 それによると、都合のええ事に車の所有者は某企業の取締役やった。 ここに車を置きっぱなしにしたらそのうち誰かから警察に通報が入って所有者に確認が行くやろうが、妻子持ちのオトコが30以上も年下のオンナに車を買い与えとるなん表沙汰にはしたないやろから、この『人形』の存在を隠したまま車は盗難に遭ったやら何やら適当に誤魔化してくれるやろう。 そうなれば、この『人形』がここに来たという証拠を1つ消せる。 さっきのレストランでの食事にしても、この『人形』が万が一言い付けを破って誰かにここでオレに会うて漏らしていた時に、後で理由を尋ねられても不都合がないようにするためて目的もあった。 以前、あのレストランのオーナーである隠居の孫が誘拐されそうになっとる現場に偶然出くわして、それを未然に防いだ事がある。 そん時に犯人たちとやりあって怪我したオレに、隠居は探偵になるなら資金はいくらでも必要やろうから遺産を譲渡するゆう遺言状を書くて言い出すくらいに感謝しとったから、この『人形』と店に来た事を誰かに訊かれたとしても探偵として依頼を受けとったんやと好意的に話してくれるやろう。 この『人形』がここに来た事を知られないならよし、もし知られたら筋書きはこうや。 オレはこの週末を利用して仲直りの意味も込めて普段外出しない妻のためにコテージを借りて小旅行に行く予定やったが、この『人形』から急ぎの相談があるからと呼び出された。 話を訊いてみるとストーカーされとるような気ぃするゆう事でまだ緊急性も感じられへんかったから、小旅行の予定はそのままにどこかで改めてゆっくり話を訊いて、場合によっては警察に行くように勧めようと思てあの人目につきにくいレストランで会った。 よくよく話を訊くと、勘違いと言うかストーカーされとると思えるようなものでもなかったから、もう少し様子を見ようて事で纏まった。 その後すぐに別れて妻の待つコテージに戻って、2人で週末を楽しんだ。 この『人形』の評判を聞く限り、学内でも学外でもこの『人形』を知っとる人間は十中八九『オレに近づくために追いかけた』と証言するやろうから、この筋書きと齟齬はない。 どちらにしても、オレに不利んなる事はない。 『人形』に気付かれんようにひっそりと笑って、車のキーを取り出した。 助手席に和葉以外の人間なん乗せたないから、予め後部座席に真紅の薔薇の花束を用意しておいてショーファーよろしくドアを開けてやったら、この浅はかな『人形』はごねる事もなくあっさりとシートに納まった。 「これ、私に?」 「勿論や。薔薇は董子みたいな華やかなオンナにしか似合わんからな」 「平次って口が上手いのね」 「ホンマの事やろ?」 「でも、これカスミソウも入ってなければリボンもかかってないわ。包んでるのもセロファンじゃなくてただの紙だし」 「董子は花屋で売っとるようなんが良かったんか?そら悪い事したなぁ。上質のオンナにはそこらの花屋にあるようなんやなくて朝摘みの新鮮な薔薇が似合うと思て、趣味で栽培しとる人から一番綺麗に咲いたヤツを特別に分けてもろたんやけど」 「あら……」 用意した薔薇は、この近くにあるあの隠居の別荘を管理しとる老夫婦に妻への土産にするから言うて分けてもろたモンやったから、包装も簡素で切り口あたりをスポンジで包んで銀紙を巻いただけや。 派手好きのこの『人形』にはそれが不満やったらしいが、特別なオンナを強調してやると不満そうに尖らせていた唇が傲慢な笑みの形に変わった。 「どうせすぐにコテージに着くし、花瓶に飾るんでも風呂に散らすんでも董子の好きなようにしたるさかい、大目に見てくれへんか?」 「そうね。薔薇はそれだけで美しいんだもの、引き立て役のカスミソウはいらないわ」 「ああ、その花な、棘取っとらんのや。手ぇ刺さんように気ぃつけや?」 女王然と後部座席に納まっとる『人形』に一言告げて、コテージへと向かった。 コテージに着いた時、和葉はまだ眠っとった。 「あら、奥さんも一緒なの?」 「アカンか?今日は董子とカラダの相性が合うかどうか、お試しやろ?邪魔にはならんようにしといてやったで?」 寝室の椅子で寝とる和葉を見下ろして尖った声を零す『人形』から薔薇の花束を取り上げて包装を剥すと、キッチンから持って来たシャンパンと一緒にサイドテーブルに置く。 銀紙で包まれたあたりと茎の半ばの2箇所を軽く糸で纏められた薔薇は、広がる事なくテーブルの上に収まった。 この薔薇は、後で和葉のために風呂に散らしてやるか。 昔から映画みたいなシチュエーションに憧れとったから、きっと喜ぶやろう。 お仕置きは必要やけど、ちゃんと聞き分けたら褒美もやらんとな。 薔薇の使いみちを考えながらナイフでシャンパンのキャップシールを剥がし、コルクを押さえながら針金を外す。 この人形はシャンパン言うたら派手にコルクを飛ばすモンやくらいに思とるやろが、そんな事して万が一にも和葉に怪我なんさせたらたまらんから、セオリー通りに手ん中でボトル回して静かに栓を抜いた。 グラスによく冷えたシャンパンを注いでいると、後ろでボスンと乱暴にベッドに腰掛ける音がした。 「私が彼女より下だとでも?」 「今の董子はオレにとっては『人形』みたいなモンや。綺麗で目ぇ楽しませてくれるけど、そんだけの存在。董子がヤリ捨ての『人形』で終わるか、それともオレのオンナんなるか、ヤってみんとわからんやん?それに、もし董子に満足出来ひんかったら、口直しが必要やしな」 不機嫌そうに眉を上げてベッドに腰掛けた『人形』に、シャンパンを満たしたグラスを渡す。 シャンパンクーラーで冷やしといたんは、ミーハーなオンナが喜ぶらしいドンペリのロゼ。 和葉に与えるモンやったら、ドンペリは勿論、ルイ・ロデレールのクリスタル・ロゼでも、欲しい言うんやったらクリュッグやて手に入れたるが、この『人形』にはネームバリューの方が重要や。 「このシャンパンもベッドカバーも、董子のために用意したんやで?」 ラベルが見えるように掲げたボトルをクーラーに戻して、隣に腰掛けてグラスを合わせる。 チンと澄んだ音を立てるグラスも、ミーハーなオンナにウケのええバカラ。 本来、シャンパングラスは掲げるだけやけど、この『人形』はそんな事も知らんやろから、こんな演出も効果的や。 「女房はオレに夢中やからな、どんな状況やろうとオレが望めば満足させようとするで?董子はどうなんや?」 グラスをサイドテーブルに置いて、眠っとる和葉に目をやる。 そこからゆっくりと『人形』に視線を移した。 「董子がどんなにええオンナか、オレに教えてくれや」 「いいわ。あのオンナなんて忘れるくらい、私に夢中にさせてあげる。天国見せてあげるわよ」 プライドを少し引っ掻いてやると、グラスのシャンパンを飲み干した『人形』が和葉を隠すようにオレの前に立った。 「ファスナー下ろして」 言われるままに、オレに背中を向けた『人形』が着とるワンピースのファスナーを下ろしてやる。 黒を基調としたワンピースはチラリと見えたタグからするとそこそこのブランド物らしいが、この『人形』が着とると安っぽく見えるんが残念や。 和葉に着せてやっとる服は殆どがオーダーやからたまには流行のモン買うたろうかと思うんやけど、このブランドは却下やな。 自分よりも服の方に意識が行っとるオレに気付いとらんのか、するりとワンピースを足元に落として振り返った『人形』が、ベッドに座るオレの足に膝を乗せて、わざとらしく胸を突き出しながらブラを外した。 黒のレースで飾られた豹柄のブラから零れたんは、和葉よりもデカいチチ。 ボリュームは和葉より随分と多いが、零れたて表現がぴったりくるような見た目にもふにゃふにゃした、胸て言うよりまさしく『乳』て感じのモンやった。 オレとしてはただ巨乳て言うより張りのある形のええ胸の方が好みやけど、それでもさすがにこのサイズを至近距離で見せられると迫力がある。 この巨乳も自慢の一つなんやろう『人形』は、髪をかき上げる仕草で揺れるのを見せ付けてから、ブラと揃いのショーツにごてごてと飾った爪を引っ掛けた。 「ここからはこの先のお楽しみよ」 ショーツの他には黒のガーターベルトとストッキングだけを着けた『人形』は、オレの足から膝を下ろして髪をかき上げながらもう一度胸を突き出して見せる。 「平次は何もしなくていいわ。すぐに私を欲しがらせてあげるから」 『人形』が慣れた手付きでオレの服を脱がせにかかる。 オレの足に股を擦りつけながら伸び上がった『人形』は、上だけ脱がし終わるとその毒々しいまでに紅い唇を押し付けて舌を絡めて来た。 和葉とは違うねっとりとした舌使いで、ぴちゃぴちゃと音を立てながら一頻りオレの口内を嘗め回した『人形』が唾液の糸を引きながら唇を離した時、小さな衣擦れの音が聞こえた。 「ん……」 「何や、起きたんか?」 「……へいじ?」 睡眠薬の効果が切れたんか、和葉がため息みたいな声でオレを呼んだ。 正規の使い方やなかったから和葉が目ぇ覚ますまでの時間をイマイチ読み切れんかったが、丁度ええ具合に効いてくれたようや。 この『人形』を連れて来たんは和葉へのお仕置きのためやから、ここで起きてくれへんと折角の計画が台無しやからな。 「平次?」 手ぇ伸ばそうとして動けへん事に気付いた和葉が、慌てたようにカラダを捻った。 「ああ、ちょお邪魔されたないんでな、暫くそこで大人しくしとり」 「そうよ、そこで見てて頂戴。ああ、見えないんだったわね」 「誰?誰が居るん?平次?」 聞き覚えのない『人形』の声に、和葉が戸惑ったようにオレを呼ぶ。 「オレの『人形』や。ええ『人形』が手に入ったんでな、遊んどるんや。せやから、ちょお大人しくしとり」 「『人形』てなに?なあ、平次!」 オレからならともかく和葉からも『人形』て言われて苛立ったんか、頭を振ってばさっと髪を流した『人形』が意地悪げな笑みを浮かべた。 「いいモノを聞かせてあげるわ。だから大人しくしててね」 「平次?なあ、誰が居るん?」 不安そうな声を上げる和葉に聞かせるように、わざと音を立てて『人形』がオレの首に吸い付いた。 「平次って、ステキなカラダしてるわよね。綺麗に筋肉がついてて手触りが抜群にいいし、滑らかな肌は舌に優しいし、このくっきり浮き出た鎖骨なんて色っぽくて舐めてるだけで濡れてきちゃう」 「平次!!そのオンナ誰なん!?何でココに居るん!?」 「背中の形もいいわ。乳首の弾力も唇に心地いいのね。ココ感じる?」 「ああ、ええで」 「ふふふ」 『人形』が、オレの鎖骨を舐め、乳首に吸い付き、背中を撫でる。 和葉を意識してか、実況中継するようにいちいち口に出す『人形』は鬱陶しいが、これも予定の内やから好きにさせる。 「アタシの平次に触るな!!平次!!平次っ!!」 何とか拘束を解こうと暴れながら、和葉が叫ぶ。 その声に、オレの乳首に吸い付いとる『人形』の唇が笑みの形に動いた。 「平次のカラダは本当に綺麗。見掛け倒しの作った筋肉じゃこんなに綺麗にならないわ。力強くて無駄がなくて、セクシー。ココもきっと、そうね」 『人形』の手がジーンズの上からオレのモノを撫で、ことさらゆっくりとファスナーを下ろした。 「もう硬くなり始めてるわ。私の愛撫に感じてくれてるのね。私に全部見せて。もっともっと気持ち良くしてあげる」 少しだけ腰を浮かせて『人形』が脱がせるままにしてやると、一瞬だけ和葉に視線を流してからオレの足の間に跪いた。 右手でオレのモノを包み込み強弱をつけながら幹を扱き、左手でタマをやわやわと揉み上げる。 味見するように先っぽをチロリと舐めると、舌なめずりするようにして自分の唇を湿らせてから、オレのモノにゆっくりと舌を這わせた。 唾液を擦り付けるように幹を舐め、横から軽く歯を当て、舌先でタマを擽る。 和葉とは違う感触が新鮮やけど、この『人形』が自慢する程の快感やない。 まあ、自分でヌクよりはずっとええけどな。 「平次のペニスって、逞しくてステキね。あなたもそう思うでしょ、和葉さん?私の愛撫でこんなになるなんて嬉しいわ。でも、大きくて私の口に入るかしら?」 「イヤや!!平次!!平次!!」 「『人形』で遊んどるだけや、大人しくしとり」 「イヤ!!へーじ!!」 チラリと和葉に視線を流した『人形』が、オレのモノを咥えた。 「ん……んふ……」 ぬめぬめとした舌が幹に絡みつき、唇で締め付ける。 「ええで、董子。イケそうや」 「イヤや!!へーじ!!アタシのんや!!」 ガタガタと椅子を揺らして暴れながら泣き叫ぶ和葉に、一旦オレのモノから顔を離した『人形』が勝ち誇ったような笑みを投げて、またオレを見上げた。 「私の口に頂戴。平次の味が知りたいの。口でも、ナカでも」 「イヤイヤイヤっ!!へーじ!!へえじぃ!!」 「オレのモンを勃たせられるんやったら、何度でもたっぷり味わわせたるで」 「へーじっ!!イヤっ!!」 「私に任せて。天国にイカせてあげる」 『人形』は再びオレのモノを咥えると、じゅるじゅると音を立てて一旦喉の奥まで呑み込んでから、激しく頭を振る。 ばさばさと振り乱した髪と短い息がオレの股に掛かって、そのくすぐったさと熱い舌と唇の刺激が、オレに快感を与えて射精を促した。 「ん…んん……」 「っく……ふ…」 「んんっ!」 『人形』の頭を押さえて望み通りにその口ん中に精液を吐き出してやると、こくりと喉を鳴らして飲み下したんがわかった。 「ん……」 ちろりと先っぽに残ったモンを舐め取った『人形』が、すいっと立ち上がって和葉の前に立つ。 オレに向かって目だけで笑って見せた『人形』は、両手で和葉の顔を掴むとそのまま屈み込んでキスをした。 「んんんっ!!」 「歯を食いしばって、それで抵抗してるつもりなの?でも、そうね、私の舌に噛み付かれてもイヤだし、そのままにしてて頂戴」 「んん!!」 何を企んどるんか『人形』はどうやらディープキスを狙っとったらしいが、和葉の抵抗にあってやり方を変えるらしい。 オレの座っとる場所からやと『人形』が邪魔んなって和葉の様子はようわからんが、たっぷりと時間をかけてキスをしとる。 ぴちゃりと濡れた音がしとるのは、和葉の口内に舌を擦り付けとるからやろう。 「平次の味は格別ね。平次の艶っぽい声だけなんてお気の毒だから、お裾分けよ。ああ、和葉さんはコノ味を良く知ってるんだったわね。今度はナカで味わわせてもらうのよ。ココでね」 顔を上げた『人形』は、そう言って拘束されとる和葉の股をショーツの上から突付いて、今度はオレを仰向けに押し倒した。 「へーじっ!!イヤやっ!!」 「ええ子にしとり、和葉。今はオレの遊びの時間や」 「そうよ、黙ってて頂戴。今は平次は私のモノなの。もしかしたら、これからもずっとね」 「何なん、そのオンナ!!」 「ええ子にしとり、和葉」 泣き叫ぶ和葉を無視して、オレの肩のあたりに『人形』が膝をついた。 「ねえ、見て。私、もうこんなになってるのよ」 ショーツの両端に親指を引っ掛けた『人形』が、少し足を開いたまま殊更ゆっくりと下ろしていく。 濡れてるのを見せ付けたいんか裏返すように太股の半ばあたりまで下ろすと、指で襞ん中に溜まった愛液を掬ってオレの唇に塗りつけた。 「これが私の味よ。平次のペニスにたっぷり味わって欲しいわ」 「楽しみにしとるで」 「ふふ」 含み笑いをしながら『人形』がショーツを足から抜く。 和葉の蜜ならいつまででも舐めていたいが、この『人形』の愛液は匂いからしてどうにも好みやない。 視線が外れた隙に、唇に擦り付けられた愛液を手の甲で拭った。 「ねえ、平次。この胸、どう?」 オレのカラダを跨ぐようにして四つん這いになった『人形』が、オレを見下ろしながらデカいチチを揺らした。 ガーターベルトとストッキングだけ残しとるのは、オトコを落とすのに『人形』が一番自信のあるスタイルやからやろう。 確かにええアクセントにはなっとるが、この『人形』がやると安っぽいAVのパッケージ写真みたいや。 「美味しそうでしょう?」 「せやな。柔らかそうで喰いでがありそうや。デカい乳首も含みがいがあるやろな」 「うふふ、後であげるわ。まずは私が平次を満足させてあげるのが約束だものね」 「どんな風に満足させてくれるんや?」 「私の全てを使って、よ」 『人形』が、自分の口紅の滲んだ唇をゆっくりと舐めた。 「平次はアナルセックスってヤった事ある?」 「いや」 「興味はあるんでしょう?」 「そらな」 「じゃあ、平次のアナル初体験は私が貰うわ。ちゃんと準備だってしてきたんだもの」 得意気に笑う『人形』が期待してる程、オレはアナルセックスに興味なんない。 いや、セックスそのものもどうでもええ。 オレは和葉にしか興味はないんや。 この茶番劇も、今まで以上に和葉をオレに依存させるための手段にすぎない。 『人形』はオレの思惑なん欠片も気付いとらんが、ええ感じに和葉を煽ってくれとった。 「なあ、平次!それ何なん?」 「オマエはまだ知らんでええ」 「あら、和葉さん知らないの?」 「和葉はな、エロいカラダしとるクセにそっち方面の知識は殆どないんや」 「それじゃあ、平次も愉しみが半減ね」 元々、和葉はソッチ方面ではお子様やったけど、オレは『和葉』が欲しいんや。 オレが望む通りにカラダ開いて快楽を覚えて、オレだけを求めてくればそれでええから、エロ知識なん必要ない。 苦笑しながら和葉に視線を流す『人形』の髪を引っ掴んでそう否定してやりたかったが、お仕置きのためやとぐっと堪える。 オレが否定しない事に自信を深めたんか、ばさっと髪をかき上げた『人形』がベッドから降りて和葉の前に立った。 「ねえ、和葉さん。さすがにペニスくらい知ってるでしょう?」 「……」 「あらあら、とんだお子様だこと。いいわ、私が教えてあげる。セックスの時に、平次がココに挿れて可愛がってくれる熱くて逞しいモノがペニスよ。そして、そのペニスをココに挿れてもらうのが、アナルセックス。私はココでも平次を悦ばせてあげられるのよ」 『人形』が、またショーツの上から和葉の股を突付く。 和葉が見えへん眼ぇを見開いた。 「それって……」 「平次は初めてなんですってね。知らなかったんだからしょうがないけど、和葉さんはヤらせてあげなかったのね。でもおかげで平次のお初を私がもらえるんですもの、あなたが無知で良かったわ」 「へーじ!あん時、後ろの味とか言うてたん、ソレの事なん?アタシ、知らへん!平次が教えてくれた事しか知らへんよ!!」 和葉が言うとる『あん時』は、谷川殺った後のお仕置きの事や。 もう1人の『人形』の存在を吐いた和葉に投げたったセリフやったが、やっぱり意味がわかっとらんかったらしい。 「ホンマか?」 「アタシ、平次が教えてくれた事しか出来へん!!」 「ほんならそれでええわ。オマエは知らんでもええ。オレが欲しなったら教えたるから」 「へーじ!!そんなオンナとヤらんといて!!」 「だって、和葉さんはヤり方も知らないんでしょう?平次には私がヤらせてあげるから、あなたはそこでゆっくりしてて」 優越感をたっぷりと含ませたセリフを和葉に落とした『人形』が、オレに向き直った。 「いややっ!!へーじっ!!」 「やっぱり、平次ってセックスも強かったのね。たっぷり愉しみましょう」 「へーじ!!へーじ!!へーじっ!!」 「今度はナカに頂戴。それから、後ろにもね」 『人形』は和葉の泣き叫ぶ声に煽られとるんか、片手でカラダを支えてオレのモンを咥えながら、もう一方の手で自分の胸を揉み乳首を摘みクリトリスを捏ね回す。 充分にオレのモンが勃つと、ベッドに乗りあがって跨った。 「ゴムは着けてくれへんのか?」 「あら、ナマの方が愉しいじゃない」 口ん中はともかく、他のオンナにオレの種をやるつもりはない。 それに、この『人形』はナマやった事を盾に、妊娠やら何やら後でたかる理由を、相手によっては偽装までして手に入れようとする計算高いオンナやてネタも仕入れてあるから、たとえ使い終われば壊して捨てるだけやとしてもオレがわざわざそんな浅はかな計略に乗ってやる必要もない。 「ナマでヤるんは、董子がオレのオンナんなってからや。それとも、女房に勝つ自信ないんか?」 不満そうに鼻を鳴らす『人形』に、シャンパンクーラーの横に置いてある箱を指さしながら挑発するような笑みを投げてやると、プライドを傷つけられてイラついたのか、つんと顎を上げてゴムのパッケージを破いた。 「いいわ。すぐにこんなゴムがもどかしくなって、ナマの私が欲しくて我慢出来なくなるくらいにしてあげる」 「そら、楽しみや。董子なら、最高に愉しませてくれるやろしな」 「ええ、楽しみにしてて。こんな風に私のナカに入れてあげるから」 『人形』はゴムをオレのモノに載せると、そのまま口でゆっくりと下ろしていく。 ちゃんと被せたと主張するように指で根元に触れてから、改めてオレに跨った。 「よく見てて」 『人形』が左手でオレのモノを支えて、右手の指で自分の茂みをかき分けて襞を開いた。 愛液を垂らしている下の口にオレのモノを当てて先っぽを咥えると、今度は両手で襞を大きく開いて呑み込んでいく様を見せつけながらゆっくりと腰を落としていく。 「あ…ああっ……おっきい…私のナカ、平次の熱くておっきいモノでいっぱい……」 やる事が一々AVじみててオレの趣味には合わんが、和葉へのお仕置きのために選んだ『人形』としては理想通りや。 見えへん観客の和葉を言葉で挑発してくれる『人形』が手近で見つかったんはラッキーやったな。 「イヤやっ!!へーじっ!!アタシのんやっ!!さわんなっ!!」 「ああっステキっ!!奥まで、いっぱいにひろがって…んんっ……」 自分のセリフに酔いながら、寝転がったオレに跨って根元まで呑み込んだ『人形』が、徐に腰を振り出した。 |