■ 第 5 話 ■ by ひろ |
おそるおそる、和葉は玄関ドアの向こうにいる人物に声をかけた。 「どちら様ですか?」 「おー、和葉。ワシや。鍵忘れてしもた。」 「おとうちゃん!」 ホッとした表情で鍵を開ける和葉の後ろで、 平次の背には冷たい汗が流れる。 愛娘には甘いこの父親に、旧知の仲とはいえ「和葉の彼氏」としての 初めての挨拶が待っている。 「ただいま。おぉ、平次君。来とったんか。」 「はい・・・・こ、こんばんは。」 「お帰り、おとうちゃん。」 どことなく違う娘と親友の息子に、ただならぬものを感じた和葉の父、遠山。 迷わず平次の前に立ち、大阪中の凶悪犯を震え上がらせると言う噂の眼力で 表情の裏側を読もうとした。 いきなりそんな目線を浴びせかけられた平次は、内心焦りつつも 負けじと殺気をこめた視線を返した。 その視線を(まだまだやな・・・)とかわしながらも遠山は、最近まで 下を向いていたはずの目線が、ほぼ平行になっていることに気付き表情をゆるめた。 それを見た平次はホッとして、大切な事を報告するために口を開いた。 「あ、あの・・・おっちゃん。さっき、か、和葉に告白しました。 これからも、よ、よろしくお願いします。」 顔色を伺いながら、どもりつつ報告してくる平次を微笑ましく思いつつも、 目の前の男がついに娘の恋人になったのかと思うと、遠山は複雑な思いだった。 「和葉は・・・どうなんや?」 「アタシも・・・平次が、好きや。」 キッパリと言い切る和葉。 そんなことは昔から一目瞭然だった。 誰だって思わず応援したくなる程の一途な想いが、やっと届いたのだ。 嬉しいはずなのだが、父親として重くのしかかる「娘の恋人は探偵」という不安。 「そうか。平次君、ちょっとワシの部屋まで来てくれ。」 「・・・はい・・・」 「おとうちゃん、夕食は?」 「あぁ、平次君と話が済んだらもらうわ。用意しといてくれ。 話終るまで、こっち来るんやないで。」 「はーい。」 平次は、やっと想いを伝える事が出来た大事な彼女の父親から、 見えない鎖でぐるぐる巻きにされたような、そんな息苦しさを感じていた。 その雰囲気を察してくれない和葉に、少しだけ恨めしい視線を投げかけ 遠山の後に続き、部屋に向かった。 部屋の真ん中にある、どっしりとした欅の一枚板で出来た座卓に向き合って 腰を下ろし、相手の出かたを窺う。 ・・・重々しい空気が漂う。 「まぁ、いつかはこうなると思っとったけどな。ワシの予定より随分早なったなぁ、 平次君」 「・・・いや・・・あの・・・」 「平次君もな、和葉のこと好きやっていうのは見とってわかってたけどなぁ・・・・ 平気で何時間も待たせたり、和葉のこと何度も危険な目に合わせたこともあったからな。 親としては複雑な心境や。」 「・・・・・・・」 「この先も探偵やって名乗るんやったら、人から恨まれたり命が危なくなったりする事 やってあるはずや。もっと強なって大事なもん守る力つけなアカン。精進してくれや。」 「・・・はい・・・」 「それに、時には和葉を守るために、嘘ついたり離れたりせなアカン事も出てくるやろ。 そういう覚悟は出来とんのか?」 「・・・はい・・・」 「そうか・・・・ほんなら・・・・」 遠山は厳しい視線を平次に向けつつも、なぜかのんびりした口調で話し出した。 「四国の方で、後輩の奴が追っとるヤマなんやけどな・・・・ 一年程前に起こった事件なんや。犯人の目星はついとるらしいが、アリバイがなぁ・・・・ 下手したら迷宮入り言われ始めてな、ワシんとこ相談に来よった。」 「・・・・・・・」 「平次君、行ってやってくれんか?」 「・・・はい!」 「ただな、和葉には言うたらアカンぞ。」 「何でですか、おっちゃん!?」 「結構キツイらしいからな。何日かかるか分からんぞ。 10日か、2週間か・・・・・それ以上かもしれんなぁ。」 「そやったら!なおさらちゃんと和葉に言うとかないと心配するし・・・・」 「そうやな。和葉に何も言わんと突然消えて、途中、一切連絡を取らん・・・ そりゃあ和葉は心配するやろし、泣きもするやろな。 でもな、平次君のこと信じとったら、つらくっても待っとるはずやで。 和葉にも、そういう覚悟は必要や。そうやろ?」 「・・・・・・・」 「平次君は、和葉が泣いとるの分かっとって、会えんし電話もできひん。 そんな状態で事件に向かうわけや。解決せな帰れんから長引けば、 ますます泣かせることになる。苦しいわなぁ・・・・」 「・・・・・おっちゃん・・・・・」 「これはワシからの・・・何ちゅうか、テストみたいなもんや。受けるんやったら 今日はすぐここから立ち去って、明日から行ってもらう。」 「・・・・・・・」 「もちろん平次君が、こんなテストみたいな事せんでも二人の絆は大丈夫言うなら 事件は断ったってええで。ワシは和葉の泣き顔なん、見とうないしな。 別に2人をいじめたい訳やあらへん。何も言わんから良く考えて平次君が決めるんや。」 和葉につらい思いをさせてまでも、事件を解きたいという気持ちが先なのか? それとも、恋人になったばかりの和葉を優先するのか? どのような結論を平次は出すのだろうか。 遠山はそう思うと、腕を組み目を閉じた。 眉間にしわを寄せ、考え込む平次。 平次には和葉と同じ時間を共に過ごし、一緒に成長してきたという 自信のようなものがあった。 しかし、さっき想いが通じあったばかりの和葉を、いきなり不安にさせたくはない。 幼馴染としての信頼関係は出来上がっていても、恋人としてはまだまだ 歩き始めたばかりだ。 もうすぐハロウィンだと言って、オレンジ色のかぼちゃを抱え、はしゃぐ和葉の笑顔を 思い出した。 断ろうか・・・・・でも・・・・・ 一方で探偵として、その難事件を解決させたいという気持が、ふつふつと湧いてきて・・・・ 集中すればもっと期間を短縮できるかもしれない。 もしかすると和葉は、気持ちをちゃんと伝えた後だから、心配しつつも信用して 待っていてくれるかもしれない。 平次はそんな事を考え始め、大きく心は揺れ動いていた。 |
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平次は、遠山からの事件の話を? 「受ける」 それとも 「受けない」 |
「 かぼちゃのワルツ 」 |
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< TRICK OR TREAT ? > |
■「和葉に気のある宅配便」バージョン by phantom 『宅配便で〜す!和葉ちゃんいてる〜〜〜?!』 「ほれ、あのチャラいヤツやないかい。オレが二度と来れんように追い返したる!」 平次はずかずかと玄関に向おうとしたが、和葉に止められてしまった。 しかも、 「それやったら、あたしにええ〜考えがあるんやけど。」 と悪戯っ子のような笑顔。 和葉はそれから、「今、ちょっと手ぇ離されへんから30分後にもういっかい来てくれへん。」と声だけで配達員を帰し、平次を連れて自室に入っていった。 30分後、再び宅配便来宅。 「は〜い。今開けま〜す!」 明るい和葉の声がして、玄関が軽やかに開いた。 「和葉ちゃん今日もかわ・・・・い・・・・・・・・・・・ゲッ!」 宅配便のチャラオは、顔を真っ青にして一気に数歩下がっていった。 「どしたん?」 玄関にいる和葉が不思議そうに顔を傾げている。 「かかかか・・・・・・・・・・かず・・・・・・・・・和葉・・・・ちゃん?」 「もう、いまさら何言うてんの〜〜。」 声は確かに和葉である。 「きゅ急に・・・・・え・・えらい・・・・ごっつ〜・・・・なっ・・・・・ヒェッ!」 和葉に半眼で睨まれる宅配便のチャラオ。 「もう何なんよそれ〜〜。失礼ちゃうん〜〜〜。」 和葉の口が動くのに合わせて、聞こえて来る声は確かに和葉本人には違い無い。 「ハンコいるんやろ、早持って来てや。」 と和葉が数歩前に出ると、配達員のチャラオは「たっ助けて〜〜〜!」と荷物をその場に置いて逃げ帰ってしまった。 「やった〜〜〜!!大成功やん!!」 「・・・・・・・・・。」 家の中から出て来た和葉は大喜びだ。 一方、さっきから玄関にいる和葉?は何やら顔が引き攣っている。 もう、お分かりと思うが、配達員のチャラオを相手にしていたのは和葉に変装(仮装)した平次だったのだ。 ポニーテールのウィッグを付けて、和葉のセーラー服を着た平次。 余談だが、ウィッグはハロウィンの仮装用をポニーテールにしてリボンをつけたモノで、服は当然サイズが合わず背中はガムテープで止められている。 声は胸ポケットにある携帯から和葉本人がしゃべっていたのだ。 「あの宅配便にはあたしも困ってたし。これで、もう二度と来〜へんやろ。」 和葉はニコニコとご満悦。 「・・・・・・・・・・。」 平次はどうも納得がいかないようだが。 そんなこんなで落ちていた荷物を拾って玄関に入ると、 「和葉〜帰ったで〜。」 と遠山父がナイスなタイミングでご帰宅されてしまった。 「あっ!お帰りお父ちゃん!」 「 ! 」 父、そのまま白目を向いて気絶。 父からは和葉?に隠れて和葉が見えなかったのだ。 それでも声は可愛い愛娘のモノで。 ・・・・・ご愁傷さま。 それから当分、平次が遠山家に出入り禁止になったのは言うまでも無い。 平次くん今日の教訓 「 イタズラは程々にせなあかんで!特に女装はあかん変態や! 」 ちゃんちゃん。 |
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