■ 第 7 話 ■ by 水杏リン |
「え、服部くんと連絡取れないの?」 心底驚いたような蘭の声に、和葉は携帯を持つ手を変えて小さく頷いた。 幼馴染である平次と想いを通じ合わせたのが一週間前の事。 その翌日から、彼は忽然と姿を消した。 恋人となった和葉に何も伝えず、自分の居場所を教えるような手がかりさえ残す事無く。 どれほど電話を掛けようと留守電に接続され、どれだけメールを送ろうと返事が来ることはなかった。 「もしかして平次、アタシと付き合うのが嫌になってしもうたんやろか?」 「何言ってるの!!服部くんが和葉ちゃんに愛想を尽かすなんて、新一が探偵辞めてホストに転身するくらいありえないんだから!!」 いつになく沈んでしまっている和葉を元気付けようと力説する蘭。 その隣で何かを(おそらくコーヒーだろう)を噴き出す音と、咳き込みながら「何つー例えだよ・・・」と苦笑する新一の声が聞こえた。 東京の二人は今日も仲睦まじいようだ。 その事が羨ましくもあり、妬ましくもある。 そんなことを考える自分に自己嫌悪し、和葉は嘆息した。 「心当たりはないの?」 「思いつく所は全部探してみたんやけど・・・・もしかしたら平次、大阪にはおらんのかもしれん・・・」 「どうして?」 「なんか・・・そんな気がするんよ」 「そっか・・・」 深く追求しない蘭をありがたく思いつつ、何度目になるかわからない溜息をこぼす。 「ごめんね、和葉ちゃん。役に立てなくて」 「そんなことない!!話し聞いてくれただけで十分や!!こっちこそ、邪魔してごめんな」 「気にしないで、何かしてたわけじゃないんだから。・・・え、何?和葉ちゃん、新一と代わるね」 「ええ?」 なぜ新一が・・・そう考える間もなく、受話口から聞き覚えのある声。 「和葉ちゃん、服部の事信じてやって。ゴメン、俺からはこれぐらいしか言えない」 「・・・わかった。ありがとな」 その後、蘭と一言二言交わし、和葉は電源ボタンを押した。 新一の意味深な言葉。 彼はきっと何かを知っている、あれは自分に対するギリギリのヒントなのだ。 一週間前の平次を思い出す。 何か言いたげな顔をしていた。 敢えて追及しなかった自分、否、はぐらかされたのだ。 「あの時・・・・・・」 思い出せ、何かあったはずだ。 自分は彼に違和感を感じたのだ。 「・・・・・帽子!!」 彼は、ツバを前にして被った。 それはスイッチ・オンの合図。 ・・・・でも、何に対して? 鍵を握るのは自分の父親。 「平次、アタシをナメるんやないで・・・」 意を決して、和葉は父親のいる部屋へと足を向けた。 平次が旅立って一週間、娘の落ち込みようは目を背けたくなる物だった。 予想していた事とはいえ、辛くなる。 「けど、これもお前のためや」 そう言い聞かせ、遠山は嘆息した。 その語尾に重なる荒々しい足音。 「お父ちゃん!!」 勢いよく開かれた襖の向こうには、憤慨した様子の和葉。 どうやら勘付いたらしい。 さすが刑事の娘であり、探偵の幼馴染・・・否、恋人か。 「なんや、和葉?騒々しい」 感情を表に出さず、遠山はゆっくり娘の方へ振り向いた。 「平次、どこにやったん?」 「何のことや?」 「しらばっくれてもあかん!!お父ちゃんと話した後の平次、様子がおかしかったんやで?何ふっかけたんよ!!」 「知らんて言うてるやろ。言いがかりはやめ」 ぴしゃりと返され、和葉は押し黙る。 この父親が一筋縄ではいかないことくらいわかっていた。 知らないと言い張られれば、それまでだ。 けれど、もどかしい。 「〜〜〜〜〜っ!!もうええ、平次はアタシが探し出したる!!」 捨て台詞を残し、部屋を飛び出そうとする和葉。 その背に、遠山は静かに呟いた。 「そんなもんか、お前の平次くんに対する想いは?」 「・・・どういう意味や?」 振り返る和葉の眦はつり上がっている。 今にも零れ落ちそうな雫をこらえた瞳は大きく揺らいでいた。 「たかが一週間連絡とれんだけで壊れてしまうもんなんか?それやったら、今すぐに離れた方がええ。お前のためや」 「何でそんな事言うん!!」 「平次くんは探偵や。これからもこういう事がないとは言い切れん。その度にお前はそうやって大騒ぎするんか?平次くんの足を引っ張るつもりなんか?」 「・・・・・・・・」 「頭冷やしぃ。平次くんの方がよっぽど聡かったで」 何も言い返せず、和葉は静かに襖を閉めかけ・・・・・・・・・ 「お父ちゃんなんか、嫌いや」 小さな反抗を示した。 余談だが、この日から遠山の食事は貧相になった。 机の上に置かれた「これでも食べやがれ」と言わんばかりのカップ麺と、やかんになみなみと注がれている水に娘の幼稚さを知らされ、遠山は涙した。 部屋のドアを力任せに閉め、和葉はその場に座り込む。 何も言い返せなかったのが悔しかった。 父親の言うことは正論だ。 自分はただ駄々をこねているだけ。 不意に新一の言葉が思い出された。 あれは新一を通じて自分に送られた平次からのメッセージ。 「平次・・・信じてるから、早く帰ってきてな」 その日から和葉は泣かなくなった。 そして、平次と連絡を取ろうとすることもやめた。 平次が姿を消して2週間がたった。 一人で帰る事にも慣れてしまったな・・・そんな事を考えていると、 「和葉!!」 懐かしい、求めていた声が聞こえた。 振り返る先には待ちわびていた、その人。 「平次っ・・・・」 涙ぐみ、和葉は駆け出す。 |
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和葉は帰ってきた平次に? 「感極まって抱きついた」 それとも 「怒りのままに攻撃した」 |
「 かぼちゃのワルツ 」 |
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< TRICK OR TREAT ? > |
■「探して会いにいく」バージョン by phantom とうとう待ちきれなくなった和葉は、単身平次を探しに四国に行くことにした。 しかし・・・・・実際辿り着いた四国は和葉が思っていた以上に広かった。 静華からだいたいの場所は聞いていたのだが、その範囲すらたった一人の人間を探すには広大過ぎたのだ。 携帯も電源が落とされているのか繋がらない。 そんな困り果てた和葉に声を掛けてくれた人達いた。 菅笠に白装束、手には金剛杖を持ったお遍路さんのグループである。 余談だが、お遍路さんとは四国八十八箇所の霊場を回る人のこと。 途方に暮れていた和葉は、これ幸いと彼らに付いて霊場を回りながら平次を探すことにした。 一方平次は、和葉に心配を掛けたくなくて必死の思いで事件を解決し、大阪に戻って来ていた。 が・・・・。 もちろん、和葉はいない。 何度和葉の携帯に掛けてみても、冷たいアナウンスが聞こえて来るばかり。 焦った平次は、府警本部の遠山父に会いに行ってそこで初めて和葉が自分を探しに四国に行ったことを聞かされた。 遠山父も和葉はもうとっくに平次と合流したと思っていたものだから、今度は二人揃って慌て出したのだ。 遠山父が掛けてみても、和葉の携帯は一向に繋がる気配が無い。 和葉が四国に渡ったことは、高松に着いた時に一度父に連絡を入れていたので確かである。 だが、そこから後の足取りがさっぱり分からないのだ。 和葉が四国に入ってからすでに3日は過ぎているというのに。 超心配性の父は、いてもたってもいられずに四国全域に和葉捜索の依頼を出してしまった。 四国中の警察官が和葉一人を探し回るはめになったのだ。 もちろん平次もすぐに四国に戻り、和葉を探し始めた。 そのころの和葉はと言うと、すっかりお遍路さんグループに馴染んで、自らもお遍路スタイルに変身し楽しそうに霊場を巡っていた。 しかも、どうも当初の目的を忘れているご様子。 この時の和葉の目的はそれぞれの霊場にて、”平次の為にお守りを買う”に変わっていたのだ。 頼みの綱の携帯も電池の切れた状態で、カバンの底にその存在自体を忘れられていた。 四国中の警察と平次が、昼夜を問わずに和葉だけを探し初めて早3日。 そろそろ本格的に和葉捜索本部を作ろうかと父が思っているところへ、やっと愛娘発見の一方が。 しかし、 「どしたんお父ちゃん?あたしやったら元気やで。霊場回ってお父ちゃんにもぎょうさんお守り買うたから、楽しみにしとってな。」 と当の和葉は自分が捜索対象になっていたなどまったく思って無い様子。 少々顔が引き攣ったものの、元を糺せば自分が元凶かとひたすら我慢の父であった。 平次の方は和葉が保護された警察署に速攻赴いて、こちらもやっと愛しい恋人と感動の再会。 かと思いきや、 「何やってんねん!!」 と言いたくなる状況だった。 「あれ?平次?どしたんそんなに慌てて?」 和葉はいたって元気だし、机一面に並べられたお守りの数たるや数えるのも面倒なくらい。 しかも、その一つ一つを側にいる婦警に笑顔満面で説明している有様。 「お・・・おま・・・・・。」 「 ? 」 無邪気な笑顔を向けられると流石の平次も二の句に詰まる。 「あっ!そうや!平次!あんた今までどこにおったん?!」 固まってしまった平次に変わって、やっと本来の目的を思い出した和葉が反撃を始めてしまった。 こうなると怒涛の如く続く和葉の小言に平次が叶う訳も無く、ひたすら謝り宥め賺してなんと落ち着かせるという体たらく。 結局、誰も和葉に勝てないのである。 平次を探しに出たはずの和葉が探されて、探されるはずだった平次が和葉を迎えに行ったというややこしい結末。 平次くん今日の教訓 「 出かける時は行き先をちゃんと言うてからやないとあかんで! 」 ちゃんちゃん。 |
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