■ 第 8 話 ■ by yuna |
時間が、 心臓すら鼓動を打つことを忘れたようだった・・・。 駆け足で夕闇が迫ろうとする刻を、二つの影が静かに止める。 (こんなに離れることに不安になったことはあっただろうか?) 今二人は同じ思いを胸に久方ぶりの再会を果たした。 「和葉!!」 「へ、平次っ・・・・」 懐かしい声が響く。 突然姿を消し、行方も分からぬままの2週間。 その間、和葉は不安に押し潰れそうになりながらも ただひたすら平次を待ち続け、平次もまた和葉の泣いている顔が脳裏を過ぎりながら、一日も早い帰還に向け事件を解決しようと努力した。 ( どんな顔してアイツに会おう? ) ( 帰ってきたら、何て言おうか? ) もし目の前に平次(和葉)が現れたら・・・。 ずっと、そんなことを思い巡らし ”孤独” と闘っていた二人。 大事な人だから、尚更。 だが・・・、 「平次っ・・・・」 そこには涙ぐみ肩を震わす和葉の姿が。 この時、初めて平次はどれだけ自分が和葉に辛い思いをさせたかを思い知った。 しかし、同時にこうして待ち続けてくれた和葉を心底愛おしく思えたのも確かで、やはり自分には和葉しかいないという気持ちが、ジワリジワリと湧き出してきた。 「 ただいま・・・・和葉・・・・」 精一杯の愛情を込め、平次はその言葉を和葉に送る。 もう、離しはしないと・・・。 そんな平次に対し俯いたままの和葉。 少し心配になり平次が歩み寄ろうとすると、唇をかみ締め何かを耐えるような表情の和葉がフッと顔を上げてみせた。 ほんのり高揚した頬がやけに色っぽい。 目を潤ませ何か言いたげな様は、どこか知らない女のように感じる。 ( 2週間で、こんなに変わるもんなんか? ) それは、離れてみて初めて分かったこと。 幼馴染の関係では気付かないモノを垣間見れたような気がして・・・、平次は少し嬉しくなり、そんな和葉を受け止めようと決心する。 「おおきに・・・ ちゃんと待っとってくれて。 ・・・来いや、和葉 」 大きくその腕を広げた平次。 それに答えるように、和葉も微笑みを返す。 そして、和葉はありったけの力で平次の胸に向かい、飛び込もうと駆け出したのだった。 感動の再会。 平次はその愛しい体を抱きしめられる喜びに胸震わせ、 ・・・そっと瞳を閉じた。 だが、次の瞬間―――! 「ふざけんなっ、ボケ―――ッ!!!!」 怒鳴り声と共に、和葉は頭突きを平次の顎に食らわしたのだった。 それに驚いたのは平次の方だ。 さすがに鍛え上げられた身体は和葉の一撃では沈まなかったが、不意を付かれたため思わずグラリと片膝を付き、顎を押さえる。 そして何が起こったのか理解が出来ず放心状態のまま和葉を見上げた。 「なっ? オマエいったい・・・??」 ただ呆然と見つめる平次に比べ、・・・和葉は少し悲しげな表情。 繰り出した攻撃で荒れた息を整えながら平次の側にしゃがみ込むと、 「今度こんなことしたら・・・ 絶対許さへんから・・・」 と言って、大粒の涙を流したのだ。 (・・・あぁ・・・そういうことか ) 何年幼馴染をしてきたんだ? ・・・和葉の気持ちがようやく理解できたのか、平次は納得したように空を仰ぐと、そっと和葉の背中に腕を回した。 ビクリと反応する細い身体。 それを包み込むように抱きしめながら、 「オレが間違ごうとったわ。 すまなんだな、和葉・・・」 平次は視線で心を通わせ、そう和葉の耳元で囁いたのだ。 どれくらいそうしていたのか。 お互いの絆を再確認しあった二人は、ここが路上だということを思い出し慌てて立ち上がる。 そして、 ”そういえば・・・” と、今日がちょうど遠山の非番の日だという事を思い出した。 今回の捜査の件は元々遠山が仕組んだこと。 これをキッカケに変わった自分の気持ちを少しでも早く伝えたくて、平次は和葉の手を取り微笑み合うと、遠山に会うため 急ぎ遠山家に向かうのだった。 「おっちゃん、ただいま戻りました」 手と手をを取り合い目の前に現れた娘の ”彼” に、遠山は思わず眉間を顰める。 しかし自分との約束を果たしてくれたこの男に、同時に嬉しさも込み上げてきた。 少し寂しさも覚えるが・・・。 そう思った遠山だが、取り合えず平次は自分との約束を果たしたのだ。 探偵としても、娘の恋人としても合格だろう。 「平次君の覚悟は見せてもろうたわ。 和葉も、何とか待てたようやしな 」 祝杯でもあげようと席を立つ遠山。 だが、そんな遠山を呼び止めもう一度座らせると、平次はハッキリとした口調で今回の件で自分がとった行動が間違いだったと言い出したのだ。 「おっちゃん・・・ オレ今回のようなこと、もう和葉には絶対しません 」 「・・・・・・なんやて? 平次君 」 鋭い眼光の対峙。 意外な平次の言葉に遠山の顔が歪む。 だがそれには負けず、更に平次は自分の想いを語り出した。 「やっぱり、出来る限りオレは和葉を側に置いておきたいんです。無理なときは、何か形だけでも残すようにして。 ・・・まぁ、これはオレのエゴかもしれへんのやけど 」 「じゃあ平次君は和葉を危険に巻き込んでもええん言うんか?!」 父親らしい厳しい視線を送る遠山が思わず声を上げた。 危険に身を置く立場でそう言い放つ平次が、遠山には信じられなかったからだ。 だが、それを平次は視線で制し 尚も話し続ける。 「オレ達、今までずーっとそうやってきたんです。 和葉は大人しい待ってるだけの女やない、 きっとオレのためなら火の中へでも飛び込む女なはずや。 おっちゃん・・・ そんな和葉と、オレはこれからも一緒に歩いて行きたいと思うとるんです」 「平次君・・・」 「約束します。 これからも和葉は、オレが必ず守ってみせますから!」 隣では、平次の手をずっと握って聞いていた和葉が目を潤ませている。 その顔には、何があっても離れないという決意が感じられた。 それを見た遠山はため息を付き・・・そっと目を閉じた。 脳裏に浮かぶのは、愛娘が幼馴染と一緒に歩き続けた17年間の思い出。 そんな二人を温かく見守り育んできたのは、間違いなく自分だということを。 ・・・それが、この二人の生き方なのだから。 「せやな、確かに平次君の言う通りや。 和葉は黙って待ってるような・・・そんな 娘やないしな。 これからも和葉のこと頼んだで、平次君 」 遠山は改めて二人に笑顔を送り、これからの二人を見守っていくことを誓ってくれたのだ。 幼馴染から恋人へ。 他人には理解出来ない関係でも、それはそれでいいのかも知れない。 ”いつも一緒に・・・” それだけは、変わらぬ想い。 時には寄り添い助け合う。 そんな新たな道を、二人はこれから歩き出すことだろう。 遠山にも認められて ようやく一息つく二人。 今は和葉の部屋に二人きり。 下には遠山がいるとはいえ、今のこの状況はヤバイかもしれない。 気持ちを確かめ合い昂る気持ちが平次に邪な気持ちを芽生えさせた。 隣には愛しい和葉。 これはチャンスだ! 「かず・・・」 「ま、待って!!」 今度こそ一気に唇を奪うため顔を寄せた平次だったが、和葉はそれをスルリとかわし、その前に話が・・・と言って、ジッと平次の顔を見つめた。 「今回のことやけど・・・ この2週間、ホンマにアタシ辛かったんやで?」 「・・・うっ 」 思わず肩に回そうとした手が止まる。 どんな理由があったにせよ、連絡も取らず2週間。 これは4時間待たせた ”あの時” 以上。 ・・・もちろん新記録更新だ。 恐る恐る和葉の顔色を伺ってみる。 どうやら怒ってはなさそうだ。 じゃあ、いったい何だと言うのだ? すると瞳を輝かせた和葉が、平次に擦り寄り何かを企んでいるような顔で、 「やからアタシの望みを一個叶えて欲しいんやけど・・・」 と言った。 「望み?」 今の平次に和葉の望みを断れるはずがない。 どうやらこれから先 主導権は和葉に握られそうだ、と心で感じながら平次は、「どんなことか言うてみぃ 」 ・・・と、不安気な表情で和葉を促し、降参のポーズを取る。 それを見て、和葉はニヤリと笑った。 「明日学校へ行ったら、みんなに付き合ってる宣言してな!」 そう言い放ち、満面の笑みを浮かべる和葉。 理由は、 ”やって、真沙子らに自慢したいんやもん・・・” ・・・だそうだ。 |
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和葉に学校で交際宣言をしろと言われた平次は? 「堂々と恋人宣言をする」 それとも 「やっぱりいつものように冗談でごまかしてしまう」 |
「 かぼちゃのワルツ 」 |
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< TRICK OR TREAT ? > |
■「感極まって抱きついた」バージョン by 月姫 目の前に現れた待ち人に、和葉の手から荷物が滑り落ちる。 ――2週間。 数字にしてしまえば、たったの2週間。 けれど、それこそ双子のように育ってきた2人にとっては、顔を見る事はおろか声すら聞けずに過ごした2週間は、あまりにも長い空白期間だった。 「平次っ!!」 真っ直ぐに飛び込んで来た和葉を受け止めた平次が、そっと包み込むように抱き締める。 2週間の不足を補うにはそれではまだ足りないとばかりに、和葉は平次の背中に回した両手に力を込めた。 「どこ行っとったんよ!」 「すまん」 「あの大遅刻ん時、連絡だけはちゃんとするて約束したやん!」 「悪かった」 「お父ちゃんとグルんなっとったんやろ!?」 「それは……」 「平次もお父ちゃんも嫌いや!」 嫌いと言う声が、涙で擦れている。 和葉にも、父や平次の気持ちはちゃんとわかっている。 それでも、今の和葉にはこの言葉以外にこの2週間の心が潰れそうな程の不安を表す術がないのだ。 平次にも、和葉のその複雑な気持ちは読み取れた。 「それだけは勘弁してくれ」 一度ぎゅっと抱き締めて、平次は改めて最初に告げたかった言葉を和葉に届けた。 「ただいま、和葉」 「……おかえりなさい」 |
オマケだよん! |
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