新蘭の平和観察日記 −7月31日金曜日@−


どこまでも晴れ渡った青い空。
そこに、これぞ夏の雲って感じの真っ白な入道雲。
ゆっくりと視線を下せばどこまでも緑が続いている。
「ほんま避暑地って感じやね」
「ほんとだね」
私と和葉ちゃんは新一と服部くんが大学で所属してるサークルの夏季合宿に特別に参加させて貰うコトになって、東京を離れたこの素晴らしい大自然の中に来ていた。
「ふう〜。それにしても結構歩かなあかんのやね。こんなに歩くんやったら、もっと荷物減らしとくんやったわぁ〜」
そう言いながら和葉ちゃんは、被っていた帽子をそっと脱いでハンカチで額の汗を拭った後、長い髪がサラサラと風に靡いて一瞬女の私でさえ見惚れる様な綺麗な横顔で空を眺めた。

和葉ちゃんは高校を卒業すると同時に、服部くんとちゃんと付き合い始めた。
卒業式の日に女の子達から散々追い掛け回されて見るも無残な格好になった服部くんが、後輩や友達と別れを惜しんでいる和葉ちゃんの元に逃げ込んで来て『俺の女はコイツだけで十分や!』と啖呵を切ったのが始まりらしい。
なんかとっても服部くんらしい。
和葉ちゃんは『手抜きや〜〜!』とか『乙女のロマンが〜〜!』とか言ってたけど、電話越しでも嬉しそうなのが十分に伝わって来た。

「ふふ…」
「蘭ちゃん?」
私が突然笑ってしまったから、和葉ちゃんが不思議そうに振り返った。
「和葉ちゃん幸せ?」
しかも更にこんな質問をしっちゃたから首を傾げてるけど、
「あたしの幸せは涼しい部屋と冷た〜いに麦茶にあると思うわ」
ってすぐに少し悪戯っぽい笑顔で返してくれた。
「その意見には私も大賛成かも」
「そやろ?」
「うん。それじゃ行こっか」
私達は再び暑い日差しの中を、目的地目指して歩き始めた。

新一から渡された地図に従って辿り着いたのは、小高い丘の上に経つとてもステキなペンションだった。
私達がその敷地内に入ると、一人の男の人が中から飛び出して来た。
「もしかして、毛利蘭さんと遠山和葉さん?」
「……」
私と和葉ちゃんは返事をする気力も無くて、二人揃ってコクコクと頷く。
炎天下の中を重い荷物を持って2kmはあったと思われる距離を歩いて来た為、へとへとに疲れて果てていたから。
「電話してくれれば駅まで迎えに行ったのに。とにかく中に入って、すぐに何か冷たいモノを用意するからさ」
そう言うとその人は私と和葉ちゃんの荷物をすっと持ってくれて、私達の為にドアまで開けてくれた。
そのまま冷房の効いたダイニングに通され、出された麦茶を二人揃って一気に飲み干してしまった。
「はぁ〜生き返ったわ〜」
「やっと声が出せるね」
私達はさっき言っていた幸せを実感しながら、改めて目の前に座るに男性に挨拶をした。
「すみません。ちゃんとご挨拶もせずに、お茶までご馳走になってしまって」
「気にしなくていいよ。で、え〜と…」
「毛利蘭です」
「あたしは遠山和葉言います」
「ってことは、毛利さんが工藤くんの彼女で、遠山さんが服部くんの彼女でいいのかな?」
と彼は私達を交互に見ながら微笑んでいる。
「えっええ…」
「まぁ…」
はいっ、って返事するのもなんだか照れくさくてちょっと曖昧な返事が出てしまった。
「いいねぇいいねぇ。青春だねぇ〜。あっ、俺はここのオーナー件コックの櫻井健司。で東都大『探偵倶楽部』のOB。よろしくね」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
「なんか、あたしらサークルのメンバーでも無いんに参加さしてもろて、ありがとうございます」
「君らが気にすることは無いよ。どうせ、大野のヤツが無理矢理誘ったんだろ?」
「無理矢理ってことは無いんですけど、宿泊費はいらないからって言われて…」
「そんなん悪いから言うたら、条件つけられたんやけどそれも『先にペンションまで行ってて欲しい』だけやったんですよ」
だから私と和葉ちゃんは『電話して迎えを呼ぶように』って言われたんだけど、二人でここまで歩いて来たの。
それでも私達は申し訳なくて、宿泊費はきちんと払うと申し出た。
「いいって。そんなのは気にしない。君達は招待されたんだからさ。それに大野としは、是が非でも君達には参加して欲しかったと思うよ」
「……」
「……」
櫻井さんの言葉に、私と和葉ちゃんは少しだけ苦笑い。
「もしかして、気付いてた?」
「なんとなくわ」
「全然関係無いあたしらを招待する理由が他に無いから」
そう。
私と和葉ちゃんがまったく関係無い探偵倶楽部の夏合宿にタダで招待された理由、それはきっと新一と服部くんを参加させる為。
どうしても新一と服部くんを参加させたかった理由、それは。
「工藤くんと服部くん。二人ともとっても有名な現役バリバリの探偵だもんなぁ。それに女の子にも人気が有る」
つまり、大勢の女の子を参加させる為。
要するに私と和葉ちゃんは、餌の餌って訳なのよね。
いくら新一や服部くんが純粋に誘ってくれたとしても、待遇良過ぎると返って怪しいって。
「「はぁ…」」
思わず溜息が零れてしまった。
「でもさ。条件は『先にここまで来る』だったんだろ?だったら、それ以外は自由にしてもいいんじゃない?」

「そうよ。他の子にしっかりラブラブ振りを見せ付けてやったら?」

私達の会話に突然入って来たのは、櫻井さんの奥さんで翔子さんて言うとても可愛らしい女性だった。
「どうせ、大野くん達は女の子がたくさん来るコトが目的なんだから、それさえ達成さされば後は気にしないわよ」
「そんなんでええんやろか?」
「いいの。いいの」
初めて会った人達なのに、この二人にはすべてお見通しなんだろう。
なんだか私も和葉ちゃんも気持ちが軽くなって、笑顔で頷くことにした。





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はい。すみません。
まずは皆様に謝っておかなければなりませんね。
私事で申し訳無いのですが、本当にこの数ヶ月まともにPCに触ることすら出来無い日々が続いておりました。
せっかく月さまに協力して頂いたこの企画もすっかり、停滞させてしまい申し分けない気持ちでいっぱいです。
810日は無常にも過去になってしまいしたので、910日で改めて再スタートさせたいと思います。
こんな私ですが、どうぞよろしくお願いしますね。
by phantom

「 新一のバカ〜〜!この地図途中が省略してあるじゃない!もちろん覚悟は出来てるわよね!! 」



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