新蘭の平和観察日記 −7月31日金曜日B−
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健司さんが皆の荷物を持って帰って来てから、新一たちがここに到着するまでに2時間以上もの時間が掛かっている。 「あたしらが荷物持って1時間半やったのに…」 クッキーの焼き具合を確認しながら、和葉ちゃんが溜息のように呟いた。 「ゆ〜っくりと景色を堪能したんじゃない?」 私の会心の笑みと言葉に和葉ちゃんは一瞬目を見開いたけど、 「それやったら、目の保養はもう十分やね」 と少し悪戯っ子みたいに笑って返してくれた。 私と和葉ちゃんの格好は、TシャツにGンズ。 本当は避暑地らしいもっと涼しげな格好が良かったんだけど、お互い悩んでこれに決めたの。 もちろんここに到着するまでは二人共夏らしいワンピースだったんだけど、宿泊費の代わりにお手伝いをするって決めたから動き易い格好に着替えた。 その時、なんだかこうなるんじゃないかな?って思いが私達にはあって、一度バックから出したキャミとショートパンツを再びバックに押し込めて、今着ている服を引っ張り出したって訳。 そう、私と和葉ちゃんはご機嫌斜めなの。 新一と服部くんには悪いけど、二人が想像してるはずの”これぞ夏!”っていう格好はまだ見せて上げらいからね。 だから私達はニコニコと表面上は笑顔を保ったまま、いい色に焼けたクッキーを可愛らしいお皿に盛っていたら、 「あらあら、なんか恐いわよ?」 といつの間にか私達の側に戻って来ていた翔子さんが、面白そうに下から顔を覗き込んで来た。 「せっかく彼氏が来たっていうのに、なんでメドゥーサの笑顔なのかしら?」 「そんなに恐いですか?」 「見る者すべてを凍りつかせるくらいにわね」 「いっそのこと、み〜んな固まって欲しいくらいなんやけど」 相変わらずの笑顔のまんま、私と和葉ちゃんは作業をこなしていく。 その横でグラスごと冷やしておいたアイスティをトレイに載せていた健司さんが、 「確かにあれは凄まじいけど、君達の彼氏もがんばってるよ」 と言ってくれたの。 「あの状態で何を頑張ってる言うんですか?」 和葉ちゃんの疑問はそのまま私の疑問。 「周りに女の子はたくさん居るけど、彼らは誰一人として寄せ付けてはいないよ」 「「 ? 」」 私達は顔を見合わせてから、もう一度健司さんの方を向いた。 だって健司さんの言ってる意味が分からなかったから。 周りにあれだけたくさんの女の子が居るのに、どうしてそれが寄せ付けていないになるのだろう。 「百聞は一見に如かず。自分の目で確かめておいで」 答えの代わりに、優しい笑顔でそう言われてしまった。 「ほら、出陣の時間よ!女は愛嬌。その笑顔で周り全部固めていらっしゃい」 翔子さんにまでそう言われてしまい、私と和葉ちゃんは意を決して戦場へ飛び込むことにした。 戦闘服はもちろんTシャツにGンズ、プラス”エプロン”て言うスペシャルアイテム付き。 「ほな、蘭ちゃん」 「いざ出陣ね」 私達はたくさんのアイスティを載せたトレイを持ち、笑顔を貼り付けてキッチンから新一たちの居るダイニングに向ったの。 一歩一歩近付く度に、女の子たちの楽しそうな話し声や笑い声が大きくなる。 それらの殆どが新一と服部くんに向けられている。 「冷たいアイスティです」 「ストーレートやから、シロップとミルクの居る人は言うて下さいね」 思ったとおり私達の声で、その場はすべての音を無くしたみたいに静まり返ってしまった。 予想していたとはいえ、流石に一斉に注目されると緊張する。 しかも、なんだか本当に固まったみたいに皆こっちを見ていて、誰一人として動いてる人がいないなんて。 だから、つい不自然に立ち止まってしまった。 前を歩いてた私が止まってしまったから、後ろに居た和葉ちゃんが私の背中にぶつかって『あっ…』と声を上げる。 和葉ちゃんのトレイが… そう思ったのは一瞬で次の瞬間には、傾きかけたトレイは色黒の手で両脇からしっかりと支えられていた。 「何ぽ〜としとねん和葉」 いつの間にこんなに近くにまで来ていたのか、服部くんが後ろから和葉ちゃんごと支える様にして立っていたの。 「蘭、俺も手伝ってやるよ」 私の手にあったトレイは、返事をするより先に新一の手に持って行かれる。 「もう、ちょっとぶつかってしもただけやん」 「お前がどんくさいだけやろが」 「やって〜これ結構重いんやもん」 「ったく…ほんで、どこに置くんや?」 相変わらずいつものやり取りなのね、と思ったら違った。 服部くん後ろから和葉ちゃんを自分の腕に閉じ込めたまま、トレイを持って歩き始めたから思わず私まで唖然。 「蘭!」 「え?」 「何蘭までぼ〜としてんだ?オレがトレイ持っててやるから、蘭が皆に配ってくれ」 「あっ、うん。ありがとう新一」 私は新一の隣に並んで、それぞれテーブルにアイスティを配って回った。 その間、新一はまったくと言っていい程、私から離れない。 常に側に寄り添う感じで居てくれて、少しでも私が離れると直ぐに腕を掴まれて引き戻されたから。 新一も服部くんも今日はなんだか少し変かも? だって和葉ちゃんは結局アイスティを配り終えるまで服部くんの腕の中だったし、私は途中からずっと新一に肩を抱かれていたし。 それに何か言いたそうな女の子たちには、まったく視線を向けることすらしなかった。 健司さんの言う”彼らは誰一人として寄せ付けてはいない”は、こういうことを言うのかな。 だったら、とっても嬉しいかも。 ちらっと和葉ちゃんと服部くんの方を見ると、彼の腕の中で困った様な照れた様な顔をした和葉ちゃんと目があった。 そして、クスッてとても可愛らしい笑顔を浮かべたの。 だから私もお返しに微笑む。 今日は私達の完敗だね、って。 だって拗ねていた気持ちなんて、とっくの昔に綺麗に消えてしまっていたから。 |
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暑い日には冷たいアイスティ〜! しかも激可愛い女の子が渡してくれるなら、文句なしに美味しいはずだ! ↑外面 ↓本性 (笑) by phantom 「 ふ〜ん…。新一は手ぶらでしかも可愛い女の子達と一緒で、とっても楽しいお散歩だったのよねぇ〜? 」
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