新蘭の平和観察日記 −7月31日金曜日F−


健司さんは私たちに合わせてゆっくりと歩いてくれるから、私も和葉ちゃんも始めてここのとても美しい景色を堪能出来た。
だって、ペンションに向ってる時は途中から暑くて辛くて、とても景色を楽しむなんて余裕はなかったから。
「東京からそんなに離れてへんのに、ここは別世界みたいやわぁ〜」
「だろう?一度来たら病み付きになること間違い無し!」
「空気も美味しいし、言うこと無しですもんね」
そんな綺麗な景色と楽しい会話をしながら、目的地であるここ”あいば農場”に到着したの。

「お〜い!武志!チーズ貰いに来たぞ〜〜!」
農場に着くと健司さんは建物に入ることなく横に有る柵から身を乗り出して、遠くで何か作業をしている人に大声で手を振った。
「おお〜今行く!」
びっくりしている私たちを他所に、健司さんもその武志と呼ばれた人もこれが当たり前なのか平然としている。
「うん?どうかした?」
「え?いえ。その…普段あんまり大声を近くで聞くことがないから…」
私と和葉ちゃんの少し驚いた顔が不思議だったのか、健司さんが小首を傾げてそう訪ねてくれた。
「ああ。ごめん、ごめん。そうだよね。東京でこれやると騒音で訴えられるか」
「そこまではされへんけど、苦情殺到は間違い無いと思いますよ」
なっ蘭ちゃん、と和葉ちゃんは苦笑しながら私にも同意を求めた。
だから、
「うん。でも、何だか大声出すのって気持ちよさそう」
と同意に本音もプラスして返してみる。
「そやね。あたしもそう思うわ」
今度は和葉ちゃんが私に賛同してくれた。
「だったら、二人も大声出してみれば?」
「は?」
「ええ〜?それはちょっと・・」
健司さんの突然の言葉に、和葉ちゃんと顔を合わせて苦笑い。
「恥ずかしがることないって。だ〜れも知り合いなんか居ないんだしさ。思い切って叫んでみれば?」
「今…ここで…?」
「そっ、ここで」
「そやけど…」
「だったらさぁ、あいつに向って何か叫んでごらんよ。例えばそ〜だなぁ〜。”武志さん早く〜!”とか”武志さんステキ〜!”とか」
言いながら健司さんの顔は笑ってるの。
「初対面でそれは…」
「いいって、いいって。じゃ初めは二人で声を合わせて”武志さ〜ん!”ってのからいってみようか」
私たちの意見なんか何のその、健司さんは私たちの背中を押して柵に近づけると、「いち、にの」と秒読みを始めてしまった。
もうここまでされると仕方ない。
健司さんの「さん!」って掛け声と同時に、

「「武志さ〜〜ん!!」」

二人で思いっきり大声出して、何か勝手に手まで振ったりしていた。
「次ぎは蘭ちゃんが”武志さん早く〜〜!”で、和葉ちゃんが”武志さんステキ〜〜!”ね」
さっきは初対面でそれはとか言ったけど、もうこのノリに流されてもいいよね。

「武志さ〜〜ん!!早く早く〜〜〜!!」

「武志さん、むっちゃステキ〜〜〜!!」

私たちは左手に花束を抱えながら、右手を大きく振り回して盛大に何度か同じセリフを叫んだ。
叫ばれた武志さんっていう人は、驚いて振り向くと手に持っていたバケツらしき物を落っことして唖然とこっちを見ている。
「がはははは〜〜〜〜!!」
気付くと私たちの横で、健司さんがお腹を抱えて笑い転げていた。
「くくく…武志のあの顔…た…堪らねぇ…」
余りにも健司さんが笑うもんだから、私たちも釣られて笑ってしまった。
だって大声だしたら、何だかとってもす〜って感じで気持ちが軽くなったから。

それから武志さんは凄い速度で私たちの所でま走って来て、散々健司さんに文句を言っていた。
それでも健司さんは笑ってて、真っ赤になって怒る武志さんに私たちを紹介してくれたんだけど、
「武志さん早く〜!が毛利蘭ちゃんで、武志さんステキ〜!が遠山和葉ちゃん」
「「………」」
その紹介っていくら何でも、あんまりなのでは?
私たちがどうしたらいいのか迷っていると、
「可愛い〜だろ?うちのお客さんなんだぜ」
とこれまたどうしていいのか分からない説明を加えてる。
「で、こっちがここの牧場主で相葉武志。照れやで無愛想だけど、結構いいヤツ。ほらっ、お前からもちゃんと挨拶しろよ。せっかくあ〜なに声援送ってもらったんだからさ」
健司さんはまだ笑ってて、武志さんはそんな健司さんを一睨みしてから私たちにちゃんと挨拶をしてくれた。
「驚かしてごめんな。相場武志です。こいつと居るといつもこんな調子でさ。君たちも疲れるだろ?」
「い…いえ」
「そ、そんなことは…」
これにも答え辛い。
私たちは只管愛想笑いを返すだけ。
「で〜、俺喉沸いたんだけど。武志、冷た〜い絞りたての牛乳くれ」
「まったく、そんなめちゃくちゃな注文聞けるかよ。絞りたてが欲しかったら自分で絞って来い。彼女たちには俺が何か冷たいものを出しておくからさ」
そんなこんなで私たちは冷房の効いた建物中で、冷たいジュースと美味しいチーズケーキをご馳走になった。
お花はもちろん、”あいば農場”の奥様、武志さんのお母さんにきちんと手渡した。
渡す時にはちゃんと「翔子さんから預かって来ました」と伝えたのに、何故かお礼にと私と和葉ちゃんそれぞれに手作りチーズやジャムの詰め合わせを貰ってしまったの。
初めは貰う理由が無くて断ってたんだけど、健司さんや武志さんからも遠慮しなくていいからって言われて結局受け取ってしまった。


「あたしら何もしてへんのに、なんか悪い気ぃするんやけど」
「だよね。お花持って行って、叫んだだけだもんね」
お互いに顔を見合わせて、ぷって噴出してしまう。
だって本当に大声出しただけなんだから。
「いいの。いいの。それだけやれば十分だって」
「それってどうなんやろ?」
「はっきり言って失礼なんじゃないかな?」
それでも今度は3人で笑ってしまう。
「その上、目の保養までさせてもろたし。あたしらって贅沢やね、蘭ちゃん」
「うん。健司さんも武志さんも格好良くて、私たちツイテルね、和葉ちゃん」
「おっ!嬉しいこと言ってくれるね〜!もっと言って」
そんな会話をしながら帰り道を楽しく歩いていると、

「随分と楽しそうじゃねぇか蘭」
「だ〜れが贅沢なんや和葉」

新一と服部くんのとっても不機嫌そうな声が聞こえたの。




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無闇に登場人物を増やす私です。(笑)
でもでも、和葉ちゃんや蘭ちゃんから大声で呼ばれてみたい!!
しかし・・・よ〜く考えてみるとコナン世界では大声で叫ぶなんてことはしょっちゅうなのでは?
by phantom

「 う〜ん、どうしよう?新一のエスコートもステキだけど、大人の男性もステキなのよね〜。困ったな? 」



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