新蘭の平和観察日記 −7月31日金曜日H−
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空がゆっくりとオレンジ色に染まっていく。 後ろから流れて来て髪を揺らす風も、遠くに聞こえる木の葉の揺れる音も、とても穏やかで気持ちいい。 本当に贅沢な時間って感じなんだけど、約一名隣りにそんな事はどうでもいいって感じの人間はいるけど。 「新一たちは明日は朝から忙しいの?」 「ああ。朝食が済んだら近くにある某有名推理作家の記念館に行って見学及びその作家についての討論、その後迷いの森と呼ばれる人が入ると二度と出られないと言われる森での真実の検証、その後有名山菜料理の店で昼食、その後今年の初めに起きた別荘立て篭もり事件の別荘が近くにあるからそこで現場検証と犯人の心理分析、その後ペンションに戻って先月起きた模倣事件の犯人について討論、その…」 「も…もういいから……」 思った以上にハードスケジュールで正直びっくりした。 「ストップ、ストップ平次」 「何やねん?まだ、終わってへんで」 「もうええわ。これ以上聞いても覚えられへんし」 どうやら和葉ちゃんも服部くんから、この凄まじいスケジュールを説明されてたらしい。 「ええから最後まで聞けや」 しかも服部くんも未だ機嫌が回復してないのか、声からドゲドゲしたものが感じられた。 「大変だね」 「まったくだ。何だってこんな素晴らしい景色の中、朝から晩まであの鬱陶しい連中とつるんでなきゃなんねぇんだ」 「それは、サークルの合宿なんだから仕方無いんじゃないの?」 「合宿だぁ?そもそも今回の目的わだな」 「うん。目的は?」 「目的は……」 「何?」 どうしたんだろう? 目的は…、の続きがいつまでたっても聞こえて来ない。 新一が黙り込んでしまうと、つい後ろにいる和葉ちゃんたちの話し声が耳に入ってしまうのに。 「それは仕方無いんとちゃう?やって、平次も工藤くんも女の子たちを釣る餌やん」 何の話をしてたかまでは分からないけど和葉ちゃん、そんなにはっきり言っちゃダメなんじゃないのかな? 「その役目やったら、立派に果たしたわいっ!」 「そうなん?」 「おお。オレらがこの合宿に参加すること自体がそうや。他の女が大勢参加したら、それでオレらの役目は終いやったんや!それが…」 「モテル男は辛いなぁ〜〜へ〜じ?」 か…和葉ちゃん……それ以上服部くんを刺激しない方が。 盗み聞きしてる状態だから、大っぴらに二人の会話に入って行けないから余計ハラハラしちゃう。 「蘭。らん!」 「え?」 「何ぼ〜としてんだ」 「ご…ごめん。今日はちょっとバタバタしたから、疲れちゃったのかな?」 危ない。 新一に和葉ちゃんたちの会話に聞き耳立ててたのがバレちゃう。 「そう言えば、蘭たちは駅までオーナーに迎えに来てもらったんだろ?」 「ううん。違うよ。私たちもペンションまで歩いたの」 「はぁ?何で?」 「だって宿泊費いらないって言われてるから、余計な迷惑かけたら悪いと思って」 「あの距離を二人で歩いたのか?荷物もって」 「うん。もう大変だったのよ。暑くて暑くて、だからペンションに辿り着いて健司さんが飛び出して来て荷物持ってくれた時は”神様に見える!”って思っちゃったくらい」 「神様……」 「そのくらい喉も渇いてヘトヘトだったってことかな」 「………」 新一ったらまた黙り込んじゃった。 さっきから本当に様子が変なのよね。 だけど、ついつい気になってる和葉ちゃんたちにちらって視線を向けた。 「あっ………」 見ちゃいけないって分かってるんだけど、どうにも視線が外せない。 体が固まって、歩いてる途中だったのに変な姿勢のまま立ち止まってしまった。 「どうした蘭?」 新一の声が聞こえたけど、それはとても遠くに聞こえて、私の固まった体を元に戻してはくれない。 でも、ゆっくりと新一が振り返るのは分かる。 「なっ!」 新一の声もそこで止まった。 だけど、そこから先は私とはまったく違う。 「何やってやがんだ服部っ!!」 それはそれは大きな声で怒鳴ったの。 さっきあいば農場で私たちが叫んだ声よりも、もっと大きな声で。 「少しは時と場所を考えろっ!!」 「ええやんけ。誰も居らんのやし」 服部くんは物凄く嫌そうな素振りで、新一にそう返した。 「俺たちが居るだろがっ!!」 だから新一の剣幕は納まるどころか、更にヒートアップしたみたい。 「羨ましいんやったら、お前らもしたらええやろが」 「出来るかぁ〜〜!!」 服部くんが余りにも平然と言うから、新一は顔を真っ赤にして切れてしまった。 ズカズカと服部くんと和葉ちゃんに近付くと、徐に服部くんの襟首掴んで和葉ちゃんから引き離したの。 しかも、そのまま引っ張って歩いて行っちゃうし。 残された和葉ちゃんは顔を夕日より真っ赤に染めながらも、唖然とそんな二人を見送ってる。 「か…和葉ちゃん……」 なんとか声を絞り出して、固まっていた体をギクシャクと動かして和葉ちゃんに近付いた。 「……蘭ちゃん」 和葉ちゃんは目元が少し潤んでて、息もいつもより早い感じ。 「大丈夫?」 何て言葉を掛けたらいいのか分からなくて、とっさにそんなことを聞いてしまった。 「……ちょう…言い過ぎたみたいやわ」 俯いて小さな呟きみたいな返事。 つまり私のさっき思ったことが的中したって事よね。 「服部くんを刺激しちゃったんだ…」 「やって…今日もほとんど一緒に居れへんかったし。嬉しいこともあったけど、そやけど……そやけど…平次に……構って欲しいやん…」 最後の方はもう聞き取れないくらい小さくなってた。 赤い赤い顔で拗ねたようにそう呟く和葉ちゃんは、とても可愛らしくて羨ましいくらいに恋をしている女の子の顔だった。 |
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やっと・・・やっとラブラブモード全開か? いやいや、まだ実際にはな〜んもこれといった表現は出てきてない。 それに一応まっすぐ行ってるよね?道から反れて無いしOKだよね?(笑) by phantom 「 お…お嬢さん?お嬢さん……てそんなの新一じゃない!あなたKIDでしょう!? 」
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