新蘭の平和観察日記 −7月31日金曜日I−


ああもう、何だってあんなハードスケジュール組むかな。

綺麗な夕焼けに包まれながら、可愛い蘭と高原の遊歩道を散歩。
買い物が目的だってのはまあこっちに置いとくとして、そんなナイスなシチュエーションなのに俺の機嫌はちょっぴりナナメったままだ。

明日のスケジュール……。
考えただけでも頭が痛えぜ。
多分、俺らがサークル以外の事に余所見出来ないようにって魂胆なんだろうが、そもそもその『余所見』を満喫するのが本来の目的だっての。

おまけに、蘭は蘭でオーナーべた褒めだしよ。
何が『神様』だ!
本当はな、俺が華麗に車でエスコートしてだな、ドライブを楽しみながら来たかったんだ。
……服部と和葉ちゃんも一緒で、和気藹々と賑やかな道中になるのは目に見えてるとしてもな。

主張したい事は色々あれど、まず今はこの時間を楽しまなければ!
手を繋ぐだけじゃ物足りねえ。
よし、肩だ!
肩を抱き寄せて、綺麗な髪の感触を頬で感じて、ついでに可愛い耳にこっそりちゅーとかしてやれ!
よし、やるぞ!
まずは繋いだ蘭の手をさり気なく引き寄せ……ようと思ったのに、動かねえ。

「どうした蘭?」

何だ?と思って振り返って、後ろを見たまま固まってる蘭の視線を辿る。

「なっ!」

あんの野郎!!
後ろを歩いてるのをいい事に、ちゅーしてやがる!!
それも、和葉ちゃんの顔ガッツリ固定して!!

俺の抗議にもしれっとして悪びれねえ服部に俺ん中の何かがプッツンいって、襟首掴んで蘭たちから少しだけ離れた遊歩道脇の大木の陰に連れ込んだ。

「オメーなぁ……」
「ええやろ、キスくらい。ストレス溜め捲りやったんやし」

服部がぺろっと唇を舐める。
その唇が夕日に照らされて妙に艶々して見えたのは、和葉ちゃんがつけてたグロスが移ったんだろう。
探偵の目は誤魔化せねえぜ?

「それに、工藤やってサークルの連中の前で姉ちゃんにデコチューしとったやんけ」
「それとこれとは話が別だ!」

あれは野郎共への牽制と女の子たちへのダメ出しだ。
ちゅーが目的じゃねえ。
ああ、全く話は別だ。

「同じやろ。工藤と違て人目避けてるぶん、オレらの方が場所弁えとると思うで?」
「俺たちが居る」
「振り向かんかったらええだけやん。出遅れたからて、八つ当たりしなや」

こいつっ……!!
ぐっと拳を握り締める。

ああ、そうだよ!
ペンション離れる時にオメーがさり気に俺たちの後ろに回った理由に、今やっと気がついたんだよ!
この俺としたことが、オメーに遅れを取ったのが悔しいんだよ!
探偵だからって、そんな事見抜かなくてもいいだろうがよ!

ぐるぐる唸ってる俺に、服部は悪戯っぽい笑みを寄越した。

「帰りはオレらが先歩くよって、オマエは姉ちゃんとゆっくり後ろついてくればええやん。ちゃんと前向いて振り向かずに歩いたるで?」
「……ぜってえ振り向くなよ?玄関につくまで振り向くんじゃねえぜ?」
「オルフェウスにいざなぎかい!自分のオンナ傍に居るんやから、振り向く必要ないやろ」

確かに、俺だって蘭が足を止めなきゃ振り向く気なんてなかった。
なかったどころか、実はうっすらと服部たちの存在を忘れかけてた。

「時間ないんやし、さっさと行くで」
「……おう」

買い物という名のデートのタイムリミットは、ペンションの夕食の時間。
こんな所で不毛な言い合いして時間を浪費したら、帰りが早足なんて事になりかねねえ。

「行きはこのままオマエらが前やで」

服部のその宣言に、ちらっと嫌な予感が走る。

遊歩道の終わりに差し掛かった時さり気に視線を流したら、案の定服部はまた和葉ちゃんにちゅーしやがった。

本当に侮れねえやつ!






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一応、まっすぐ行ってるよ!!(笑)。
by 月姫

「 KIDだぁ!?あんな節操なしの気障野郎と間違えんなよ! 」



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