新蘭の平和観察日記 −7月31日金曜日K−
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買い物と言う名の散歩から帰って来た時には、俺の機嫌は8割方回復していた。 回復してない残りの2割は、繰り返したちゅーに頬をピンクに染めた超ラブリーな蘭を恋人的な意味で部屋に連れ込めねえって部分で、まあこれは『合宿』って建前がある以上我慢してやる事にする。 服部も同じ事思ってるだろうしな。 「あら、お帰りなさい。早かったのね。もう少しゆっくりしてきてもよかったのに」 約束通り玄関まで振り向かなかった服部と合流してペンションのドアを開けたら、まるで待ち構えてたみてえにオーナー夫人が意味深なウインクを投げて来た。 それを見て、蘭と和葉ちゃんが一気に真っ赤になる。 ああ、可愛い反応するよなぁ。 ラブリーな蘭をほのぼのと眺めてたら、慌てたようにいきなり手を振り解かれた。 「ほ、ほな、あたし翔子さんのお手伝いしてくるから!」 「あ、私も!」 「おい!和葉!」 「蘭!荷物!」 俺たちの声も聞こえてないのか、蘭と和葉ちゃんはオーナー夫人の後を追うように早足でキッチンへと消えていく。 残された俺と服部の手には、たった今買ってきた製菓材料。 「しゃあないなぁ……」 「届けてやるか」 服部と顔を見合わせて苦笑して忘れ物をキッチンへ届けたら、真っ赤な顔のまま荷物を引っ手繰られて、そのまま追い出された。 まあ、いいか。 外野は煩かったが夕食は旨かったし、明日はハードスケジュールだからってのを全面に押し出して今夜はもう自由時間って事に持っていけたし。 とはいえ、このまま真っ直ぐ部屋に行くのも何となく嫌な予感がするしどうしたもんかと食後のお茶を飲みながら考えてたら、オーナーが助け舟を出してくれた。 「ちょっと相談しときたい事があるんだけど、来てくれるか?」 オーナーの指名は、俺と服部と大野さん。 一も二もなくその誘いに乗った俺たちは、訝しそうな大野さんを両側から引き摺るようにして奥にあるオーナー夫妻のプライベートルームにお邪魔した。 ちなみに、部屋割りは蘭と和葉ちゃんが一番奥で俺と服部はその隣、残りのメンバーは適当に分かれてるらしい。 各部屋にシャワーがついてるから野郎共はそれで済ませるつもりみてえだが、女の子たちはやっぱり風呂だと部屋ごとに交代で入るとか言ってたな。 夜の見回り前だからと開けたままのドアから遠くきゃわきゃわ聞こえてくるのは、風呂に来た女の子たちの声だろう。 女3人寄れば姦しいって言うが、全くもってその通り。 確かに、蘭と和葉ちゃんに園子が揃えば賑やかだが、ここまで超音波じゃねえと思うぜ。 主観による感覚の違いが大いにあるのは否定しねえがな。 「しっかし、凄いもんだねぇ」 「そうでしょう?あの女の子たちも大学内だともう少しおとなしいんだけど、合宿って事で弾けちゃってるみたいで」 「あら、それは仕方ないわ。だって『合宿参加』っていう熾烈な競争を勝ち抜いて来たんだもの、そのチャンスをフルに使って自分をアピールしなきゃって思うのが恋に貪欲な今時の肉食系女子よ」 うふふと含み笑いを俺たちに投げて、オーナー夫人がテーブルに缶ビールと軽いツマミを並べる。 「肉食系ねえ……」 「確かに、視線だけで食い千切られそうな気ぃするわ……」 「獲物を狙ってるんだもの、当然じゃない。でなきゃ、あんなに溺愛してる彼女がいるって知ってるのに、合宿にまで参加してアタックなんてしないわよ」 オーナー夫人のセリフに、俺と服部はがっくりと肩を落とした。 「やっぱり来るんやなかったわ」 「同感だ」 「そう言うなって。俺たち、感謝してるんだぜ?まあ、女の子たちがあそこまで暴走するってのは計算外だったけどな」 グラスを遠慮した大野さんが、俺と服部に缶ビールを持たせる。 「せやけどなぁ」 「明日、運転するのは俺たちなんだろ?」 「それはほら、男で免許持ってるのが俺たち3人だけだったから」 明日はレンタカーで移動って事になってるが、誰が運転するかってのでも揉めた。 あーでもないこーでもないと延々とループした挙句に、俺たちの反対を押し切って8人乗りのワゴン2台とセダンに分乗するって事で何とか纏まった。 ワゴンを運転するのが俺と服部で、セダンは大野さんだ。 オーナーが隣町のレンタカーを扱ってる店まで連れて行ってくれるそうだが、どんなグループ分けになってどんな道中になるのかが今から見えるようで、既に俺と服部は疲労困憊してる。 「女は諦めも肝心なのに、あの子たちはまだその辺がわかってないみたいね。若いなぁ」 「若いってのは怖いもの知らずでもあるって事さ。なあ?」 楽しげに笑うオーナー夫妻を前に、俺と服部は襲い来る頭痛にさっきまでの上機嫌が儚く消えていくのをしみじみと感じてた。 |
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せっかくちゅー三昧で機嫌が良くなったのに、明日の事を考えたら頭が痛くなったようです(笑)。 by 月姫 「 俺が気障?それだったら、服部だって結構気障だろ? 」
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