新蘭の平和観察日記 −7月31日金曜日N−
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どうしよう…… まさか新一たちがこんなに本気で怒るなんて、思ってなかった。 「平次もちょう落着いてなっ?こんなんほんまにしょうもないコトなんやから」 「アホいうなっ!!お前をこんな傷モンにされて黙ってられるかいっ!!」 和葉ちゃんも何とか服部くんを落着かせようとしてるみたいなんだけど、まったく取り合ってもらえてない。 「新一も少し冷静になって。ねっ?彼女たちも…」 「悪いな蘭。今回ばかりはいくらおめぇの頼みでも却下だ」 私たちもさっきからこんな調子で、服部くんに続いて新一が取り出した携帯を開かせないようにするのが精一杯。 本当に本当に、何でこうなっちゃうのよ! さっきは私も確かに新一に助けを求めたけど、それはこんなんじゃなくて、もっとすんなりとこの場を納めてくれると思ったからなのに。 これだとさっきより数倍も状況が悪化してるじゃない。 私と和葉ちゃんがお互いに顔を見合わせて途方に暮れていると、どこかで場違いな着信音が流れ始めた。 この狭い廊下にはペンションに居るほぼ全員が集まっているのに、動いてるのも話してるのも私たち4人だけだったから、その音綺麗な音は余計に不釣合いな印象を響かせてた。 「どいつか知らけどさっさと出ぇや。鬱陶しい」 服部くんが突き刺さる氷みたいな言葉と視線を、いつの間にか私たちとは反対の廊下の隅で固まっている女の子たちに投げ付ける。 それに小さく震えたのは、さっきリーダーみたいに話し掛けて来た彼女だった。 「はい……えっ…」 震える声で電話に出た彼女は何か言われたのか、小さく絶句したまま動かない。 しばらく泣きそうな表情で相手の話しを聞いていたけど、最後に「分かったわ…」そう答えて電話を切ると周りの女の子たちを見回し、ゆっくりと首を左右に振ったの。 すると途端に女の子たちが悲しそうな顔になって、泣き出す子まで現れた。 どうしたんだろう? その姿はなんだか余りにも可哀想で、つい今の現状を忘れてしまうとこだった。 「泣いたら許し貰えるなんて思うなよ」 新一の冷た過ぎる声で、私は現実に引き戻される。 私はこんな声音を向けられたことは無い。 まるで事件の犯人を追い詰めてる時みたいな、優しさのカケラも見つけられない低い声。 ああ…もうどうしたらいいの? 私と和葉ちゃんにも悲しい表情が浮かび始めたとき、今度は機会音じゃないベルの音が遠くから聞こえた。 「もう誰よこんな時に!」 「まさか……もう…」 翔子さんと健司さんが階段の下を覗きながら、チラッと新一たちを見た。 「まだ電話もしてへんで」 服部くんが、和葉ちゃんに両手で掴まれたままの携帯電話を持ち上げてみせる。 「だったらどこのバカなのよ。こんな時間に」 翔子さんが嫌そうに階段を下りようとしたら、 「俺が出るから」 と健司さんが始めて見せる真面目な顔で止めて、自分が階段を下りて行った。 皆の意識が、自然と階段下の玄関に向けられる。 私も新一の腕を掴んだまま、意識はそっちに行ってしまった。 「こんばんは。夜分に失礼致します。私たちは東都大学探偵倶楽部に所属する…」 え? 東都大学探偵倶楽部って? 思わず目の前に居る新一の顔を見上げてしまった。 でも、新一も驚いた顔をしてる。 しかも服部くんも、更には大野さんや他の男性部員の人達までも。 違ったのは悲しそうな顔した女の子たち。 その声が聞こえてから、何かを諦めたみたいに肩を落としてみんなそれぞれの部屋に帰り始めたの。 「おいっ!動くんじゃねぇ!」 それに気付いた新一が慌てて彼女たちの動きを止めようとしたんだけど、 「工藤くん、今日はもうその位で許して上げてくれませんか?」 と階段から上がって来た声に遮られてしまったの。 私たちの視線がまた、階段に集中してしまう。 そこに立っていたのは、同年代位の綺麗な女の子だった。 「お前…」 どうやら新一も服部くんも大野さんたちも、知ってる子みたい。 「彼女たち12名は、これから私たち12名と交代します。だから、今は彼女たちを解放して上げて下さい」 私には、この女の子が何を言ってるのか分からない。 「どういう事や?」 服部くんがその疑問を、ぶつけてくれた。 「彼女たちはたまたま抽選に当たってこの合宿へ参加する権利を得ただけで、私たち探偵倶楽部の部員全員が認めた訳ではありません。従って、彼女たちを含めた探偵倶楽部女子部員総勢108名で話し合った結果、彼女たち12名が何か問題を起こしたら即刻違うメンバーと交代するというルールを作りました。ですから、彼女たちはこれから直ぐにここを出る準備をしなくてはいけないのです。それに、彼女たちの名簿は倶楽部でちゃんと保管してますから、このまま姿を消すようなことはさせません。納得が出来無いかもしれませんが、処分は後日ということで、今は見逃して上げて下さい」 でも、返って来たこの答えにビックリ。 凄過ぎるよあなたたち… 「そんな事勝手に決められても…」 部長なのにどこか存在感の薄い大野さんの、しかもかなり弱腰な声がした。 「大野部長には申し訳ないと思っています。しかし、私たちもせっかくのこのチャンスを、いえ、この素晴らしい探偵倶楽部の合宿に参加したいのです」 きっぱりと言い切られてしまうと、「そ…そうなんだ…」って結局納得してしまうのね。 それからの彼女のたちの行動は、とても素早かったの。 突然現れた新しい12名の女の子たちはすでに荷物を持参してて、今までいた女の子たちに荷物を纏めさせると早々にペンションから追い出してしまった。 しかも、どこで書いて来たのか宿泊名簿も用意してて、健司さんに差し替えてくれるよう頼み込んでいたし。 流石にここまでされると新一も服部くんも開いた口が塞がらないみたいで、珍しく呆然と立ち竦んだままだった。 |
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こんな肉食系女子の集団がいたら、真面目に恐いと思います。(笑) by phantom 「 そうかな?”気障”っていったら、派手な服に真っ赤な薔薇のイメージなんだけど……服部くん似合うのかな? 」
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