新蘭の平和観察日記 −7月31日金曜日O−


突然現れた女の子12人。
その先頭で、呆然としてる俺たちに淀みなく流れるように説明という名の決定事項を告げるのは、押しの強さと立て板に水みてえな喋りと行動力が特徴の、サークルメンバーの中でも屈指の仕切り屋の逆巻。
彼女を中心に打ち合わせが済んでいたのか、あれよあれよと言う間に大野さんを黙らせ先に居た女たちを追い出しオーナーに宿泊者の変更を承知させてる。
その見事な手際に、思わず感心しちまった。

確かに、今年の合宿は希望者が多すぎて抽選にしたってのは、大野さんから聞いてた。
どんな方法にしても不正がどうの手心がこうのって言われそうだからと、近くの商店街からガラポン借りてきて希望者集めて大抽選大会やったんだとか。
だが、その影で女の子たちの間でこんな密約が交わされてたなんてな。

……ちょっと待て!

女の子たちの密約はいいとして、何でこんな絶妙のタイミングで現れた?
当選組が問題起こしたら交代って、そんな取り決め俺や服部含めた男たちは誰も知らなかったんだから、自己申告しかねえだろ。
せっかく当選したのに自分に不利んなる事言うワケねえし、内通者作ろうにもそいつも一緒に追い出されるんじゃなり手もいねえと思う。
服部の怒鳴り声聞けば何かやらかしたなってのはわかるだろうが、いくらヤツの怒鳴り声がデカくて間違いなく外まで聞こえてるからって言っても、隣の家は木立の向こうみてえなこのペンションからじゃあ届くワケねえ。

……って事は、もしかして、近くにずっといたのか?
行動力があるってのは知ってたが、こんなにパワフルだったとは思わなかったぜ。
女ってのは侮れねえ。

「この荷物は誰のかしら?」

先にいた連中と入れ替わった女の子の1人が、小さなバッグとタオルを2つずつ両手に持って仲間に掲げて見せてる。
それに反応したのは蘭だった。

「あ、それ私たちのです」
「じゃあ、このリボンも?」
「あたしのや。おおきに」

蘭と和葉ちゃんが取りに行こうとするのを制して、俺と服部が受け取る。
新しく来た女の子たちが訝しげな視線を蘭と和葉ちゃんに、それから物問いた気な視線を俺と服部に向けてきた。

「大野部長、そちらの方たちはご宿泊の方?うちの部員じゃありませんよね?でも、お世話になるペンションのキャパから今回の人数になったんですから他にお客様がいるとも思えませんし、夏休みになってからの新入部員かしら?だとしたら、抽選もせずに合宿に来てるなんて納得いきません」
「あ、いや、その……」

ここでも最初に口を切るのは、見事な仕切りっぷりを見せ付けた逆巻。
俺も服部も何やかやと理由見つけては大学に連れて行ってアピールしてるから、蘭と和葉ちゃんの事は探偵倶楽部のメンバーなら間違いなく知ってる。
なのにしれっと、それも俺たちに直接訊けばいいのに大野さん経由って搦め手で来るあたりも、こいつらしい。

「俺の彼女」
「オレのオンナ」

口篭る大野さんの代わりに、俺たちが答えてやる。

「オレたちが誘ったんや」
「大野部長が一緒にって声かけてくれたんでな」
「そうなんですか?」
「う、うん。そういうわけだから、よろしくな」

合宿場所であるペンションにいた蘭と和葉ちゃん。
髪も服もぐちゃぐちゃな上に新しい傷まであって、更に廊下に投げ出されてた2人の持ち物。
外まで聞こえる程の怒鳴り声と、つい殺気を放っちまうくらいに怒ってた俺たち。

何があったかなんて簡単すぎる程にわかるこの状況に、新入りの女の子たちは逆巻含めてそれ以上突っ込んでこようとはしなかった。
多分、こいつらの後ろにも控えグループがあるから、同じ轍を踏んで今度は自分たちが追い出されねえようにするためだろう。
次の控えグループもどこかにいるのかと思うとげんなりするが、それで大人しくしててくれるなら結構だ。

「和葉、オマエ風呂行くトコや言うてたやんな?」
「うん」
「蘭もだろ?ダイニングで待っててやるから、行って来いよ」
「え?でも……」
「傷の手当てせなアカンやろ」
「オーナー、救急箱ありますか?」

とにかく、もう蘭からは目が離せねえ。
まずは手当てして、部屋に送り届けて、ついでに朝まで付きっ切りでガードしてやる。
和葉ちゃんは服部に任せておけば間違いねえしな。

サークルのメンバーを廊下に残したまま、俺たちは彼女の手を引いてオーナー夫人と一緒に下へと降りた。





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やっと寝られる……かな?
by 月姫

「 薔薇……服部に真っ赤な薔薇……いや、案外似合うかもしれねえぜ? 」



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