新蘭の平和観察日記 −8月1日土曜日@− | |||||
「ん…う〜〜ん……」 あれ? 目覚まし時計がいつもの場所にない… 右手をベットから伸ばして、いつも置いている辺りに彷徨わせてみても何もない。 「……えっ?」 思わず声と一緒に飛び起きて、回りをぐるりと見回してしまった。 そうだった。 ペンションにお泊りに来てたんだった。 「あはは…」 一瞬本当にここが何処だか分からなくて、焦ちゃったじゃない。 でも、まっ、いっか。 お蔭でばっちり目も覚めたしね。 取り合えずサイドテーブルの上で鳴り響いている少しレトロな目覚まし時計を止めようと、ベットから一歩踏み出した。 「ぐぇっ!!」 「キャッ…」 い、い、今何か……踏み付けた…………? ベットから出していた足を再びお布団に戻して、そ〜〜と下に視線を落とすと、 「………し…しん…いち?…」 新一がフローリングの床の上で大の字になって眠ていたの。 な…なんで新一がここに居るのよ?! 「キャ〜〜〜〜!!」 軽いパニックになった私は、新一の上に枕や掛け布団なんかを無造作に投げ付けてしまう。 「お…落着け蘭……イタッ…ちょ…ちょっと待ってって!!」 「イヤァァァァァ〜〜〜!ハッ!!」 しかも私に向って来るもんだから、思わず新一の顎に向けて裏拳を炸裂させてしまった。 「ぐぁぁぁぁぁぁっ!!」 叫び声と一緒に、新一は隣のベットも乗り越えて更にその向こう側へと大きな音をさせて落っこちた。 『キャ〜〜〜〜!!』 しかも何処からか私と同じような悲鳴が聞こえて来たと思ったら、ドンッ!て凄い音と共に隣の部屋との間にある壁が激しく揺れたの。 な…何?? そうだ!和葉ちゃんは?! 「あっ!」 そう思ったとたん、今度こそ本当に目が覚めたみたい。 そうよ…確か昨日… 昨日のすべての出来事を鮮明に思い出した私は、慌てて見えなくなってしまった新一の元へと駆け寄った。 「し、新一大丈夫?」 自分がやってしまった事とはいえ、流石にこれはあんまりだよね。 だって、ベットから後ろ向きに落っこちた新一は右手で頭を抱え、左手で顎を押さえて唸ってるんだもの。 「ごめんさい…」 「い…いや……気にして……ねぇ…から……」 いくら口ではそう言ってくれても、目の前で蹲ってる姿見せられたらとても気になるって。 「取り合えず、頭と顎冷やそっか?私、下で氷貰ってくるね」 そうよね。 とにかく冷やさなくっちゃね。 急いでドアに向おうとしたんだけど、 「本当に大丈夫だから、気にするなって」 とガシッて腕を掴まれてしまった。 「でも…」 「それよりさ」 「うん。何?」 「”イタイのイタイの飛んでけ〜”ってやってくんない?」 「はぁ?」 一瞬自分の耳を疑ってしまった。 ”イタイのイタイの飛んでけ〜”って聞こえたんだけど、これ、あってるのかな? 「それでさ、最後にチュッてして」 「………」 私の耳……大丈夫よね…? 「新一……」 つい表情と声に哀れみが出てしまったかも。 だって、新一はきっと相当盛大に頭をぶつけたんだわ。 ああ〜どうしよう? 「何か変な誤解してねぇか?」 「だって…」 「だってじゃねぇよ、ったく。別に頭がおかしくなった訳じゃねぇ。それくらい分かってくれよな」 「そうなの?」 「そうなの!ほらっ、さっさとしてくれ」 新一は酷く嫌そうな顔をしたけど、ほっぺたが赤いから意識はしっかりしてるみたい。 良かった。 でも、ってことはさっきの言葉どっちも真面目に言ってるってコトだよね。 「ぷっ…」 そうなんだって分かると思わず笑っちゃった。 「蘭…」 「ごめん…今するね」 そんな顔して睨んでもちっとも恐くないんだから。 「イタイのイタイの飛んでけ〜〜!こっちも飛んでけ〜〜!」 新一の頭と顎とに手を当てて、思いっ切り叫んじゃった。 そして最後に、 「早く痛みが取れますように、チュッ」 とオデコにしてみたの。 それなのに、 「違うだろ?」 って無理矢理口を塞がれてしまった。 ………朝なのに… 寝起きに不釣合いなキスをされて、私はそのまま新一に凭れ掛かってしまう。 「せめてこれくらいの特典はつかないとな」 「もう…」 「夜中にベットから突き落とされて、寝起きに吹っ飛ばされたんだぜ?当然だろ?」 「………」 夜中にベットからって…… 「新一」 私はすっと新一から離れると、今までも雰囲気を一気に消し飛ばす声を出した。 「昨日寝る時は別々のベットに入ったよね?」 「うっ…」 新一がヤバイって顔をしてる。 「それがどうして夜中にベットから突き落とされるになるのかな?」 「そ…それは…」 目を剃らして、右手で頭の後ろを掻きだした。 これは新一が答えに困った時にするポーズ。 つまり、 「夜中に私のベットに入り込んだのね!」 ってことよね。 「あっ…いや…」 「寝る前にあれほど約束したじゃない!今日はこのまま別々に寝ましょうねって!」 「いや…だから…なにも…」 「新一の嘘吐き!!はぁ〜〜」 一気に立ち上がると、その勢いで一瞬にして蹴りの構えに入る。 「ら…蘭!!お…落着けって!!」 「問答無用!!」 標的を定めて、右足を少しだけ後ろに引いた。 「やめっ……うわっ!!」 流石に反射神経のいい新一には、僅かの差で私の蹴りは入らなかった。 「待ちなさい!新一!!」 そのままドアから外に出て行こうとするから、慌てて追い掛ける。 「どわぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!」 ドンッ!バタンッ! 私たちが廊下に出るのとほぼ同時に隣の和葉ちゃんたちが居る部屋のドアが勢いよく開いて、服部くんが背中から飛び出して来た。 「ええ加減にしいや平次!!」 威勢のいい怒鳴り声は、もちろん和葉ちゃんのもの。 「朝っぱらから何考えてんの?!」 「それはこっちのセリフや!」 間抜けな体勢から、一瞬で持ち直した服部くんはある意味凄い。 正に目にも止まらぬ早業ってヤツね。 でも、状況を考えると情けないかも。 だって、どうみたって私たちと同じなんだもの。 新一と服部くんて、本当に行動パターンが似てるのね。 なんて考えていたら、自然と肩の力も抜けていった。 それにさっきまで鳴り響いていた目覚まし時計の音は、いつの間にか聞こえなくなっていた。 |
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朝くらい爽やかに目覚めたかったのに……どうしてこうなる?(笑) by phantom 「 ちょっと〜新一何でそんなに笑ってるの〜?はぁ、はぁ。服部くんに失礼じゃない……ぷっ……ぷぷ…… 」
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