新蘭の平和観察日記 −8月1日土曜日B−


新一と服部くんは朝食を食べ終わると、さっさと健司さんたちと出掛けて行ってしまった。
しかも私と和葉ちゃんにしっかりと”あいば農場へのお礼禁止”を言い渡して。
どうしてかな?
ただ昨日のお礼いに行くだけなのに、ご褒美まで付けてそれを阻止しようだなんて意味分かんない。
どうしてそんなにあいば農場に行かせたがらないのかな?

あ!もしかして…
以前の何かの事件でお世話になった時に、悪態ついちゃったとか。

う〜ん。
有り得るんだけど、それだったら”一緒に”ってとこが引っ掛かるのよね。
しかも服部くんまで新一と一緒になって、必死に和葉ちゃんまで説得するんだもん。
傷の心配してくれてるのは分かるんだけど、どうもそれだけじゃ無いって感じがありありだから余計気になっちゃう。

「これって……ヤキモチなんかなぁ?」

ぽそって聞こえた和葉ちゃんの呟きは、私にたった一つの真実を示してくれた。
「そっかぁ〜」

そうなんだ…
私たちは純粋に昨日のお礼に行くつもりなんだけど、新一たちにとったら自分たちの知らない男の人が居る場所に行かせたくないんだ。

ふふ、なぁ〜んだ。
理由が分かると今度は可笑しくなっちゃった。
だってそれならそうと初めから言えばいいのに、遠回しにするから要らない心配しちゃったじゃないの。

私が一人でクスクス笑っていると和葉ちゃんが、
「どしたん?」
て不思議そうな顔をしてこっちを見ていた。
「ううん。ヤキモチなんて妬く必要ないのにね?」
「ほんまに。そやけど、毎回これやから平次の心配症にも困ったもんやわ」
傾げていた首を少しだけ後ろに倒した和葉ちゃんが、溜息交じりにそんな言葉を零した。
「ほんとは嬉しいくせに」
「なっ…蘭ちゃんやって工藤くんが何所行くんでも、行き先と誰と一緒なんか聞いて来る言うて愚痴ってたやんかぁ〜」
「そう…だったっけ?」
「そうやん!」
真っ赤になって言い返して来る和葉ちゃんが可愛くてちょっと惚けてみたけど、実際そうなのよね。
新一ったら、誰と何所に行くんだ?、っていつも煩いくらいに聞いて来るから困っちゃうのよ。

「私たちは準備がありますので、お先に失礼します」

私たちが楽しくおしゃべりしてるのを遮るように、逆巻さんの声がダイニングに響き渡った。
しかも何か声を掛ける前に女の子全員、さっさと出て行ってしまったの。
「今度のはある意味、前のより凄ない?」
和葉ちゃんが彼女たちが去って行った方向を見ながら、そう小声で聞いてきた。
「ほんとだね。何だかちょっと恐いかも」
だから私も和葉ちゃんの耳元でこそっと答える。
「どっちみち、あたしらは」
「お近付きにはなれないよね」
もう苦笑いするより手が無いって感じかな。

「あなたたちもほんと苦労するわね」

そんな私たちに今度聞こえて来たのは、言葉の割にはどこか楽しそうな翔子さんの声。
「いつものことやから」
「いつものことですから」
思わず私と和葉ちゃんの声が重なってしまった。
「モテル彼氏を持つとほんと大変ね」
私健司でよかったわ、と健司さんが居たら怒りそうな一言まで言いながら、
「これ私のおごりね」
と私たちの前に綺麗な色のオレンジゼリーを5つ置いてくれた。
「あなたたちもそんな隅っこに居ないでこっちに来なさいよ」
そっか、残りの3つは二宮さんと松本さんと松岡さんの分だったのね。
最初に少し挨拶しただけでまったく話す機会がなかったから、やっとお話が出来て嬉しいかも。
「あっ、ども…」
3人ともなんだか、かなり腰が引けるみたいに見えるのは気のせいかな?
「あなたたちも大変ね。いくら女の子が多いのがいいって言っても、あれじゃ〜ね〜」
翔子さんはいつの間にか和葉ちゃんの隣りにちゃっかり座ってた。
「まぁ、居ないよりはマシって感じね」
「「「………」」」
もう翔子さんたら思ったことを、ずばすば言っちゃうんだから。
「それにしても今日のスケジュールはハードやから大変やね?」
この場の雰囲気を少しでも明るくしようと、和葉ちゃんが話題を変えてくれたの。
「え〜と確か、記念館行って森行って山菜料理食べて別荘行くんでしたよね?」
うろ覚えだから、これであってるのか怪しいんだけど。
「そんな感じ」
返してくれたのは副部長の二宮さんだった。
「でもええなぁ〜ぎょうさん色んなトコ行けて」
「私もそう思う。だって、私たちなんかお留守番ですよ?」
オレンジゼリーは冷たくて少しだけ酸味もあって、口の中に爽やかに広がっていく。
「あれはちょっと無いわよね〜」
「でしょ〜?あたしらそれやったら、何しにココに来たんか分からんやん」
「仕方無いよ和葉ちゃん。言い出したら何を言っても聞かないんだから」

「だったらさ、俺たちと一緒に行く?」

女3人で拗ねていたら、そんな声が聞こえて来たの。
「レンタカーも8人乗り2台と4人乗り1台だからさ、君らも乗れるよ」
そう言ってくれているのは、やっぱり二宮さんだった。
「そやけど…」
「工藤と服部は8人乗りを運転するはずだからさ、最後に出発すればあいつらに気付かれずに行けるさ」
「そうだよ」
「君らのことは僕らがしっかりガードするからさ」
松本さんと松岡さんまで。
「いいわね!それ!」
しかも翔子さんまでもが、それに乗ってしまった。
「でも…」
「せっかくこうやって言ってくれてるのよ。行ってらっしゃいよ」
「それにさ、俺たちだって流石に今の状況だと楽しくないしさ」
二宮さんの言葉に他の二人も盛大に頷いてる。
「はい!決まり!決定!」
困惑してる私達を余所に、翔子さんが決ったとばかりに席を立った。
「そうと決ればさっさとそれ食べちゃって、準備しないさいよ。他の子たちには、私のおつかいで出かけるとでも言っておけばいいから」
「ほんまに、ええんかなぁ…」
「新一たちが怒るんじゃ…」
「もうそんなの無視よ、無視。それに彼らがあの女どもにずっと囲まれててもいいの?」
「それは…嫌かも…」
「でしょ?だったら気にせず行っちゃいなさい!女は度胸よ!」
「「………」」

結局、翔子さんに押し切られる形で、私と和葉ちゃんはオレンジゼリーを大急ぎで食べるはめになってしまった。





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やっと、やっと残りの男の子に名前が付きました!
ちなみに私の名前付け方、元ネタ分かってますよね。姫がファンで興味が無くても耳に入ってくるんです。はは…
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「 ん!んん!……ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!ん、ん、ん、ん!!」



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