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新蘭の平和観察日記 -8月1日土曜日④-


朝食を終わらせて昨夜約束した時間ぴったりに玄関に行くと、オーナーが車を出して待っててくれた。
昨日駅まで迎えに来てくれた時に見た紺色のワゴン、運転は勿論オーナーで助手席が大野さん、2列目に俺と服部って配置で軽快にペンションを後にした。

「いやいや、彼らも大変だねぇ」
「正直、ここまでとは思わなかったんですよ」
「でも、ちょっとは予想してたんじゃないか?」
「そりゃ、ちょっとはハメ外すんじゃないかなとは思ってましたけど……」
「ちょっとってモンかよ……」

楽しそうなオーナーと、どこか諦めの境地の大野さん。
さっき機嫌は回復したハズなのに、もうため息ばっかりになってる俺と服部。

「女の集団って、怖いや」
「『彼女たち』の存在が、余計に対抗心に火をつけちゃったみたいだねぇ」
「……せやから、イヤやて言うたんや」
「彼女一緒でいいぜって言ったら喰いついて来たのは誰だよ?」
「俺たちだよ。悪かったな」
「こらこら、不貞腐れない」

確かに、あの時は幽霊部員になりがちなサークルにも義理が立つし、蘭たちとプチ旅行出来るし、いい案だと思ったんだ。
けどよ、ちょっとしたいざこざくらいはあるとは思ってたけど、まさか手を出して来るとは予想してなかった。

服部と顔を見合わせて、深い深いため息をつく。

今日は丸一日あの連中と一緒、それも車って密室オプション付き。
運転手はさせられるわ後ろに6人も女の子乗せなきゃならねえわで、助手席は野郎限定って条件を連中に飲ませられたのが唯一の心の支えだ。

「ちょっと遠回りして戻ろうか」

レンタカーショップで手続きを終えて、さてペンションに戻ろうかって時に、オーナーがそう言ってくれた。
俺たちとしても普段乗らねえタイプの車だからちょっと慣れておきてえって気持ちがあったから、有難くその案に乗ってオーナーの車を追っかける。
遠回りって言っても、ペンションまで車なら大した距離じゃねえねどな。

行きよりも15分くらい時間かけてペンションに戻ると、宣言通り逆巻以下12人の女の子たちが3人の野郎共を従えて待ってた。

「今日一日、運転よろしくお願いします」

にっこりと、害のない笑顔の逆巻以下12人の女の子たち。
傍から見たらそりゃハレムに見えるだろうが、そんないいモンじゃねえ。
どう好意的に解釈しても、俺と服部はショーファーだ。

「くれぐれも言うとくけど、運転の邪魔しなや?」
「事故りたくねえからな、俺たちが運転しにくいって思ったら、そこで置いてくぜ?」

もう一度、釘を刺しておく。

「わかってます」
「折角の合宿だもの、楽しく過ごしたいのはみんな一緒よ」
「それに、現役の名探偵にレクチャーしてもらえる機会なんて滅多にないもの」
「そうそう!色々お話聞きたいし」

楽しそうに笑いながら、すんなりと席に収まる女の子たち。

いや、どうせなら道中で騒いで、合宿自体中止に持ってってくれてもいいぜ?
そうなれば、蘭との高原のバカンスを思う存分味わえるし。

……いやいや、そうなった所で、また女の子総入れ換えになるだけだ、きっと。

気持ちのいい朝だってのに、どんよりとした疲れが背中にぺったりと貼り付いてる気がする。

頑張れ、俺。
ファイトだ、俺。

自分で自分にエールを送って、いざ見学という名の戦場へ……の前に、服部と改めて無言のエールの交換をする。

ああ、これが蘭とのドライブだったら、俺は道が続く限りどこまでだって運転出来るのに!
心の中でだくだくと滝のような涙を流しつつ、俺は運転席に乗り込んだ。

「気をつけて行ってらっしゃい!」
「行ってらっしゃい!」
「気ぃつけてな!」

見送りに出てくれたオーナー夫人と、俺たちに向って一緒に手を振る蘭と和葉ちゃん。

大人しく留守番してろよ。
帰って来たら、たっぷりサービスするからさ。
サービス内容は多分ってえか絶対服部と一緒だが、楽しみにしててくれ。
昨夜、見学コースの確認ついでに地図で色々チェック済みだし、ナビもある。
勿論、服部たちとは別の場所だから、心配しなくていいさ。
その辺はちゃんと考えてあるって。

ピンク色の妄想を心の支えに、第1チェックポイントへと車を走らせた。





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まずはペンション出発まで(笑)。
by 月姫

「 どうだ?笑いも収まっただろ? 」



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