新蘭の平和観察日記 −8月1日土曜日F− | |||||
建物の中はどこにでも在る記念館らしく、ガラスケースの陳列棚と壁にこの小説家の歴史やその当時の写真が展示されていた。 「あたし、この人知らへんわ」 「私も、探偵小説って読んだことないから」 飾られている写真はもちろん、いくつかの小説のタイトルすら記憶に無いもの。 「知らなくても仕方無いよ。あまりメジャーな著者じゃないしさ」 大野さんがガラスケースの中身を覗きながら、そう教えてくれる。 「実はさ、俺も読んだことないだよね〜」 「あっ、俺も」 「右に同じ」 二宮さんたちも白状するみたいに、右手を上げてそう言ってる。 「なぁ〜んや。皆知らへんのやん」 「ちょっと安心したかも」 クスクス笑っていると、 「蘭ちゃんと和葉ちゃんは、やっぱり工藤たちの影響で推理小説とかって結構読んでるんだろ?」 と二宮さんにイタイところを突っ込まれてしまった。 「え〜と、それがあんまり…」 「え?読まないの?」 「読まないいうか、現実で十分いうか…」 私と和葉ちゃんは、また二人顔を見合わせて苦笑い。 「新一と一緒に居ると何故か事件に巻き込まれる事がとても多くて」 「そうなんよなぁ。平次も工藤くんも事件体質言うか、どこ行っても何かしらのトラブルに巻き込まれるんよね」 「ああ〜なるほどね〜。だから逆に小説とかはそういうのを避けちゃうんだ」 「確かに実物の事件を目の当たりにしてたら、わざわざ小説とかを読む必要は無いもんなぁ」 二宮さんと大野さんはこれで納得してくれたみたいだったけど、松本さんと松岡さんにはまた違うところ突っ込まれてしまった。 「しかしあいつらの事件遭遇率って、そんなに高いの?」 「普通、警察や一般の人からの依頼で行くんじゃないのか?」 ははは。 高いなんてものじゃないんですってば。 「一緒に出掛けて半分以上は何かしらの事件に遭遇してます」 「な〜んも無かった方が少ないくらいやわ」 「そんなに凄いんだ…」 私たちが諦めたような顔で溜息ついたから、皆も気の毒そうな顔をしてくれた。 「今回も何も起こらなければいいですけ」 「ほんまやわ。しかも平次と工藤くんが一緒やから、事件遭遇率もUPしてるやろし」 「ぷっ。それってUPするものなんだ?」 和葉ちゃんの言葉に、松岡さんが小さく噴出したの。 「相乗効果ってやつ?な〜んや知らんけど、二人一緒やときまって事件が飛び込んで来るんやもん」 「じゃ〜さ、今回の旅行では何も起こらないことを皆で祈ろうか?ちょうどここに小さい教会の模型もあることだしさ」 と大野さんがガラスケースの中にある古めかしい教会の模型を指差した。 「では、今日と明日の合宿中は工藤と服部が事件に遭遇しませんように、ア〜メン」 「「「「「 ア〜メン 」」」」」 私たちと二宮さんたちも大野さんの言葉と仕草に続いて、体の前で十字を切ってア〜メンと唱えた。 「ぷっ…」 「くくく…」 「あはは…」 なんか可笑しくて、とても楽しい。 「蘭ちゃんも和葉ちゃんもノリがいいね〜」 「大野さんたちほどじゃありませんけどね」 「ほんとに君たちが来てくれて良かったよ」 「あたしもこんなに面白い人らとは思ってなかったわ」 私たちはついつい楽しくて、少し場違いな位笑ってしまったみたいだった。 「大野先輩、そちらに何か面白い物でもありまして?」 少し離れた場所から逆巻さんの不思議そうな声が聞こえて来たから。 「いや、特に何もないよ」 「そうですか?それにしては随分と楽しそうな笑い声が聞こえましたけど?」 私からは彼女の姿は見えないけど、きっと何かを疑うような表情をしているはず。 だって、声にそんな感じが有り有りと有らわれてるんだもの。 もし、彼女がこっちに来たらどうしよう? そう思っていると、松本さんと松岡さんがさり気無く前に立って私たちを隠してくれた。 「ああさっきのね。君たちは相変わらず工藤と服部にべったりなんだなぁ〜って話してたからね」 「そ、そんなことありませんわ」 「そうかなぁ?だったら、俺たちと一緒に周らない?俺もこの作家には詳しいんだけど」 え? ちょ、ちょっと大野さん、何てこと言うんですか? 私がオロオロしていると、 「大丈夫だよ。まぁ見てなって」 と二宮さんが小声でそう言ったの。 「結構ですわ。私には工藤くんの説明で十分ですから」 「いくら工藤の説明が丁寧だからって言っても、そんなに大勢いたら質問だってし辛いだろう?」 大野さんの声はさっきよりも少し大きくなった。 「もっと少人数のグループで周った方が、効率もいいと思うけどな」 「ですから結構です。では、私は工藤くんと周りますので失礼します」 逆巻さんの声は言ってる途中から、体の向きを変えたのか小さくなっていったの。 「ふ〜。これで、当分誰もこっちに寄って来ないだろう」 あ! 私と和葉ちゃんが思わず、あっ、て感じで声を出しそうになって慌てて口元を押さえた。 そういうことなのね。 「大野のヤツはさ、こういうの上手いんだよ」 二宮さんがニヤニヤと笑いながら、大野さんの方に右手の親指を向けた。 「そうそう。大野先輩は優しい振りして、舌先三寸で人を動かすのが得意なんだよな〜」 「俺らもそれで苦労してるし」 そんなことを言いながらも、松本さんと松岡さんの口調はとても柔らかい。 「人聞きの悪いこと言うなよなぁ。俺のはれっきとしたNLPコミュニケーション術だよ」 「まぁ、そういうことにしといてやるさ」 「そうですね。こういう時には役に立ちますしね〜」 「しっかし、なんでそれで女の子がGET出来無いんでしょうね〜」 何だかよく分からないけど、とにかく丸く収まったのよね。 要するに、今後大野さんたちに近寄ると今みたいに誘われるからもう女の子たちは近寄って来ないってことなのよね。 「なんかよう分からんけど、大野さんてほんまは凄い人なんちゃう?」 「うん。なんかそうみたい」 それからの私たちは誰に邪魔されることもなく、本当にゆっくりと館内を見学出来たの。 |
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蘭ちゃん和葉ちゃんと愉快な仲間たち。(笑) by phantom 「 そっ、そんなのどうでもいいの!!いっつもそうやって逸らかすんだからっ!! 」
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