新蘭の平和観察日記 −8月1日土曜日H−


そう広くない館内の終わりには、小さいながらもこの作者の小説や関連商品を置いているショップがあった。
でも私たちはそこを見るわけにはいかないのよね。
だって、そこには新一と服部くんそれに女の子たちで溢れかえっていたから。
「蘭ちゃんと和葉ちゃんは、今の内に車に戻った方がいいよ」
大野さんにそう言われて私と和葉ちゃんは、大野さん、二宮さん、松岡さん、松本さんって順で並んで作ってくれた壁の後ろをそ〜っと通り抜けて無事に外に出ることが出来た。
「ふぅ、何やドロボウみたいやけど楽しいわ!」
「ほんとだね。ワクワクするよね!」
本当に楽しい。
こんなドキドキ感て、そうそう体験出来るものじゃないもの。
「それにしても、平次も工藤くんも可愛ええ女の子にず〜と囲まれとってデレデレやな」
「しかも業とらしく冷たい態度なんかとちゃって、これってツンデレって言うのよね」
「うん?それって微妙に意味違わへん?」
「え?そうなの?」
ツンデレって表面上はクールだけど、内心ではデレデレしてるって意味じゃないの?
「まぁ、それも言えてるし。ええんやない。これからはあの二人んこと”ツンデレコンビ”って呼ばへん?」
和葉ちゃんは笑ってそう言うけど、ツンデレの正しい意味は教えてくれなかった。

駐車場の中も車に辿り着くまでは誰に見られるか分からないから、私たちは背を低くしてコソコソと移動。
そして大野さんから預かった鍵で、ロックを開けてさっさと車の後部座席に潜り込んだ。
するとほっと息を抜く暇も無く、私たちが移動して来た辺りが賑やかになったの。

『では、今回は私たちが服部くんの車に乗せて頂きます。いいですよね?』
『騒がんのやったら構へんで』
『私たちは工藤くんだから、迷いの森までよろしくね』
『静かにしてろよ』

「あの逆巻いう人、絶対平次のもっとも苦手なタイプやわ」
「ああ〜何か分かるような気がする」
「工藤くんは以外とあの手は平気やろ?」
「どうかなぁ?新一も結構仕切り屋だから」
服部くんが逆巻さんみたいなタイプが苦てって言うのは、よく分かるのよ。
だけど新一ってどうなんだろ?
新一はどこでも自分が仕切らないと気がすまないタイプだから、今のこの状況はかなりイライラしてると思うのよね。
「やっぱり新一も苦手だと思う、逆巻さんのこと」
「そうなん?」
「ほら、だって新一って事件現場とかでも警察の人たちよりその場を仕切ってる感じじゃない?いつも自分のペースで物事を運びたいってヤツだから、彼女みたいに勝手に話しを進めるタイプだと結構イライラしてるんじゃないかなって思うのよ」
「そうなんや。流石蘭ちゃん。工藤くんの事はよ〜分かってるんやね〜」
「もう、和葉ちゃんだって服部くんのことはぜ〜んぶ知ってるくせに」
二人で盛り上がっていると、今度は松岡さんたちの声が聞こえてきた。

『迷いの森まではオレが大野さんの隣に乗りますよ』
『それだったらオレがニノ先輩と変わります』
『オレは別に今のままで平気だけど』
『何言ってるんですかニノ先輩。せっかく女の子たちと仲良くなれるチャンスなんですよ!』
『そうですよ!このチャンスは絶対に生かすべきです!』
『そう言われてもなぁ…』

『何か先輩ら、オレらの車に乗るのを嫌がっとるやろ?』

『そうじゃないって。服部だってこの合宿の本来の意味知ってるだろう』
『そうそう。美味しい思いは皆で分け合わないとな』
『ってことで、今回はオレが大野さんの隣に乗りますから』
『あっ!松岡ズルッ!!』

『ズルッ?』

『だってそうだろう?次ぎの迷いの森までが一番距離が短いんだぜ。ここでオレの横に乗ったヤツが最終的には一番特するってことさ』
『松岡は計算高いヤツだからなぁ』

声だけしか聞こえないから状況がよく分からないんだけど、どうやら今回私たちと一緒に乗るのは松岡さんに決ったらしい。
そう思うとすぐに、助手席のドアが開いてやっぱり松岡さんが乗り込んで来たの。
「やばい、やばい」
「どうしたんですか?」
外から見えないように後部座席の足元に座り込んだまま、顔だけシートの隙間から覗かせて声を出した。
「ちょっと不味ったかなぁ〜て思ってさ」
「何をなん?」
「今のオレの言動不自然だっただろ?それに松本も口滑らせたしさ」
どこか不自然なとこがあったのかな?
私には普通の会話に聞こえたんだけど。
「まぁ、大野先輩が上手くフォローしてくれたから、そんなに怪しまれないとは思うんだけど」

「まったくだ。もう少し気を使えよな」

今度は大野さんが運転席に乗り込んで来た。
でも、何に気を使うのかやっぱり分からない。
和葉ちゃんも私の前で、首を傾げてるし。
「いくら蘭ちゃんや和葉ちゃんと一緒に居たいからって、アイツらに気付かれたら元も子もないんだからな」
「すんませ〜ん。気を付けま〜す」
正直今の会話の方が私たちにはびっくりなんだけど。
だって私たちと一緒の車に乗りたいから、あんなこと言ったってことでしょ?
これってもしかして、凄く光栄なことなんじゃないかしら。
「あたしらそんなにええモンやないのに」
「だよね」
和葉ちゃんと私のシートとシートの狭い隙間に体を捩じ込んで体育座りをしている姿は、どう見てもマヌケな姿にしか見えない。
本来ゆったり座れるはずのシートには、大きなクーラーボックスが鎮座しているだけだし。
言われたことは光栄なことだけど、この姿だとどうしても素直には喜べないかな。
そう思っていると松岡さんが、
「オレさっき服部の車に乗ってたんだけどさ。女の子たちがオレを通して服部に取り入ろうとしてるのが、嫌なくらいはっきり分かるわけよ。しかも服部は服部でオレとは普通に会話するくせに、女の子たちの声は聞こえませんて感じでさぁ、ほとんどスルーしちまうんだよ。そしたら女の子たちは余計やっきになって服部を会話に引き込もうとオレに話しかけて来るもんだからさ、煩いのなんの。更に、服部に何か話させろって、無言のプレッシャーが凄くてさ、オレマジで息が詰まりそうだったんだよ」
と一気に自分の心境を話したの。
「それはえらいご愁傷様やったんやね…」
和葉ちゃんがとても気の毒そうにそう呟いた。
でも、その中に少しだけ棘みたいなモノを感じたのは、私の気のせいよね。
「だから次ぎは絶対に、蘭ちゃんや和葉ちゃんと一緒に乗るって決めてたんだ。だってさぁ、大野先輩もニノ先輩も車から下りて来た時スッゴイ楽しそうな顔してたしさ、オレも少しはこの合宿楽しみたいっす!」
「それならそこに座ることを許可しよう」
って大野さんが先生みたいに答えたから、私も和葉ちゃんもクスッて笑った。





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今回は常にちっこくなってる蘭ちゃんと和葉ちゃんでした。(笑)
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「 だったら直ぐにでも新一の為に笑って上げるから、一発蹴らせてよね!! 」



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