新蘭の平和観察日記 −8月1日土曜日I− | |||||
よし!さっさと次に行くぞ! 後ろの席の入れ替わった荷物たちに積み残しはねえか確認して、助手席の……って、あれ? 「二宮さん?」 「おう」 「松本さんはどうしたんだ?」 「松本は服部の車。大野の車には松岡が乗ってるよ。ほら、折角の合宿だからさ、ずっと大野と2人ってのもアレだから交代で乗る事にしたんだ」 妙ににこにこと笑いながら、二宮さんがシートベルトを引っ張る。 いつの間にそんな事決めてたんだか知らねえが、俺が運転する車の助手席は今度は二宮さんらしい。 そう言えば、さっき『変わる』だの『チャンス』だの『ズル』だの聞こえて来たのは、この事だったのか。 まあ、女の子たちの相手してくれるんなら別に誰でもいいけどな。 「じゃあ、行くぜ?」 「はぁい」 「よろしくね」 女の子たちの声が纏めて聞こえてくるから1つ1つのセリフは拾えねえが、これは放置でかまわねえ。 勿論、蘭の話ならただの一言だって聞き漏らしはしねえぜ! ……うん、事件を前にした探偵モードの時を除けばだけどな。 それで蘭に怒られる事もたまにはあるが、それは服部だって同じだしもう本能みたいなモンなんだよ。 それはさておき、迷いの森ってのは記念館からは結構近くて、女の子たちが二宮さんを会話に引き込んだあたりで到着となった。 車から降りてきた女の子たちは乗ってた時間が短いとかでどうにも不満そうだったが、それは道路事情とか土地の所有者とかに言ってもらおうか。 「ここでは勝手に動くなよ」 「大丈夫!私たち工藤君にしっかりついていくから!」 「うん!」 「やっぱり、怖いもんね」 「何か暗いし、陰気だし」 俺の前で固まって、手なんか繋いでみたりしてる女の子たち。 口々に怖いだの不安だの言ってるが、その割には楽しそうだなオメーら。 「じゃあ、この遊歩道の跡から辿ってみるか」 「松本さん?」 「俺なら後ろだ!」 女の子の固まりを従えて取り敢えずはそれっぽい行動でもと思ったら、ちょっと離れた所から服部と松本さんの声が聞こえて来た。 「俺、後ろから着いてくよ!万が一って事もあるしさ、全体見てるのも大事だろ?」 「工藤!俺も後ろにいるぞ!」 いつの間に離れたのか、俺の車に乗ってた二宮さんも女の子の固まり2つの後ろで手を振ってた。 「二宮さんたちが見守ってくれてるなら安心だね」 「工藤君の考察に集中出来るもんね」 「この遊歩道、随分痛んでるけどいつから使ってないのかな?」 「遊歩道があったって事は、前はここを通る人もいたって事だよね?」 「でも、迷いの森なんでしょ?」 「管理ってどこなんだろ?」 「この土地の所有者って個人だったっけ?工藤君、知ってる?」 二宮さんたちの事は綺麗さっぱり忘れる事にしたらしい女の子たちが、口々に質問を投げてくる。 ああ、これが蘭だったら『オメーは方向音痴だからな』って、こう安心させるように手を繋いでだな、耳元で『俺がついてるんだから安心しろよ』とか囁いてやって、古びた遊歩道の残骸に足をとられたら『気をつけろよ』なんて抱きとめたついでにちゅーの1つもしただろうに……。 「工藤君?」 「……ああ、どうせなら服部と合流しようぜ。その方が色んな角度から検証出来るしよ」 ちょっぴりトリップしてたら、女の子たちから強引に現実に引き戻された。 少しくらい現実逃避させてくれよな。 「服部!ここは合同で検証といこうぜ!」 「せやな!」 人数は多くなるが、女の子たちの質問にいちいち答えていくより、服部相手に討論して傍聴させるってスタイルの方が精神的な疲労は少ないだろ。 服部もそう思ってたのか、ぞろぞろと引き連れてる団体から抜け出して俺の隣に来た。 「ここの遊歩道が使われてたのは、30年くらい前までらしい」 「この奥にな、地元の人から『赤沼』て呼ばれとる湖があって、その横通って麓まで繋がっとったらしいわ」 「その頃まではこの辺もそう拓けてなかったから、観光客のための遊歩道って言うより地元の人の生活道だったんじゃねえかと思う」 「そのうち道路が整備されて、次第にここを使う人も居らんくなったんが、30年くらい前」 「迷いの森って呼ばれるようになったのも、その頃かららしい」 この辺の知識は、ここの出身で代々この辺に住んでるってオーナー夫人から仕入れたモンだ。 そう言えば、オーナーは東京生まれ東京育ちで就職も東京だったって聞いてるんだが、一体いつ知り合ったんだ? オーナー夫人は大学もこっちだったし、卒業してからは両親が始めたペンションをずっと手伝ってたって話だったんだが。 ……深く考えるのはやめよう。 あのオーナー夫人には逆らわねえのが身の為だし、今はサクサクと予定こなすのが先だしな。 「迷いの森って呼ばれる原因は幾つかあると思う」 女の子たちに口を挟ませねえ勢いで、俺と服部は喋り捲る。 ここは主導権を取っとかねえとな。 あの逆巻にだって割り込ませねえぜ。 幸い、次は昼メシだ。 よし!気合入れて喋るぞ、服部! お互い顔を見合わせて、俺たちはこっそりとエールの交換をした。 |
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ガイドさんたちは団体のお世話でいっぱいいっぱいなので、野郎共の怪しい動きに気付いてません(笑)。 by 月姫 「 ま、待て!ミニスカートでの蹴りは俺の部屋だけにしてくれ! 」
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