新蘭の平和観察日記 −8月1日土曜日J−


「今度はやけに辛気臭いとこやね」
「そうだね。ちょっと気味悪いかな」
探偵小説作家の記念館から車で15分程度の距離しか離れていないのに、今いる場所は周りをぐるりと木に囲まれた所謂山の中ですってとこなの。
もちろん駐車場なんてモノもなくて、車は道路の横にある少し広い場所に停めている。
しかもそこの横はすぐ山って感じで、遊歩道らしき道はあるにはあるんだけど私に言わせると獣道の方があってる気がするのよね。
何も隔てる物が無いから、私と和葉ちゃんは車の窓から少しだけ顔を覗かせて外の様子を窺ってる。
「どうも工藤と服部は一緒に行くみたいだな」
「そうらしいですね。先頭を二人で歩いて、その後ろに女の子たちを纏めて引き連れるつもりなんでしょうね」
そんな私たちの近くで、大野さんと松岡さんの声がした。
「蘭ちゃんと和葉ちゃんは、アイツらが遊歩道に入ってから出ておいでよ」
こっちを振り向いて大野さんがそう言ったから、私たちは無言で頷いて再び外から見えないように頭を引っ込めた。
「ツンデレコンビご一行様が行ってからやて」
「和葉ちゃん…それなんか笑えるんだけど」
なんだか妙に今の状況に合ってて本当に笑えちゃうんだけど。

「もういいよ。お待たせ」

松岡さんがドアを開けてくれて、私たちは車からやっと降りることが出来た。
見ると新一たちはすでに森に入ってしまったのか、遊歩道の入り口で二宮さんと松本さんがおいでおいでと手を振っている。
「さっ、オレらも行こうか」
大野さん、和葉ちゃん、私、松岡さんの順で二人に追い付くと、
「オレと松本が前を歩くからその後ろが蘭ちゃんと和葉ちゃんね。で、最後が大野と松岡」
と二宮さんたちが先に遊歩道に入って行った。
「こんなところで何をするん?」
「え〜と何だったっけ?」
和葉ちゃんの質問に私まで首を傾げていると、前から二宮さんが答えてくれた。
「ここは”迷いの森”って呼ばれてるから、何でそう呼ばれるようになったかっていう検証」
「そんなんどうやって検証すんの?」
「さぁ?誰か迷ってみるんじゃないのかな?」
そう言ったのは後ろにいる松岡さん。
「だったらお前ちょっとそこから森ん中に入って来いよ。後で探しに行けたら行ってやるから」
すかさずそれにツッコミを入れたのは大野さん。
「うわっ酷!”探しに行けたら”の部分ですでに探す気が無いのがバレバレじゃないっすか大野先輩!」
「だ〜れがお前なんか探すかよ。野郎が一人減ってもオレらは困らないしな」
更に追い討ちを掛けるのは松本さん。
「それにしても荒れた道だな。足元不安定だから気を…」

「きゃっ!」

二宮さんが気を付けてって言ってる途中で、和葉ちゃんが足元を滑らせて前にいる二宮さんに後ろからしがみ付いた。
「ご、ごめん。すぐに、わっ…」
すぐに離れようとしたみたいなんだけど、再び転びそうになった和葉ちゃんは今度は二宮さんにしっかりと抱留められていた。
「大丈夫?緩やかな下り坂だけど、枯葉や砂利で滑り易くなってるからな」
「ほんま、おおきに」
そう言って和葉ちゃんは今度こそ離れようとしたみたいなんだけど、
「このままオレに掴まってるといいよ」
って二宮さんは離れそうになった和葉ちゃんの手をそっと自分の腕に押し留めたの。
「そやけど…」
「ここで扱けたら確実に服部たちにばれるよ」
「それは困るかも」
「だろ?だったらどうぞ遠慮なく」
「ほな、お世話になります」
結局和葉ちゃんは、そのまま二宮さんと腕を組むみたいな格好で坂道を下っている。
しかも私も大野さんと、同じ格好だったりするのよね。
だって、本当にこの道滑り易いんだもの。

それから暫らくは松本さんと松岡さん、二宮さんと和葉ちゃん、大野さんと私の順で歩いてたんだけど、突然遥か前方から新一の声が飛んで来たの。

「大野さん!方位磁石持ってたら貸して下さい!」

「ああ、今持ってってやるよ!」

新一に負けないくらいの大声で返した大野さんが、
「ごめん、蘭ちゃん。ちょっと行って来るよ」
って言うから私が手を離すと、
「ちょっと待て大野」
「行くん止めた方がええよ」
と二宮さんと和葉ちゃんが何故だか慌てて止めたの。
「何だよ?早くしないと怪しまれるだろ?」
「今のお前が行く方が遥かに怪しい」
二宮さんの言葉に和葉ちゃんも、更にはその前にいる松本さんも松岡さんもうんうんて頷いているし。
だから私は大野さんの何がそんなにダメなのか、改めて大野さんを見上げた。
「あっ…」

た…確かにこれは怪しまれるかも…。

「何?蘭ちゃんまで。オレの顔に何か付いてる?」
不可解な顔して大野さんは自分の顔を触ってるいるけど、別に何かがくっ付いている訳ではないのよね。

「真っ赤なんだよお前の顔」
「そうそう。まるでユデダコですよ」
「それか、熟れ過ぎたトマトってとこですね」

そうなの。
大野さんの顔は、どこからどうみても不自然なくらいに真っ赤だったの。
「まぁ、蘭ちゃんにしがみ付かれたらそうなっても仕方無いわな」
和葉ちゃんがニヤニヤ笑いながらそう言ったけど、それがどうかして大野さんが真っ赤になる理由なのかが分からない。
「蘭ちゃんスタイルいいからなぁ〜」
「まったく役得だよなぁ〜大野先輩は羨ましい限りっすよ」
松本さんたちが言ってる意味も、今一分からない。
「マジ?オレそんなに赤い?」
私以外の4人は、大きく頷いた。
「まいったなぁ〜」
皆から言い切られてしまった大野さんは、困ったように手で頭をかいている。

「大野さん?!!まだですかぁ〜!!」

そんな状態の私たちに追い討ちを掛けるように、再び新一の声が飛んで来た。
だから、
「オレが変わりに持ってってやるよ。だからお前は早くそのアホ面なんとかしろ」
と動くに動けない大野さんに代わって、二宮さんが方位磁石を受け取って新一に届けることになったの。

そして和葉ちゃんがこそっと私の耳元で、
「蘭ちゃんさっき大野さんの腕に抱き付いたやろ?そん時めちゃめちゃ胸押し当ててたんやで」
と囁いた。

今度は私が真っ赤になったのは、言うまでもないよね。





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たまにはこんなお色気も必要でしょう!(笑)
by phantom

「 心配無用!これスカートに見えるけど、短パンだから!はぁぁぁ〜〜〜〜!! 」



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