新蘭の平和観察日記 −8月1日土曜日L−


”迷いの森”は何故だか途中で急に方向転換回れ右で、来た道を戻ることになったの。
「これってちょっとマズない?」
「だよなぁ。このまま戻ると君らが車に乗るまでにバレルよなぁ」
和葉ちゃんと二宮さんは暢気に話してるけど、これって以外に大問題なのでは?
「どうしよう…」
「先に行く訳にもいかないし、かと言って今のままでは確実に見付かるしな」
私と大野さんもどうしようかと悩んではいるんだけど、どうにも良い案が浮かばない。

今歩いてる遊歩道はさっきまではなだらかな下り坂になっていたんだけど、来た道を戻ってる今は緩やかで直線的に長い上り坂。
後ろを歩いてくれている松本さんたちから離れると、絶対にその後ろを歩いてる女の子たちや新一たちからは見えてしまうはずなのよ。

本当にどうしよう?

「せめて次の山菜料理店までは、見付からずに行きたいんだけどなぁ」
「どうしてですか?」
「さっき電話で蘭ちゃんと和葉ちゅん分の追加したしさ。それに…」
「それに?」
「それにさ、工藤たちに見付かっちまうと蘭ちゃんたちの隣に座れなくなるからさ」
大野さんがまた少し赤くなったから、私までつられてしまった。
今はそれどころじゃないのに。
そう思ってたら、すぐ後ろに居る和葉ちゃんたちからも突っ込まれてしまったの。
「はいはい。赤うならんでもええから、どうすんの?」
「まずは現状を打破しないと、お楽しみはないぜ大野」
「なんかいい方法は無いんですか、先輩たち?」
「ニノ先輩こういうの得意じゃないっすか!」
松本さんも松岡さんもどうにかしたいと思ってくれてるみたい。
「そうなん?」
「そうなんすよ」
松岡さんの言葉に即座に反応を示したのは和葉ちゃん。
「ニノ先輩は誰にも気付かれずに居なくなることがよくあるからさ」
「そうそう。忽然と姿を消すってやつ」
「なんやそれってKIDみたいやね」
「その癖忘れ物は多いんだけどね」
「やっぱダメやん」
すかさず突っ込む和葉ちゃんに皆噴出してしまった。
「オレってダメなんだ…」
「あっ、いや、そんなことないよ。やけど、何かええ方法思い付いてくれたら、もっと見直してもええかな?」
「あっそ。だったら何か考えるとするかな」
「よろしくな。そやけど時間無いから早う頼むな」
「はいはい」

なんだか和葉ちゃんと二宮さんて良い感じじゃない?
二人の息も合ってるみたいだし、並んでる姿も違和感無いし。

ってダメじゃない!
そんなの服部くんが知ったら、血の雨が降るわよ。
それに絶対に即効でここから、和葉ちゃん連れて帰っちゃうに決まってるんだから!

悩み事が増えてしまった私は、知らず知らずのうちに大きなため息を付いてたみたい。
「どうしたの?そんなに工藤たちに見付かるのが怖い?」
「え?」
「なんか慢心相違のため息付いてたからさ」
「そんなに酷かったですか?」
「体中の空気を全部出したみたいだったよ」
からかうみたいな言葉だったけど、大野さんの表情はとても優しいものだった。
「見付かると困るかなと思って」
「どうして?」
「新一って怒ると結構怖いから」
「そうなんだ?だったら、やっぱりここはニノに名案を出してもらうか」
そう言って大野さんが振り返ったから、私も釣られて後ろの和葉ちゃんたちに視線を向けたの。
そうしたら、何故だか和葉ちゃんに二宮さん、それに松本さんと松岡さんまでもがこっちを見てたからちょっと驚いてしまった。
「え?何?」
「蘭ちゃんと大野さんて、ええ雰囲気やなぁ〜て思て」
「後ろ姿だけだと恋人同士に見えるな」
「ほんと役得っすね、大野先輩」
「羨ましい限りですよ」

ええ?!

さっき私が和葉ちゃんと二宮さんのことをそう思って心配していたのに、まさか私と大野さんもそんな風に見えてたなんて。
慌てて大野さんから離れようとしたんだけど、足元が滑って余計にしがみ付くはめになってしまったし。
「そんなに慌てんでええやん蘭ちゃん。今だけなんやし」
和葉ちゃんは自分のことには気付かずに、きっと軽い気持ちで言ってるはず。
「頼むよ蘭ちゃん。少しは大野に夢を見させてあげてよ」
二宮さんまで。
「とにかく今は、この幸せな状況が少しでも続くように対策を考えよう」
「ニノ先輩何か浮かんだっすか?」
松本さんと松岡さんは、すでにこの状況を認めてるみたいな口ぶりだった。

どうして皆そんなにお気軽モードなの?

オロオロしてる私がバカみたいじゃない。
大野さんも少しは照れてるみたいだけど、それ程取り乱した気配は無いし。

これってとっても非常事態なのよ?
新一や服部くんに今の私と和葉ちゃんの状態を見られたら、絶対にただでは済まないんだから。
服部くんはもちろんだけど、新一だって私が言うのも何だけどめちゃくちゃヤキモチ焼きなんだからね!
しかも私と和葉ちゃんはそんな二人からの言い付けを破って、ここにこうして居るんだから。

「一つ思い付いた」

私が一人で色々思い悩んでいると、二宮さんの声が飛び込んで来た。
「題して”二人で一人、ピッタンコ大作戦”」
「はぁ?何やのそれ?」
頭がごちゃごっちゃの私にも、その題からはどんな方法なのかまったく想像が付かない。
「え〜とね、遊歩道を出てから車までの間はこうやって後ろからはオレしか見えないように和葉ちゃんはオレの前にぴったりくっ付いて手も横に出さないってことかな」
振り返ると確かに和葉ちゃんは二宮さんにぴったりくっ付いてるから、後ろからは見ない感じになってたの。
「足はどうするんすか?」
「それはお前らがアイツらの気を逸らしてフォローしたら問題ないだろ?」
「そんなぁ…次はオレが和葉ちゃんたちと一緒に乗る番だったのに」
「諦めろ。今ここでオレたちが入れ替わると、後ろから丸見えだからな」
なんだか二人羽織みたいな作戦だけど、他に方法が無いみたいで結局それを実行することになった。

もちろん、私と大野さんも。





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天然の和葉ちゃんはさておき、蘭ちゃん一人で迷走する巻!(笑)
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「 今更そんな逃げ口上が通用すると思ってるんじゃないでしょうね新一?!! 」



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