新蘭の平和観察日記 −8月1日土曜日N−


遊歩道から道路に出ると、私は大野さんに和葉ちゃんは二宮さんにぴったりとくっ付いて車まで移動した。
それこそ空気の隙間も無い程くっ付いてるもんだから、歩き難いのなんの。
大野さんが膝を曲げるのに合わせて、私も足を前に出すって感じかな。
隣を歩いてる和葉ちゃんも二宮さんの腕の間にすっぽりと収まって、手は横に出せないから体の前でお祈りするみたいに組んでたの。
後もう少しで車まで行けると思った時に後ろで新一たちが松本さんたちに話しかける声がしたから、思わず動きが止まってしまい後ろの大野さんに押される形になって少しだけ前につんのめってしまった。
「大丈夫だから、落ち着いて」
大野さんの腕が支えてくれたから、なんとか扱けずに済んで良かった。
「ありがとうございます」
「このまま車の影に隠れて、オレがドアを開けるのと同時に乗り込むといいよ」
「はい」
私は言われるがままに、屈んでこそっと車の陰に入ったの。
私は新一たちから見え難い側だからいいけど和葉ちゃんはどうするんだろうって思って見ていると、助手席のシートを倒してそこから後部座席に乗り込んでいた。
もちろん、私も大野さんがアドが開けると当時に、後部座席のドアを開け素早く中に乗り込んだんだけど。
「閉めるよ。いち、にの、さん!」
小声で言う大野さんの号令で、私と二宮さんそして大野さんもが一斉にドアを閉めた。
「ふぅ〜なんとかバレズに乗り込めたな…」
「安心するのはまだ早いぞニノ」
「うん?ああ、工藤たちがこっち見てるな」
「仕方無いな今回はオレたちが先に行くとするか」
「そうだな。蘭ちゃんと和葉ちゃんには悪いけど、お店に着くまでそのままで大丈夫?」
「あたしらやったら平気やから、気にせんでええよ。なっ、蘭ちゃん」
「うん。ここ結構広いから」
「少しの間だけだから我慢してな。それじゃ出発するよ」
そう言って大野さんは車のエンジンを掛けると、

「行こうぜ!」

と大きな声で外に向かって叫んだの。
すると外から慌てる女の子たちの声がして、バタバタと皆が車に乗り込んでいる音が聞こえて来た。

「まさか、あの方法でほんまにバレへんとは思わんかったわ」
和葉ちゃんが苦笑いしながら、本当は座るはずだったシートに右腕を預けてその上に頭を凭れさせている。
「ほんとだね」
私も体育座りの足を少しだけ崩して、シートに寄り掛かった。
「単純なトリックこそ、人は騙され易いのさ」
二宮さんは両腕を曲げたまま上に伸ばして、そのままシートの頭の部分に引っ掛けた。
「しかし、アイツらは相当疑ってるみたいだけどな」
車をゆっくりと動かしながら大野さんは、溜息みたいに呟いた。
「いいさ。どうせ、次の店でバレちまうんだしさ」
「なんか、寂しいわ。結構楽しいんやけどなぁこれ?」
「これって、その窮屈な場所が?」
「そうこのせっまい場所がやな…ってアホか!そんな訳無いやん!今の状況や状況!」
「あはは…」
和葉ちゃんと二宮さんの遣り取りは相変わらず。
とても昨日今日仲良くなったみたいには見えない。

あ〜あ。
もう知らないからね服部くん。

和葉ちゃんて本当に、すぐに誰とでも打ち解けてちゃうのよね。
気付くと相手の心を軽くしてるって言うのかな?いつもするりと相手の警戒心を解いちゃってるのよね。
もちろん和葉ちゃん自身が警戒してる時は別だけど、そうじゃない時は決まって皆和葉ちゃんのペースに巻き込まれてるのよ。
これはもう大阪人だからとかじゃなくて、和葉ちゃん自身が持ってるモノだと思う。
だって人を惹き付ける魅力が溢れてるのが、和葉ちゃんなんだから。

二宮さんもきっと和葉ちゃんに…

や…止めよう。
これ以上考えると益々泥沼に嵌ってしまいそうじゃない。

和葉ちゃんには服部くんていう、れっきとした相思相愛の彼氏が居るんだから。
二宮さんもそれはちゃんと分かってるはずだし。

「どしたん蘭ちゃん?」
「え?」
「握り拳作ってどないしたん?」
言われて見てみると、私は両手を強く握り締めてたの。
「あっ。だって、もうすぐ新一たちに見付かっちゃうんだなぁって思って」

ここは上手く誤魔化さないと、和葉ちゃんにまで二宮さんを意識させちゃったら大変だもの。
それこそ服部くんに私が殺されちゃうわ。

「蘭ちゃんは工藤に見付かると怒られると思ってるから、怖いんだってさ」

大野さんのこの一言で話の流れは、どうやってスムーズに私と和葉ちゃんがお店に入るかって内容になった。
「店の外でバレたら、絶対にアイツらが和葉ちゃんたちの隣を陣取るよなぁ」
「当然だろ?しかも、オレら飯抜きになるかもしれないぞ」
「ありえるなぁ、それ」
「やっぱり、先にアイツらを店内に入れて座らせちまわないとな」
なんだかんだで結局、私と和葉ちゃんは皆がお店に入って席に着くまで車で待機ってことになったの。

それから10分程してお店に到着。
”迷いの森”からはだいたい30分くらい掛かったかな、私も和葉ちゃんもかなり今の姿勢が苦痛になってきていたから。
「もう少しだけ頑張れよ」
「ええけど早うしてな」
「それはあっちの女たちに言ってくれよな」
外から誰が新一たちの隣に座るかで、揉めてる声が聞こえて来てるの。
「もう誰でもええやんそんなん…」
和葉ちゃんが盛大な溜息付きでそう言ったから、
「分かったよ。だったらとにかくアイツら店に押し込んで来るから、それまでそこでじっとしてろよ」
って二宮さんも大野さんに続いて車から降りて行った。

やっぱり、二宮さんもなんだかとっても仲良しさん口調になってる。

恐るべし和葉ちゃん。
すっかり二宮さんを自分の世界に引き込んじゃったのね。

やっと私たちが車から出ることが出来たのは、更に10分以上が経過した後だった。





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和葉ちゃんは無意識で男を陥落しちゃうから、困ったものです。
恐るべし和葉ちゃんワールド!(笑)
by phantom

「 服部くん?ちょうど良かったわ。ちょっとその電話貸しなさいよ新一! 」



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