新蘭の平和観察日記 −8月1日土曜日P− | |||||
ああ、やっぱりね… なんとかお店に入って席に着いたのはいいんだけど、新一や服部くん、それに女の子たちの視線を一斉に浴びてしまった。 所謂、注目の的ってやつ。 もちろん新一と服部くんからは抗議の声が上がるし、逆巻さんからはここの代金についてまで突っ込まれちゃうし。 予想はしてたけど、なんだか少しムッときちゃう。 さっきまでは新一たちに見付かるのを恐れてたけど、なんだかここまで露骨に嫌な顔されるとね。 目の前には、とても美味しそうなお料理が並んでる。 山菜料理だから見た目はいかにも和食って感じでシンプルだけど、天ぷらも炊き込みご飯もほくほくで食欲を誘うのよ。 とにかく温かいうちに頂いてしまおうって思ってたら、和葉ちゃんが服部くんを呼んだの。 「なぁ、平次!」 それはいつも和葉ちゃんが服部くんを呼ぶ時の少し甘えた声。 だけどそれで空気は一瞬にして変わったの 女の子たちは一斉に箸を動かしていた手を止めたし、大野さんたちも止まった。 それなのに和葉ちゃんはまったくそのことに気付いてなくて、服部くんに甘えてる。 ただ今回いつもと違ったのは、そこに二宮さんが割って入ったってこと。 ああ、まずい… そう思った時にはすでに遅くて、服部くんのオーラは周りを威圧するほどドス黒いモノになってた。 これには流石の逆巻さんや女の子たちも、恐れを生したのか気付かない振りをすることにしたみたい。 二宮さんもマズッたな、って顔してるし。 それでもまったく気付いていない和葉ちゃんは、いつもと同じ調子で服部くんに接してるから凄いのよね。 山葡萄のゼリーと交換で、春菊の天ぷらをさり気無く食べされて上げてるんだから私まで呆気に取られちゃった。 しかもその行動は二人にとっては当然のことみいたで、テレや恥ずかしさみたいなモノはどこにも存在すらしないんだもの。 「服部と和葉ちゃんていつもあんな感じなの?」 私の隣に座ってる大野さんも目の前で繰り広げられた光景に驚いたのか、こっそりそう聞いて来たの。 「だいたいは…」 「そうなんだ」 大野さんが二人に代わってテレたみたいに笑うから、私もまたそれに釣られてしまった。 「もう、見てるこっちがテレますよね?」 「本人たちが、特に和葉ちゃんが無自覚なのが凄いな」 服部はマジ怖いけど、と言った時は少し肩を竦める様にしている。 そして、 「オレたちも冷めないうちに食べてしまおう」 って言ってくれたから、私たち、和葉ちゃん以外の箸が止まってた5人も改めて食事を続けることにした。 それも最初は皆なぜだか黙々と食べていたんだけど、それもいつしか自然な会話を挟んだ楽しい昼食になっていったの。 お料理の話とかさっきの記念館や”迷いの森”、それに車の中でのことなど話題はいくらでもあるしね。 ただ松本さんだけが私たちと一緒の車に乗れなかったと残念がっていたけど、まだここから移動しないといけないから次は松本さんが一緒かな。 私と和葉ちゃんはきっと誰が一緒でも楽しいに決まってる。 だって皆とても話し易いし気さくだし、とてもステキな人たちなんだもの。 そんな風に6人で楽しく食べていると、不意に和葉ちゃんが私の小皿を指差した。 「蘭ちゃん、それ食べへんのやったら頂戴?」 「これ?いいよ」 和葉ちゃんが言ってるのは、お漬物のこと。 「これ何の漬物やろ?結構、美味しいんやけど」 「何かな?大野さん知ってます?」 私は自然の成り行きで大野さんに尋ねた。 「フキだよ。味噌とわさびを混ぜて、それにフキを漬けてるんだ」 「そうなんやぁ」 「流石は大野さん!」 和葉ちゃんと私はこれまた自然に、尊敬の眼差しを大野さんに向ける。 ボキッ! バキッ! これらの不可解な音は、ほぼ同時に起こったの。 「何の音なん?」 「さぁ?」 音がした方へ視線を向けると、新一と服部くんの周りの女の子たちが二人の方を向いたまま固まってる。 どうしたんだろ? 「す…直ぐに新しいお箸を貰って来ますわ」 あの逆巻さんまでもが、そう言って逃げ出す様に二人の側から離れて行ってるし。 それなのに和葉ちゃんたら、 「平次、何やっての?もしかしてバカ力で箸折ってしもたん?アホやなぁ」 って笑ってるんだもん。 「もしかして新一もなの?」 でもこの場の雰囲気を考えたら和葉ちゃんの態度が正しいかもって思って、私も新一に声を掛けてみた。 「えらい軟い箸やからな、ちょ〜力入れただけで折れてしもたんや」 「ちょっと手元が滑っただけだ。気にしなくていいぜ」 にっこり笑顔で二人からは、こんな答えが帰って来たの。 良かった、本当にお箸が折れただけなんだ。 何か少しだけ笑顔が怖い気がするけど、きっと私の気のせいよね。 そう思ってると逆巻さんが今度は割り箸じゃないちゃんとしたお箸を貰って帰って来たし、二人も笑顔でそれを受け取ってるしいいよね。 だから私はさっきの話題に戻した。 「そのお漬物って、そんなに美味しいの和葉ちゃん?」 「そうやで」 和葉ちゃんはとても美味しそうに食べてるから、私も少し食べてみたくなった。 「蘭ちゃん、これどうぞ」 すると横からお漬物の小皿を大野さんが差し出してくれたから、 「私のお箸で取ってもいいですか?」 「構わないよ」 「ありがとうございます。じゃ遠慮なく頂きますね」 ってお箸の先で少しだけお漬物を摘んで、そのまま口に入れた。 「あっ、ほんと。美味しい!」 「そやろ?これ結構イケルやろ?」 私たちが美味しい美味しいって言ってるから、二宮さんたちもそれぞれ自分のお漬物を食べて頷いてる。 もちろん大野さんは私が貰った残りを食べていた。 バキバキッ!! 今度の音は、さっきのよりも大きく辺りに響き渡った。 ああ、嫌な予感がする… |
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和葉ちゃんのことはよく分かっても、自分のことになるとさっぱりな蘭ちゃん。(笑) by phantom 「 ああ!!なんで切るのよ新一!!貸してって言ったのに、酷いじゃない!! 」
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