新蘭の平和観察日記 −8月1日土曜日Q−


服部が戻って来て昼メシ再開、さっさと食って蘭を確保だ。
視界の端に蘭を捕らえて、耳は勿論ダンボ状態で蘭の声を拾いながら、目の前の料理を胃に収めるべく箸を進める。

蘭と和葉ちゃんを囲んで楽しそうな野郎4人。
超絶キュートな女の子を囲んでの昼メシは、そりゃあ美味いし楽しいだろうさ。
ああ、本当ならそこに居るのは俺と服部だったのに……。

思わず箸を握り締めた時、蘭と和葉ちゃんが大野さんを褒め称える声が聞こえてきた。
ふと見てみれば、2人ともキラキラした尊敬の眼差しってのを大野さんに送ってる。
握ってた箸が折れちまったのは不可抗力ってヤツだよな、服部?

逆巻から新しい箸を受け取って、またまた食事再開だ!
よし、今度こそ全部平らげて蘭を確保だ!
出された料理残すなんて出来ねえし、ハラが減ってちゃパワーも出ねえしな!
食うぞ!
――って、待て!!

天ぷらに伸ばしかけた箸が、また盛大に折れた。
今度は俺のだけだったけどな。

まだ手をつけてなかった漬物を、蘭が和葉ちゃんに譲ってやった。
譲られた和葉ちゃんは、それはそれは美味しそうにその漬物を食ってる。
蘭は、別に漬物が嫌いなワケじゃねえが好んで食うって程じゃねえから、これは自然な流れだろう。
うんうん、麗しい友情だよな。
この辺は育って来た環境の違いなのか、俺もやっぱり出されれば食うが自分で買ってまでは食わねえが、服部はたまに専門店に行って買ってたりするし。

そこまではいい。
あんまり和葉ちゃんが美味しそうに食ってるからか、蘭も味見をしたくなったらしい。
これも当然だからいい。
だがな!!そこで何で大野さんが出て来る!?
それも、全部を蘭に譲るならまだしも、何故同じ皿から食う!?

蘭も蘭だ!!
食いたくなったんなら、何で俺に言わない!?
和葉ちゃんみたく『新一!お漬物ちょうだい?』って甘えてくれよ!!
そしたら『いいぜ。そうだ、山葡萄のゼリーも食えよ』とか言いながら皿を持って行ってだな、あわよくば蘭に『ほら』とかいいながら『あーん』とかしてやるのに!!

『あーん』って言えば、さっきの様子から察するに、もしかして服部も和葉ちゃんに食わせてやったりとか普段からナチュラルにしてたりするのか?

……してるよな、絶対。
だってよ、アイスティーを同じストローで飲んだりってのも思いっきりナチュラルにやってたし、肉まんとかもきっと半分に割って食べるんじゃなくて、そのまま交互に食いついたりしてやがるんだ。
こう、肉まん持ってる方が相手の口元に差し出してそのまま齧らせてやって、一口がデカいだの具のトコ食えだのイチャついてやがるんだ、間違いなく。

ああもう!!何でこう俺が服部に敗北感を持たなきゃならねえんだよ!!
それもこれも全部、この合宿が悪いんだ!!
箸が折れるのも当然だろ!!

「工藤」

服部がテーブルの下で足を伸ばして、折れた箸握り締めてぐるぐると唸ってる俺の膝に軽く蹴りを入れた。

「……何しやがる」
「唸っとんのはええけど、さっさと食わんと出遅れるで?」

そう言われて改めて周りを見回してみると、女の子たちはもう食事を終えてたし、蘭や和葉ちゃんも〆のデザートの最後の一口に差し掛かってた。

「……オメーの箸寄越せ」

新しい箸が欲しい所だが、それ以上に今は時間が優先だ。
とっくに食い終わってた服部から箸を奪おうとしたら、横から新しい割り箸が差し出された。

「あの、これ……」
「サンキュ」
「あ、ううん……」

笑顔で礼を言ったつもりだったがちょっと失敗したらしく、箸を差し出してくれた女の子の頬がひくっと引き攣った。

……まあ、いい。
今度こそさっさと食うぞ!!
そして蘭を確保だ!!

きびきびと箸と口を動かして、さあゴールだって時に、蘭たちのテーブルからガタガタと椅子を引く音がした。

「じゃあ、私たちお先に」
「この先はついて行かへんから」
「蘭ちゃんと和葉ちゃんは俺たちで送っていくから、次の場所には先に行っててくれな」
「また後でな」

ちょっと待て!!

店を出て行く蘭と和葉ちゃんと野郎共。
俺の手の中で、三膳目の箸が折れた。





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平次は和葉ちゃんから『あーん』してもらってちょっと落ち着いたけど、新一は放置プレイ?
by 月姫

「 オメー、まさか服部に……ダメだ!ヤツごときに蘭はもったいなさすぎる! 」



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