新蘭の平和観察日記 −8月1日土曜日R− | |||||
どうしてだか知らないけど、何度もお箸を折って食事を中断している新一はいつもなら絶対に有り得ない程誰よりも食べるのが遅くなっている。 前に居る服部くんはもう終わっているし、周りの女の子たちもほとんど食べ終えているのに。 新一だけは、未だにデザートの山葡萄ゼリーに手も付けていないの。 新一は出されたモノは全部綺麗に食べる主義だから、これは今がチャンスかもしれない。 私はちらっと和葉ちゃんに視線を投げる。 すると和葉ちゃんも何は言わない私にコクリと頷いてくれた。 それと和葉ちゃんの隣に座っている二宮さんまでもが、うんうんてしてくれる。 更には隣に居る大野さんから、とっても小さな声だけど「行こうか」って聞こえて来たの。 松岡さんと松本さんも暗黙の了解みたいで、ゆっくりとした動作で立ち上がっていた。 「じゃあ、私たちお先に」 「この先はついて行かへんから」 「蘭ちゃんと和葉ちゃんは俺たちで送っていくから、次の場所には先に行っててくれな」 「また後でな」 私、和葉ちゃん、大野さん、二宮さんのセリフはまるで流れるように自然。 聞いてる新一たちには、全部纏めてひとつのセリフとして聞こえたかもしれないくらいに。 それなのにお店から出るスピードは普段よりは確実に速かったから、自分でも少し笑えたの。 「「「「はぁ…」」」」 しかもドアを閉めると同時に聞こえて来た、大野さんちの絶妙に揃ったため息。 「どないしたん?」 和葉ちゃんは顔と態度に?に表してるけど、私には4人の心境がとってもよく理解できた。 きっと、今のため息は自然に出てしまったモノに違いから。 あの二人の呪縛から解放され、一気に体の力が抜けたんだよね。 でも、ここでゆっくりしてたらダメよ! とにかくここは直ぐにでも逃げ出さなくては、確実に新一たちに捕まってしまうじゃない。 私がそう思ってると、すぐに店の中から騒がしい声が聞こえ出したの。 だから私たちは誰が急かす分けでもなく、全員びっくりするぐらいの早さで車に向かった。 大野さんが手早くロックを解除すると、後のドアを左右から開けて私と和葉ちゃんが飛び乗る。 しかも、何故だか私の次に松岡さんが和葉ちゃんの次に松本さんが無理やり乗って来たの。 もちろん運転席には大野さん、助手席には二宮さんが座ってる。 「え?」 「なんでこうなんの?」 私と和葉ちゃんの驚きは当然よね。 だって、今回は大野さんと順番でいけば松本さんが一緒に乗る予定だったはず。 「ごめんな。後ろ狭くて」 二宮さんがシートベルと締めながら、後ろを振り向いて謝ってくれたけど。 「出すぞ」 と言う大野さんの一言で、車は動き出したてしまった。 「ちょ〜待んかい!!」 「逃げんじゃねぇ〜〜!!」 正に間一髪。 伸ばされた新一と服部くんの手が、窓の外に迫っていた。 その後ろにはもちろん逆巻さんたち大勢の女の子を引き連れて。 新一たちの叫び声や形相も凄いけど、その後ろで必死に新一たちを引き止めようとしている女の子たちも凄かった。 よかった…逃げられて……。 あの状況で捕まっていたら、確実に血の雨が降っていたに違いないから。 「「はぁ〜〜〜」」 今度は私と和葉ちゃんのため息が綺麗に重なった。 「なんか…命拾いした心境っす…」 「それ、言えてる」 マジで工藤と服部怖ぇ〜〜!と続いた松岡さんと松本さんの声には、本当に恐怖の色が滲み出てたし。 「でもさぁ、寿命が少し延びただけかもね」 「ニノ。それ冗談になってないぞ」 前から聞こえてきた二宮さんと大野さんの声にも、苦渋の色が色濃く出ていた。 「皆が無理やりにでも、乗り込んで来た意味がよぉ分かったわ」 「だね。あの場にだけは残りたくないよね」 車の中になんとも言えないおかしな空気が満ちてる。 少し…ううん、とても困ったな的重苦しい感じ。 でも、どこか何だか心の底から湧き上がって来るような楽しい感じ。 その二つが合わさったなんとも言いがたい空気だったけど、それはいつしかくすくす漏れ出した笑い声に変わっていたの。 最初に誰が笑い出したか分からなかったけど、いつも間にか皆笑い出していた。 もう楽しくて堪らないって感じで。 「今日はほんまに誘ってくれてありがとな」 和葉ちゃんがまだ半分笑ったままの状態で、目に涙を浮かべながらそう言った。 だから私も素直にそれに頷いて、 「大野さんたちが誘ってくれなかったら、こんなに楽しい時間を過ごせなかったはず。本当に今日は私たちに声を掛けてくれてありがとうございました」 心からの感謝を込めて声にした。 「どうしたの改まって?」 二宮さんが不思議そうに聞き返すから、和葉ちゃんがすかさず答える。 「やってほんまに楽しかったやもん。平次や工藤くんを足し抜けるなん、あたしらだけやったら絶対無理やし。それに退屈になるはずやった時間がこんなに楽しい時間になって、更に皆とも友達になれたんやから、これはもう感謝するやろ」 「……だったらさ、感謝のついでに今後の俺たちの身も案じて欲しいな?」 少し考えた二宮さんからは、そんな返事が返って来たの。 ははは…… 確かにね。 私と和葉ちゃんも少しだけ困った様に目配せしてから頷いた。 「一応、出来るだけのフォローはしてみるわ」 「がんばります」 まだまだ今日は長いってことよね。 |
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今日はまだまだ終わりそうにありません。(笑) by phantom 「 馬鹿なことばっかり言ってないで、少しは私の言うことも聞きなさい!!はぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!! 」
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