「 CHESS 」
notation 00
「 opening 」
「あたしな、平次のことがずっと好きやったんよ。」

和葉は背を向けて新幹線に乗り込もうとしていた平次に、思い切って言葉を投げかけた。
平次は驚いた様に、その場に立ち止る。

「すまん。俺はお前んことをそう言う風に見ることは出来へん。」

「ええよ。平次があたしんことなんとも想うて無いんは分かってたから。」

淀みなく返された平次の言葉に、和葉は薄い笑みを添えて返した。

「俺らは幼馴染で・・・・・兄妹や・・・。」
「・・・そやね。」
「俺にとって和葉は大切な家族や・・・。」
「・・・うん・・。」
「これからもずっと・・・。」
「・・・うん。」
「・・・・・。」
「ほな。行ってらっしゃい平次。」
「和葉もこちでがんばれや。」
「おおきに。平次もがんばりや。」

平次の返事か聞こえる前に新幹線のドアは静に閉り、和葉はせいいっぱいの笑顔で平次を送り出した。
しかし平次が乗った新幹線が見えなくなると、和葉にさっきまでの笑顔は無く、その場にしゃがみ込み声を殺して泣き続けたのだった。

平次は東京の大学を選び、和葉は大阪の大学を選んだが故の別れ。
本当は和葉は何も言わないつもりだった。
けれど歩き出す平次の背中を見て、耐え切れなくなってしまった。
こうなることが分かっていたのに、自ら自分の想いにリザインしたのだ。
もう、これ以上引き摺らない為に。


負けが分かっているゲームを、いつまでも続けることは出来無いから。





はい。「CHESS」 notation00 「opening」でした。
この物語は、ここから始まります。
とてもphantomらしい、笑えない内容になる予定です。
しかも、めっちゃ不定期連載になります。(笑)
どうぞ、よろしくお願いします。
by phantom


■CHESS用語■
オープニング(opening)=チェスにおいて、ゲーム序盤の駒の動きを指す。
リザイン(resign)=不利な方が負けを認め、終局まで打たずに(指さずに)ただちにゲームを終えること。
            自分のキングを倒すことでもリザインの意思は表せる。
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「 notation 01 」