CROW 3。。 | ||
それから、また和葉はいなくなってしまった。 夏美とも、あの後すぐに別れてしまった。 平次はその後、恋人といえる人を作っていない。 東都大学を卒業し、警察学校に入ることが決まっている平次を珍しく新一が飲みに誘った。 始めは、事件の話とか他愛ない会話をしていた二人だったが、新一がゆっくりあることを話始める。 「なぁ、和葉ちゃんに会ったか?」 「なんや急に。」 「オメェ、こっち来たころ和葉ちゃんのこと探してただろ。」 「ああ、そやけど、結局見つけられへんかった。」 「それから、一度も会ってないのか?」 「いや、去年一度だけ和葉が会いに来た。」 「でっ?」 「そのころ付き合うとった女と鉢合わせして、またそれっきりや。工藤こそ、どないしたんや。いきなり、和葉んことなんぞ持ち出しおって。」 新一はグラスを一揆に開けた。 「オレは、一度だけ和葉ちゃんに会いに行ったんだ。」 「 ?! 」 「2年前の春、どうしても直接彼女に謝りたくて、和葉ちゃんの大阪の友達に無理言って和葉ちゃんの居場所を教えてもらったんだ。」 「アイツ、俺には絶対教えへんかったくせに。」 「和葉ちゃん、どこにいたと思う?」 「どこや?」 「アメリカ。」 「はぁ?」 「ロサンゼルスの大学に通ってたぜ。一人暮らししながら。」 「お前、何で俺に言わへんかったんや!」 「オメェに言わないことが、和葉ちゃんが会ってくれる条件だったんだ。」 「・・・・・、さっき、和葉に誤るとか言うとったな。何をや。工藤新一がわざわざアメリカまで行って、何を和葉に謝るんや。和葉とまともに話もしたことないお前が?」 「東都大入試の日。これだけ言えば、分かるだろ。」 新一は言葉を吐き捨てた。 平次の表情が変わる。 「いまさら、オメェも蘭も攻める気はねぇ。蘭はオレが知ってることを知らねぇし、今は蘭は俺の恋人だからな。あの時の蘭の気持ちも分かる。工藤新一がいなくなって2年、しかもコナンもいなくなって蘭のヤツが限界だったことが。そんな蘭をオメェが見捨てられなかったことも。解毒剤の副作用で苦しんでるオレのもとに、オメェと蘭の写メールが誰からか送られてきたんだ。抱き合ってるヤツとホテルに入ってくヤツと出てくるヤツの3枚がな。その時のオレは尋常じゃねぇ状態だった。自身の気持ちがおかしくなりそうだった。いや、すでにおかしかったのかもな。どうして、オレだけがこんな思いをしないといけない。誰かがオレと同じ苦しみを味わってもいいはずだ。そう思ったんだ。そして、オレは和葉ちゃんにメールを非通知で転送した。」 新一は辛そうだった。 平次も返す言葉が見つからない。 「オレはやっちゃいけないことをしたんだ。オメェのことが好きな和葉ちゃんに、蘭のことを親友だと思っている和葉ちゃんに、絶対にやってはいけないことをしたんだ。和葉ちゃんにしなくてもいい苦しみを与えてしまったんだ。・・・・・・・だから、どうしても直接会って謝りたかった。」 二人の間に嫌な静けさ流れる。 「許してもらえない覚悟でいたオレに、和葉ちゃんは笑顔で返してくれた。分かってたって。なんとなく、オレからだと思ったって言われた。そして、気にしなくていいとも言ってくれた。オレはなにも悪くないと。あんな良い子いないよな。」 「ああ。」 その夜、新一は一度も平次を責めることはなかった。 また、平次も同じだった。 しかし、新一は平次に話さなかったことが一つだけあった。 それは、自分が和葉を抱いてしまったことだった。 和葉に謝りにロスに行ったとき、彼女は誰も知らない場所でたった一人で大学に通っていた。 誰に頼るわけでもなく、不慣れな言葉に必死に慣れようとしていた。 許してもらえないと思っていた自分を、優しい笑顔で温かく迎えてくれた。 彼女の口から一度も、自分を責める言葉は聞こえてこなかった。 だから、あまりに悲しそうに微笑む彼女を抱きしめずいにはいられなかったのだ。 新一の心の中に、平次への罪悪感がなかったわけではない。 しかし、自分の大切な人に触れた平次。 平次が本人が思っている以上に和葉を求めていることを、新一は知っていたから。 その平次の大切にしている人を汚したい気持ちも、その時の新一になかったとは言えなかった。 平次は警察学校を卒業し、大阪府警に配属された。 刑事の仕事に没頭した。 何をおいても仕事を優先した。 1年後には、府警でも有名なやり手の刑事になっていた。 やり手で将来有望で容姿のいい平次がモテナイわけがなく、府警中のいや平次と関わった女性からの告白やら誘いは日常茶飯事だった。 平次もまったく女性に興味が無いようでもないのだが、一度も彼女を作ったことはない。 「なぁ、服部。今度の京都府警との合同捜査、お前も参加するんだよな?」 「ああ、そうや。」 調書を書いていた平次に話しかけてきたのは、同期の久保冬樹だった。 「知ってるか?京都府警の美人刑事。」 「知らん。そんなんおるんか?」 「何でも、一目見たら忘れられないくらいの美人らしいぜ。楽しみだなぁ。早く見てみてぇ。一目惚れとかしたりして。」 「お前、それ多いな。」 「いいじゃねぇか。人生短いんだ、いっぱい恋しないとな。服部こそ、モテルんだから女くらい作ったらどうだ。いいぜ〜〜〜。」 「そのうちにな。」 「相変わらずつれね〜ヤツだな。」 大阪・京都府警合同捜査会議。 京都府警会議室。 「う〜ん?いないなぁ。」 「何や、冬樹?」 「ほら、例の美人。」 その時、数人の京都府警の刑事が会議室に入って来た。 「おっ!いたいた。噂どおり、すげ〜〜美人。」 冬樹の声に入り口を見る平次。 そして、平次の目はそこに釘付けになった。 いや、その美人刑事にだ。 ・・・・・和葉。 噂の美人刑事は和葉だった。 和葉は平次と同じ刑事になっていたのだ。 黒のパンツスーツを着こなし、長い髪は頭の後ろで一つに纏めている。 幼さが消え、すっとした大人の女性になっていた。 「おいっ、服部。」 「あっ、ああ。」 「なんだ〜、お前も彼女に一目惚れか?」 冬樹の言葉は平次には聞こえていない。 和葉は平次の方を向くことなく、同僚の京都府警の刑事たちと席に着く。 会議の間中、平次は和葉のことが気になって会議に集中することが出来なかった。 和葉が刑事になってるなんてことは、平次には思ってもみなかったことだった。 会議終了後、大滝刑事が和葉に声をかけた。 「久しぶりやな、和葉ちゃん。」 「大滝さんも。」 二人は仲良さそうに話している。 「えっ、彼女、大滝さんの知り合い?そういやぁ、さっきの自己紹介確か、遠山って・・・・・・・もしかして、遠山本部長の・・・・・。」 「そうや、遠山本部長の一人娘や。」 「うん?服部、知ってんの?」 「俺の幼馴染でもある。」 「え〜〜〜〜!!!だったら、紹介してくれよ!」 しかし、平次は和葉に話かけるのを戸惑った。 「平ちゃん!」 そんな平次を大滝刑事が呼んだ。 今日、初めて平次と和葉の視線が合った。 「久しぶりやな。」 「ほんまやね。」 和葉は綺麗に微笑んだ。 「和葉が刑事になっとったとわな。」 「以外やった?」 「まぁな。」 「服部〜〜〜。」 「うるさいヤツやなぁ。こいつ、俺の同期で久保や。」 「始めまして、久保冬樹警部補であります。恋人募集中なんで、よろしく!」 「こちらこそ、遠山和葉警部補です。よろしくお願いします。」 しばらく世間話をしていると、和葉を呼ぶ京都府警の刑事たち。 和葉は軽い挨拶を残すと行ってしまった。 「いいっ!いいっ!最高!オレ、アタックしようかな?」 「止めとけ、あれはえらいじゃじゃ馬やで。」 「いいじゃん、じゃじゃ馬。乗りこなしてみて〜〜。」 「あかん!」 「何だよそれ。」 「あっ、いや、何でもない。」 そんな平次を大滝だけが、複雑な表情で見ていた。 それっきり、和葉に会うことはなかった。 平次と冬樹が帰ろうと京都府警の入り口を出ようとしていた。 「服部くん?」 後ろから平次に声をかけて来たのは、木更津華月だった。 「木更津か?」 「やっぱり、服部くんや。久しぶりやね。」 「おお。お前もここか?」 「うちは交通課。服部くんも今度の合同捜査に参加してんの?」 「そうや。」 「やったら、うちのお姫さんにはもう会うたんや。」 華月が含み笑いを抑えて平次の顔を見る。 「和葉、綺麗になっとったやろ。惚れ直した?」 「お前なぁ。」 「・・・・・服部くん、これから時間あらへん?」 今度は急に真顔。 「これからか?」 「どうしても、服部くんに言うときたいことがあんねん。」 「・・・・・・和葉のことか?」 華月は無言で頷いた。 平次は華月に付き合うことにした。 これには、冬樹が驚いた。 平次が女の誘いに乗るなど、ないことだったからだ。 華月は平次を京都府警から少し離れた小料理屋に連れて行った。 「明さんこんばんわ〜〜。ちっと奥のテーブル借りてもええ?」 「お越しやす、華月ちゃん。ええよ。何か飲む?」 「服部くん何にする?」 「いやっ、俺、車やから。」 二人は何も頼まずにテーブルに着いた。 そして、徐に華月が話し始める。 「今日、和葉に会うてどうやった?」 「どう言われてもな・・・・。」 「和葉、綺麗になっとったやろ?」 「それは、否定せん。」 華月は少し悩んで切り出した。 「服部くん、和葉のことどう思うてんの?」 「さっきから何やねん。」 「もし、服部くんがまだ和葉んこと、だたの幼馴染て思うてんのやったら、これ以上和葉に近寄らんといて。」 華月はまっすぐに平次を見て言い切った。 |
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