CROW 5.。 | ||
葉は風邪をひいて熱を出していた。 和葉は明から葉を受け取り平次に連れられて、病院へ行き、自分のアパートまで送ってもらっていた。 葉の容体は、病院で治療を受け、今は落ち着いて眠っている。 「ありがとう。・・・・・・お茶でも飲んでく?」 「ほな、ごちそうになったるわ。」 平次はどっちにしても、今日、和葉と話をするつもりだった。 何度か新一に連絡しようかとも思ったが、和葉が新一に話していない以上やはり、自分が言うことは出来ないと思った。 そして、平次自身、自分の気持ちをどうしようもなかった。 久しぶりに会った和葉、華月から聞いた話、そうして葉の存在、新一への嫉妬、それらすべてが平次の中での和葉の存在の大きさを改めて主張していた。 忘れようとして、忘れられるような存在ではなかったのだ。 いや、平次は本当は一度も和葉を忘れたことなどなかったのだ。 和葉は葉を部屋に寝かし、平次はもう一つの部屋の座卓に座らせた。 「コーヒー、ブラックやったよね。」 「そや。」 和葉は平次のコーヒーと、自分のココアを持って座った。 和葉のアパートは昔、平次がよく知っていた遠山家の部屋と違い可愛らしい雰囲気ではなかった。 必要な物だけがある、どこか殺風景とさえ感じさせる部屋だった。 平次は口を開いた。 「大学を卒業するときに、工藤から話聞いた。」 「そう。」 「俺は・・・。」 平次の言葉を和葉がさえぎる。 「もう、ええよ。もう、今更やろ。何年前の話してんの。」 「和葉はそれでええんか?」 「やから、今更やて。工藤くん帰って来て、今は蘭ちゃんと一緒におるんやし。何も問題ないやん。」 「お前は?」 「あたしは・・・・・今は、毎日が忙しくてそれどころやないし。あんたも、そんな昔のこと早よ忘れや。」 和葉は笑顔で言いきった。 「子供の父親・・・・・・・・・・工藤・・・・やろ。」 そんな和葉に平次は耐え切れなかったのだ。 和葉の顔色が急に変わる。 「なっ・・・・・何言うてんの!そんなん、あるわけないやろ!」 「やったら誰や!」 「あっあんたに関係ないやん!」 「関係ないことあるかい!誰や!」 「・・・・・・・・・・。」 「アイツやないんやったら、誰か言えるはずやろうが!言うてみぃ、和葉!」 和葉は唇をかみ締めて、俯いたままだ。 「ロスでお前、アイツに会うてるやろ。4年まえに。子供の歳ともあう。誰にも言わへんかったんは、相手が工藤やったからやろ。」 和葉は小さく呟いた。 「・・・・・・何でそう思うん?」 「子供の・・・葉の顔がコナンとダブった・・・・・。」 コナンが新一だったことは、和葉も知っている。 「ははは・・・・・・・女の子は父親に似る言うもんね・・・・・・・・。」 和葉の消え入りそうな声は、それでも平次の言葉を肯定するものだった。 分かっていても、改めて和葉の口から聞かされた平次は動揺が隠しきれない。 「・・・・・なんでや・・・・・・・・・なんでアイツと・・・・・・・。」 「・・・・・・・・軽蔑してくれてええよ。」 「俺の・・・・・俺のせいや・・・・・・。」 「関係ない。」 「俺がねぇちゃんと・・・・。」 「関係ない言うてるやろ!」 「やったら・・・。」 「誰のせいでもない!これはあたしの問題や!」 「やったら、何で工藤に子供のこと言わへんのや!」 「言えるわけないやろ!工藤くんには、蘭ちゃんがいるんやで!」 「そんなん、お前が一人で苦しむ理由にならんやろが!」 「ええねん!!」 和葉は平次に掴みかかった。 「絶対、誰にも言わんといて。もちろん、工藤くんにもや!お願いや!」 「和葉・・・・・。」 和葉は泣いていた。 「もう、誰も苦しんでほしくないねん。誰にも辛い思いしてほしくないねん。」 「・・・・・・・・あたしは平気やから・・・・・・あたしには葉がいる・・・から・・・・・・・・。」 平次はそんな和葉を抱きしめていた。 思っていたよりも、ずっとずっと小さな細い肩。 「あかん・・・・。」 「何でや。」 「いま・・さら・・・・や・・・・。」 和葉は平次を突き放した。 「今更、同情なんかいらへん!」 「そっ・・・。」 「6年前も3年前もあんたにあたしは必要なかったやんか!」 それは和葉の悲痛な叫び。 6年前、ココロが壊れるような想いをした、それなのに和葉は平次にまともに話すら聞いてもらえなかった。 だから、忘れようとした。 そして、葉が生まれて、それでも苦しくて、どうしても平次に会いたくて。 だから3年前勇気を出して平次に会いにいった。 だけど、すでに平次には恋人と呼べる女性がいた。 やはり、自分は必要ないと改めて思い知らされた。 「あんたにはあたしなんかいらへんのや!」 「 違う!! 」 「違わへん!今更や言うてるやろ!」 「 今更やない!! 」 さらに何か言いかけた和葉の口を、無理やり平次が塞いだ。 逃げようともがく和葉をさらに強く抱きしめる。 どんなに突き放そうとしても、和葉が平次に力で敵うわけがなかった。 それでも和葉は平次に甘えそうになる自分を必死で諫めていた。 今の自分が平次に泣きつくことは、許されないと言い聞かせて。 長い長いキスの後、平次はやっと和葉を解放した。 「あかんて・・・・ほんまにあかん・・・・・。」 「言うとくけどな、和葉。6年前も3年前も俺から逃げ出したんたは、お前やで。」 「なっ・・・・・。」 「もう、絶対に逃がさへん。覚悟しとけや。」 平次はそう言い残すと、部屋を出ていった。 平次の気持ちは決まっていた。 この2週間どんなに考えても悩んでも、いつも最後にでる答えは同じだったのだ。 和葉を誰にも渡さないと、たとえ子供の父親が新一であろうと。 そして和葉がどんな態度を示そうと、自分のモノにすると決めたのだった。 自分が葉の父親になると。 和葉は平次の態度が信じられなかった。 それは、単に責任感から来ているモノだと思った。 平次のせいで和葉がシングルマザーになった責任を感じているのだと。 それは、同情以外のなにものでもないのだと。 そんな平次を自分が縛ることは出来ないと。 だが平次は忙しい時間の合間を作っては、和葉の前に現れるようになった。 和葉と時間が合わないときは、葉の相手をする。 将を射ぬならまず馬からではないが、葉に気に入ってもらわなければダメだというのは華月の入れ知恵である。 和葉の抗議などに耳を貸すような平次ではない。 葉はすっかり平次に懐いてしまった。 そんなある日、和葉の追っている犯人が大阪府に逃げ込んだ為、協力を頼みに和葉は大阪府警を訪れた。 和葉が大阪府警に顔を出すのは、何年ぶりだろうか。 久しぶりに会う人たちと挨拶を交わしていく。 捜査課に着くのにどれくらい時間がかかっただろう。 そこに平次の姿がなかったことに、和葉はほっと息をついた。 そして、改めて捜査の協力、和葉と共に捜査してくれる人をお願いする。 その申し出には、名乗りを上げる者が多かった。 もちろん、そのなかには冬樹もいた。 冬樹のことは知ってるし、華月からもよく聞いていたので彼に協力してもらうことにした。 彼の席は平次の席の隣だったので、必然的に和葉は平次の席を使うことになった。 二人で、捜査場所を打ち合わせる。 「ちょっと〜〜、あなた何で平次さんの席に座ってるの?」 そんな和葉に突然、女の声が降ってきた。 「えっ?」 和葉が声がする方を向くと、可愛らしい二十歳くらいの女性が和葉を見下ろしている。 「あ〜遠山さん気にすることないよ。」 冬樹はまったくその女性を気にしていないようだった。 「しかし・・・。」 「いいって、その子、服部の追っかけだから。」 「違います〜。私は平次さんのフィアンセなんです!だって平次さん、一生、私のこと守ってくれるって言ったもの。」 和葉は俯いたまま動かない。 冬樹は和葉が心配になった、平次と和葉のことは華月から色々聞いているからだ。 「遠山さん?」 「・・・・・・・・。」 「遠山さん、大丈夫?」 ・・・・・・・・そうやん。あの男はいつも期待させるだけ期待させて、最後には思いっきり落としまくってたやんか・・・・。 「何でもないです。ほな、久保さん行きましょうか?」 「そうだね。」 二人は立ち上がった。 そして、和葉は平次の椅子をその女性に勧め、 「どうぞ、お幸せに。」 と笑顔で言った。 「ありがとう。あなたも刑事さんだったの?だったら、披露宴には来てね。」 「時間がありましたら。では、服部警部補にもお幸せにとお伝え下さい。」 和葉はそれはそれは綺麗な笑顔を残して、その場を後にした。 「遠山さん、あの子のことは気にしなくていいから。服部も相手にしてないしさ。」 「あたしはまったく気にしてへんよ。」 |
||
|
||
|
||
|