「 CROW - after that - 」 1。。 | ||
「ほんま、今日は世話になったな。」 「何言ってんだ、今更。オメェがいきなり押し掛けて来るなんてよぉ、いつものことだろ。しかも、まだ過去形じゃねぇ。」 「うん?そか?」 「そうだ!」 新一は昨夜、平次から「明日ディズニーランドに行くんやけど、お前らも付き合えや。」と言われ、無理やり待ち合わせをさせられ、二家族総勢7名での落ち着く暇の無い休日を過ごすはめになったのだった。 服部家は平次と和葉と葉と良平の4人。 工藤家は新一と蘭と杏樹の3人。 しかも、平次たちはそのまま工藤邸にお泊りである。 したがって今2人がいるのは、工藤邸のリビングにあるソファー。 蘭と和葉は、一緒に寝ると言い出した子供たちを一部屋に押し込んで、寝かせている最中だ。 「しかしあれやな、女の子ちゅうんはほんまよう分からんわ。いきなり『お姫さまになりたい』言われたときは、焦ったんやで。頭に浮かんだんは『大奥』やったからなぁ。」 「・・・・・・・・・・。」 新一にジト目で見られて、慌てて言葉を付け足す。 「そやかて知らんがな、ディズニープリンセスちゅうんがあるんやなんか。」 「まぁ確かに。オメェがシンデレラとか観てるのはキモ過ぎて想像出来ねぇしな。」 「何やねんそれ。リトルマーメードなら葉と観たで。」 「・・・・・・・・・・。」 平次の葉への溺愛ぶりは新一もよく知っている。 今日も葉が同い年くらいの男の子と楽しそうに話しているのを、不機嫌そうに見ていた様子からも十分に伺える。 和葉も「ちょっと風邪ひいて学校休ましたら、もう煩いくらい電話してくるんやで。仕事せいっ!ちゅうねん。」と言っていた。 将来現れる葉の彼氏はきっとさぞ大変だろう。 しかし、新一には平次のその葉への愛情がどこから来るものなのか分からない部分があった。 新一が始めて葉を紹介された日、葉は3才だと言った。 だとしたら、葉が生まれたのは和葉がまだ学生だった時になる。 そのころ平次は和葉に会えなかったはずだ。 葉は平次の子供ではない。 ・・・・・・・・・・・・だったら誰の・・・・・。 新一が葉と会ってからずっと持ち続けている疑問。 心にひっかかって消えてはくれない疑問。 気になることがあると究明せずにはいられない新一が、あえて目を逸らしてきたモノ。 本当は葉に会った日に出ていた答。 葉の年齢、葉の容姿、導き出される答は一つ。 身に覚えのある新一には、重すぎる答。 ・・・・・・・・・・・・オレは何をした・・・・・。 和葉は新一に何も言ってこなかった。 平次と再会するまで、彼女はどうしていたのだろうか。 決して楽な年月ではなかったはずだ。 それなのに、和葉は一度も文句を言って来たことはない。 ・・・・・・・・・・・・服部は知っているんだろうか・・・・・。 和葉を苦しめ、謝りに会いに行ったのに再び彼女を苦しめてしまったことを。 平次は和葉の人生を狂わせてしまったのは自分だと言っていたが、本当は違う。 本当に彼女の人生を狂わせてしまったのは新一だということを。 「服部・・・・・・。」 「何や。」 さっきから黙り込んでいた新一がやと口を開いた。 「葉ちゃんは・・・。」 「葉は俺のや。」 新一の言葉を平次は最後まで言わせなかった。 平次には新一が何を言いたいかが分かっているのだ。 強い口調ではなかったけれど、平次の声は新一を黙らせるには十分過ぎるモノがあった。 「和葉も葉も俺のやで、工藤。」 ・・・・・・・・・・・コイツは全部知ってるんだな・・・・・・。 全部知った上で、平次は和葉も葉も心から愛している。 だから、今の幸せを壊すようなことを口にするなと言っているのだ。 それでも新一はこれだけは止められなかった。 「オレは許されるんだろうか・・・・。」 「それを言うんやったら俺もやで。」 2人はあえて「ごめん」とか「すまん」とかは言わない。 それは、彼女たちを否定してしまうことになるからだ。 「工藤、今、幸せか?」 「・・・・・ああ。」 「やったら、ええんちゃうか。」 「お前は?」 「見て分からんか?」 「愚問だったな。」 お互いに苦笑が漏れる。 「何か飲むか?」 「おっ、ええなぁ。うまいもん飲ましてくれや。」 「任せとけって。」 そう言うと新一は秘蔵のブランデーを取りに行った。 平次の態度に、少し救われたような気がした。 和葉も葉も今は平次の側で幸せそうだ。 自分は何も気づいていない振りを通そう、そう心に決めた新一だった。 「はぁ〜〜、やっと寝たわ・・・・・。」 「子供ってどうしてこんなに元気なのかな?」 「こどもやからやない?」 2人の母親は子供たちの無邪気な寝顔を見ながら、小さく笑った。 「ほな、あたしらも下おりよ。」 そう言って和葉はドアに手を掛けた、しかし、蘭は動こうとしない。 「どないしたん?蘭ちゃん?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・和葉ちゃん・・・・・・・・私ね・・・・和葉ちゃんに謝やらないといけないことが・・・・・・あるの・・・・・・。」 蘭の表情はさっきまでの母親のモノではなかった。 「蘭ちゃん、隣の部屋に行かへん?」 和葉は自分たちが使わせてもらっている部屋に、蘭を誘った。 蘭の様子から、いくら寝ているとはいえ子供たちがいる部屋で出来る話ではないのが分かったからだ。 ドアが閉まると同時に蘭は和葉に謝りだした。 「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。私・・・・わたし・・・・・・。」 「蘭ちゃん・・・・・・・。」 和葉はこんなに取り乱した蘭を見たことが無かった。 「私・・・・服部くんと・・・・・・・・・ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい。」 蘭はあの日のことを忘れることが出来なかったのだ。 それは、淡い思い出などではなく、和葉への罪悪感で大きくなる一方だった。 新一は高校を卒業するようになっても帰ってこなかった。 それは、もう2人で同じ場所にいられない、そんな思いを蘭に抱かせ始めた。 ・・・・・・・・・・新一はもう帰って来ないかもしれない・・・・・・・・・・。 何度コナンに聞いても平次に聞いても、二人とも何もはっきりしたことは教えてくれなかった。 そして、また今度はコナンまでいなくなってしまった。 蘭は本当の意味で途方にくれてしまう。 何かしないといけないのに、何も手に付かない。 ・・・・・・・・・・みんな居なくなってしまう・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・私の側から消えてしまう・・・・・・・・・・。 涙も涸れてしまうほど、笑顔など忘れてしまうほどに、蘭は一人だった。 そんなある日、蘭の様子を心配した平次が一人で訪ねて来たのだ。 そう、あの東都大入試の帰りに。 |
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