※この話しは「平蘭」です。「 CROW - after that - 」 2。。 | ||
平次が蘭を訪ねたのは、冬の日が暮れたころだった。 事務所では相変わらず毛利小五郎がビール片手にテレビを観ている。 「お父さん、ちょっと出て来るね。」 蘭は父親に自分の醜態を見せたくなくて、平次を近くの公園まで連れっていった。 平次に対して、今の自分が冷静にしていられる自信などなかったからだ。 冬のしかも日の暮れた公園に他に人の姿はない。 「ねぇ服部くん、新一どうして帰って来ないの?」 蘭は自分を抑えて、平次の方を見ないようにして呟いた。 「あいつの今抱えとる事件がややこし過ぎて手まどっとるだけや。」 平次は当たり障りのない返答を返す。 「それ・・・・・本当なの?」 「ほんまやって。俺んとこにもよう助言求めて電話して来よるしな。」 「だったら、服部くんは新一がどこにいるのか知ってるのよね。」 蘭はゆっくり顔を上げた。 「そっそれはやな・・・・・。」 縋るような瞳に平次は言葉に詰まってしまう。 本当は今、新一がどこにいるかはもちろん知っている。 しかし、それは平次が蘭に伝えてはいけないことだ。 「だったら、教えて!新一がどこにいるか教えて、服部くん!」 「俺もはっきりした場所は聞いてへんのや。」 「だいたいでいいの!後は私が行って探すから!お願い服部くん!新一がどこにいるのか教えて!」 平次は蘭の必死の姿を目の当たりにし、本当のことを言ってやれない自分に苛立ちを感じていた。 「もう、ただ待ってるだけは嫌なの!新一に会いたいの!」 「それは・・・・出来へん。工藤はねぇちゃんを危険な目に遭わせたないんや。」 「危険てなに?服部くんだって、いつも和葉ちゃんと一緒じゃない!」 「工藤が追うとるんは、今まで俺らが遭うたようなモンやないんや。」 「うそっ!本当はそんな事件なんてないんでしょ!新一が何年も掛かりっきりになるような事件なんて存在しないんでしょ!」 「嘘やない!ほんまに工藤は・・・。」 「信じられない!!」 蘭の悲鳴にた声は平次の言葉を遮った。 「そんなの信じられない!新一まだ高校生なんだよ!いくら探偵だからって、おじさまやおばさまがそんなのいつまでも放っておくわけないじゃない!」 「・・・・・・・・。」 「新一はどこか私の知らない所で普通に生活してるんでしょ。」 蘭の声が急に低くなった。 「きっと私の顔なんか見たくないんだ。」 「何・・・・・言うてんのや。そんなんあるわけないやんか!」 あらぬ方向に行き出した蘭の考えに、平次は慌てて否定するが蘭は止まらない。 「もう、いいよ、服部くん。新一には私なんかより素敵な彼女(ひと)がいるんでしょ。」 「そんなん、おらへんて!」 「新一にとって私はただの幼馴染で、女としては見てもらえなかったんだ。」 「アホなこと言いなや!」 蘭は異様な光を宿した目で平次を見つめた。 「だったら、どうして新一は帰って来ないの?私に女としての魅力がないからなんでしょ。」 蘭の心は黒い闇に覆われていく。 「そんなことあらへんって。」 「だったら・・・・・。」 なのにその瞳からは、大粒の涙が溢れ出していた。 ・・・・・・・・・・・・・誰かにすがりたい・・・・・・・・・・・。 「だったら、服部くんがそれを証明してよ・・・・・・。」 蘭は平次の胸に縋りついた。 「なっ・・・・・。」 平次は慌てて蘭を引き離す。 「何やってんねん!」 「服部くんが証明してくれないんだったら、誰か他の人にしてもらうよ。」 訴えるような声が出てしまった。 気付けば、必死に平次にしがみ付いている自分がいる。 ・・・・・・・・・・・服部くんは新一によく似てる。 ・・・・・・・・・・・そんな彼が私を女として認めてくれるなら・・・・・・もしかしたら・・・・・・・・新一も・・・・・・。 蘭の中には、そんな思いが膨らみ始めていたのだ。 「・・・・・・・・・・・・・・服部くんが私が女だって証明してみせてよ・・・・・・・・・・・。」 今にも壊れそうな声に、平次は蘭を振りほどけない。 蘭が何を言ってるのか分かっているのに。 一瞬、和葉の顔が脳裏に浮かんだ。 ・・・・・・・・・・・・何であいつが出てくんねん・・・・・・・・・・・・。 意味不明の自分の思考にいらついて、反動的に蘭を抱きしめていた。 「本気で言うてんのか?」 蘭は無言で小さく頷いた。 「そうか。」 それから、どちらからともなくネオンがある場所へ向かって歩き始めた。 たどり着いたホテルの部屋で、2人の間に会話は無かった。 蘭は平次の首に腕を回す。 そして、平次はそんな蘭をゆっくりベットに押さえ込んでいった。 そこに、甘い香りはない。 蘭は平次の中に新一を探し、平次はなぜか蘭に重なって見える和葉に苛まれた。 すべてが終わった後、2人に残されたのはお互いの相手に対する罪悪感。 蘭は和葉への、平次は新一への。 どちらも、口を開くこと無くその部屋を後にした。 そのまま、二度と触れ合うことも無く、平次は蘭を送り届けた。 「ありがとう。」 蘭は小さく俯いたまま言った。 それに対して平次は何も答えず、 「ほな、俺帰るわ。」 とだけ告げたのだった。 そんな2人を影からずっと見つめている瞳があった。 彼女は新一から、蘭の様子を見てきて欲しいと頼まれて、偶然見てしまったのだ。 彼女がどうして新一に、非通知で2人の写真を送ったのかは誰にも分からない。 それは、宮野志保だけが知ることだから。 |
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