「 CROW - after that - 」 5。。 | ||
「あんな、蘭ちゃん。・・・・・・葉を生んだんは、みんなには気付いたんがもうおろせへん時期やったから、言うてんやけど・・・・・・・ほんまは違うねん。ほんまに・・・あたしが妊娠に気付いたんは、まだおろそう思うんやったら出来る時やってん。」 和葉の瞳は目の前の蘭に向けられているのに、どこか遠くを見ているようだった。 「あたしな・・・・・・・・・あたし・・・・・・・・・・そん時・・・・・・・・。」 ・・・・・・・・・・・これを言うたらあたしと蘭ちゃん・・・・・・・もう・・・あかんやろな・・・・・・・。 和葉の表情は知らず知らずに、歪み始めていた。 次の言葉を告げるために。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・蘭ちゃんが苦しんだらええ・・・・・・・・・て思うてん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 蘭の目が大きく見開かれ、その瞳の中には、苦しそうな和葉が映っている。 それでも、搾り出すように話を続けた。 「あたしがこの子生んだら、そのことを蘭ちゃんが知ったら・・・・・・・・一生蘭ちゃんを苦しめることが出来る・・・・・・・・・そう思うてん・・・・・・・。あたしはそんな理由で葉をおろさへんかってん・・・・・・・・・母親失格やろ・・・・・・・・・。」 「か・・・ず・・・は・・・ちゃん・・・・。」 「それやのに・・・・・あたしん中で葉は日に日に大きくなんねん。つまらん嫉妬だけで生もうとしてるあたしん中で、一生懸命生まれようとしてんねん・・・・・・。自分がアホなことしてるて気ぃついても、もう遅すぎや・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あたしは誰にも祝ってもらえへん子を産んでしもた・・・・・・・。始めて葉を抱いたときも、自分があまりにちっぽけで、浅はかで、こんなあたしから生まれて来てしもた葉に謝っとったんや・・・・・・・・・・・・・許されるわけなんないんに・・・・・・・・・。それからは葉の世話で必死やった。半年程して一度こっちに帰って来たんやけど、華月以外誰にも言われへんかったわ。あたしんことなんどうでもよかったんやけど・・・葉を・・・・・・・葉のことだけは誰にも否定されたなかったから・・・・・・・・。」 「やから・・・・・そやから蘭ちゃん。」 和葉は蘭の手を両手で強く握った。 「葉は何も悪ないねん!悪いんはあたしやねん!やから葉を否定せんといて!お願いや蘭ちゃん!」 蘭は返す言葉を見つけられなかった。 「あの子、平次のことを本当のパパやって思うてんねん!平次も葉のこと大切にしてくれてんねん!悪いんは全部あたしやねん!」 蘭から見れば和葉は十分母親だった。 今の和葉は必死に葉を守ろうとしている。 「葉は平次の子やねん。そう思うてぇなぁ蘭ちゃん・・・。無理なお願いしてるて分かってる。そやけど・・・・そやけど・・・・・・・・・・・。」 和葉は蘭の手を握り締めたまま泣き崩れた。 「・・・・・・・そや・・ないと・・・・・・・・・葉が・・・あの子可哀想過ぎる・・・・・・・・・あたしが・・・・・・・・・アホやのに・・・・・・・・・・。」 「・・・・・・・・・・・・・・あたし・・・・・・・・・工藤くんにも・・・・・・・・・・嫌な思いさせてんのに・・・・・・・・・・・・・・・。」 今度は蘭が震える和葉をそっと抱きしめた。 自分だけが辛いと思っていた。 今の和葉は幸せだと思っていた。 だけど、本当は和葉もずっとずっと苦しんでいたのだ。 ・・・・・・・・・・・あの時、私は一人ぼっちに耐えられなかった・・・・・・・・・・・・・和葉ちゃんも同じなんだ・・・・・・・・・・・・・。 しかも、和葉を独りにしたのは誰でも無い蘭自身。 その耐え難い孤独は、蘭には痛いほど分かってあげられるモノ。 和葉が蘭を憎んだとしても、それは仕方がないこと。 どんな気持ちで和葉が葉を生んだとしても。 蘭は葉を始めて見たときから心に抱いていた和葉への嫉妬が、新一の子供を生んだ和葉への憎悪が急に恥ずかしくなってきた。 自分より和葉の方がよほど辛くてそして苦しんできたと思ったのだ。 そして、それは今もなお和葉の中で消えずにあると。 ・・・・・・・・・・・和葉ちゃんは私なんかより、よっぽど苦しいんだ・・・・・・・・・・・・・・・。 和葉は葉のことを心から愛している。 だけど、葉は和葉の犯した罪を忘れさせない。 「和葉ちゃん・・・・・・・・・まだ・・・・・・・・・私のこと・・・・・・・。」 「そんなん思うてない!憎まれて当然なんはあたしなんやから!」 さっきとは、完全に立場が逆転している。 「私もね・・・葉ちゃんの存在知ってから和葉ちゃんのこと少し恨んでたの・・・・・・・。」 「・・・・・・・。」 「だから・・・・・・お相子だよね・・・・・・・。」 「ら・・・ん・・・・ちゃん・・・・・。」 蘭は和葉を葉を認めることで、自分も救われたかった。 それは、和葉も同じ。 蘭が葉を認めてくれるなら、少しは自分の罪も許されるのではないかと。 「葉ちゃんは・・・・服部くんの・・・・子供よね。2人見てたら、よく分かるよ。」 蘭は自分自身に言い聞かせるように、声にした。 和葉は新たな涙が溢れ出すのが、止められなかった。 「・・・・ありがとう・・・・・・・ありがとうな・・・・・・蘭ちゃん・・・・・・。」 「和葉ちゃん・・・・・服部くんのこと・・・・・愛してる・・・・・・?」 「・・・・平次のことは・・・・言葉で表せへんくらい・・・・・。あたしには平次が必要やねん。平次がおらへんかったらあたしは自分が保てへん。・・・・・・・・・・・・・・やのに・・・・・・・あたしは・・・・・・平次にまで・・・・・・・・・無理させてる・・・・・・・・。」 「私も・・・・新一に辛い思いさせてる・・・・・・・。だけど、私はもう新一から離れるなんてこと出来ない・・・・・・・。」 2人の瞳はお互いをしっかりと、捉えている。 そして、この部屋に来てから初めて笑みが浮かんだ。 「あたしら我が儘やね・・・・。」 「・・・・ほんと欲張りだよね。」 ドアの外で、そんな2人の会話をただ壁にもたれて聞いている影が二つ。 もちろん、それは平次と新一。 彼らは、いつまで経っても下りてこない彼女たちが心配になって様子を見に来ていたのだ。 子供たちと一緒に寝てしまっていたら、ベットまで連れて行って寝かせてやろうと。 そして、偶然今までの会話を聞いてしまったのだった。 自分たちの傷より、あまりに深い彼女たちの心の傷。 分かってやっているつもりだったが、それだけでは彼女たちを救ってはやれなかったのだ。 自分たちの不甲斐無さに、胸が締め付けられていた。 世間では名探偵だの救世主だのと言われていても、本当はたった一人の大切な人さえ満足に幸せにしてやれない。 彼女たちは自分たちの知らないところで、ずっと苦しんでいたのだから。 2人はそのまま、声をかけることなくその場を後にした。 |
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