「 CROW - after that - 」 6。。 | ||
平次はあの日から東京へ行くまで、和葉の顔すらまともに見ることが出来なかった。 和葉に対してのこの後ろめたいような気持ちを、自分自身どうしていいのか分からなかったのだ。 和葉は何かとても言いたそうにしていたのに。 そしてやっと何となくその理由が分かりかけ、和葉に会いたいと思った時には、彼女はどこにもいなかった。 いつも気が付けば和葉が側にいた。 それは平次にとってあまりに生活の一部になってしまっていた。 和葉が自分について来ることに、疑問を持ったことなどなかったのだ。 その和葉が、自分の前からいなくなった。 華月の言い分からすると、和葉は自分の意思で平次の前からいなくなったことになる。 ・・・・・・・・・・・あいつ・・・・・まさか・・・・・・・・・・。 和葉はあの日の出来事を知っているのかもしれない。 平次は自分のことでいっぱいいっぱいで和葉のことまで気遣ってやれなかったのだ。 よくよく思い起こせば、あれからの和葉は様子がおかしくはなかったか。 ・・・・・・・・・・・今更・・・・・気付いたかて・・・・・・遅すぎや・・・・・・・・。 和葉の話を聞いてやればよかったと何度悔やんだだろうか。 今更、後悔してもどうにもならないのに。 蘭とはあれからもなるべく普通に接してきた。 新一も帰って来て彼女は嬉しそうだ。 それでいいと平次は思った。 あれは悪い夢だったと、彼女が思ってくれればと。 それからは、和葉に良く似た女性をついつい目で追ってしまう自分がいた。 3年が過ぎても、和葉は帰って来ない。 平次は和葉に良く似た女性を何人か彼女と呼んだ。 しかし、その度に余計に和葉が恋しくなるだけだった。 何度、名前を呼び間違えただろうか。 自分が何をしているのかも分かっていた。 分かってはいたが、 ・・・・・・・・・・・和葉はもう俺んとこに帰って来んかもな・・・・・・・・・・・・・。 その寂しさはどうしようもなかった。 やっとやっと和葉から会いに来てくれた時も、同じ過ちを繰り返してしまう。 ・・・・・・・・・・・俺は・・・・・・何やってんのや・・・・・・・・・・・・・。 それからの平次はあえて独りでいることを望んだ。 和葉の代わりなど誰にも出来はしないのだと気付いたから。 京都府警で和葉と再会した時、本当は嬉し過ぎてすぐにでも抱きしめたかった。 だから、声が掛けられなかった。 自分の感情を抑える自信がなかったのだ。 今、思い返しても自分の情けなさに腹が立ってくる。 和葉を手に入れたときに、自分自身に誓ったはずだった。 二度と和葉を泣かせないと。 ・・・・・・・・・・それやのに・・・・・この有様は何や・・・・・・・・・。 平次は自分の不甲斐なさに、己を殴り飛ばしたいくらいだった。 新一は解毒剤の副作用が収まってからも、すぐには蘭の元に戻らなかった。 平次からは早く帰ってやれと言われたが、気持ちが不安定だったのだ。 あの日のことを平次は何も言わない。 だが、新一は知っていた。 冷静になるとメールの送り主など、すぐに特定出来た。 だから、志保を問い詰めてすべてを聞き出していたのだ。 ・・・・・・・・・・・あれは・・・・・蘭が・・・・・・・・・・・・・。 蘭をそういう状況にまで追い込んだのは自分だと、頭の中では分かっていても気持ちがついて来ない。 それに一時の激情にまかせて新一がしてしまったことは・・・。 新一はまず和葉に謝ろうと彼女に会いに大阪に行った。 しかし和葉の姿はどこにもなかった。 彼女の家の前で途方に暮れていると、和葉の友人である華月が声を掛けてきた。 華月の話は、新一の後悔をさらに大きくするモノだった。 そして、和葉はすこしでも早く新一が蘭の元に戻ることを望んでいると言われた。 和葉のその思いの中には、どれだけ色々な感情が込められているのだろうか。 ・・・・・・・・・・・俺以上に和葉ちゃんは・・・・・・・・・・・・・。 自分のしたことをどうしても直接謝りたいからと、華月に和葉の居場所を尋ねたがすぐには教えてはくれなかった。 だが、和葉に聞いてみると言ってくれた。 それから新一は、何も知らない振りをして蘭の元に戻って行った。 蘭は何も言ってこない。 だから新一もあえて何も言わなかった。 華月から和葉の居場所を聞いたときも、事件の事後処理だと言って出かけた。 和葉が会ってくれる条件は、平次に何も言わないことだった。 平次がどんなに和葉に会いたがっているか知っていたけれど、その時の新一には和葉の気持ちの方が大切だった。 そして・・・・。 新一はまた一つ蘭に対して秘密を持ってしまった。 蘭に申し訳無いと思う反面、和葉を放っておけなかったのも事実。 そして、蘭と平次に対する黒い感情があったことも。 蘭のことを何より大切に想っているのは嘘ではない。 平次と和葉が結婚すると聞いた時は、正直、肩の荷が下りたような気がした。 これで、本当にみんな幸せになれると。 しかし、新一もまた葉を見て衝撃を受けた。 ・・・・・・・・・・・あの子は誰だ・・・・・・・・・・・。 平次は葉に「はっとりよう」と名のらせた。 それは、多分、葉は俺の子だと言っているのだろうと新一は思った。 つまり、何も言うなということだ。 蘭も気付いているだろうが、またも何も言ってこなかった。 平次と和葉の結婚式の帰りだというのに、2人は口数が少なかった。 次の日からも蘭は、普段通りだった。 それを蘭が望むならと、新一も何事もなっかたかのように振舞った。 それなのに、蘭の苦しみはどれほどだったのだろうか。 ・・・・・・・・・・・俺は蘭のこと何も分かってやれてねぇじゃねぇか・・・・・・・・・・・・。 新一は自分の愚かさに、自分自身を呪ってやりたいくらいだった。 |
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